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第13話 不完全な荷物

翌朝9時。 今頃は山川弁護士が秘書を連れて寮に乗り込み、音楽事務所の社長に電話している頃だろう。 電話のやり取りはどうなっているのか……なんだか落ち着かない。 今日はオンコールにして、自宅で論文を書くと看護部長に伝えておいた。 ソファに座り、目の前に置いた携帯の画面をじっと見つめる。 颯太も落ち着かないようで、俺のスウェットの上下を着て隣にぴったりとくっついている。 手は俺の太腿に置いて肩を寄せてるから、俺はその肩を抱いたままだ。 まるで恋人同士だが、仕方ない。 昨夜からずっとこうだ。 クイーンサイズのベッドが届くのは1週間後。 だから昨夜は俺の寝室のセミダブルで抱きしめたまま眠った。 おかげで今日は身体があちこちこわばっている。 寝返りができなかった。慣れないからな。 正直、俺は恋愛をしたことがない。 勉強ばかりで時間がなかったのもあるが、一番の理由は周りがベータばかりで、オメガに出会うことが全くなかったからだ。 希少なオメガなんて滅多にいない。 患者の中には何人かいるが、悩みを知っているだけに患者を相手に恋愛はできない。 病院で働いていると出会いのチャンスもないし……まあいい。 そういえば、颯太はどうなんだろう。 歌手をやっているくらいだからベータなんだろうな。 オメガなら少しくらい香りがするはずだが、颯太からは全く匂わない。 こんなにくっついているのに。 そんなことを考えているうちに、10時半になった。 突然、山川先生から電話が入った。 「お待たせしました。荷物を積み終わったので、今からそちらに向かいます」 颯太にも伝える。荷物を置く部屋はもう準備してある。 「颯太、机の引き出しに現金は入れておいたの?」 すぐに返事が来た。 <はい、銀行の通帳に5万円くらい挟んでおきました> 「保険とか入ってた?」 <いいえ、何も入っていないです> 「そうか。じゃあ保険証書の心配はないね。免許は持ってないよね?」 頷いた。 そうだよな。まだ18歳で、あんな環境じゃ運転なんてさせてもらえない。 それから30分ほどして、玄関のベルが鳴った。 二人で急いでドアを開ける。 山川弁護士と秘書の男性が立っていた。 「ただいま戻りました。お待たせしました。では先に荷物を運んでもらいますが、どこに置きますか?」 後ろには引っ越し業者が荷物を抱えて待っている。 「どうぞお入りください。先生もお疲れさまでした。ソファにおかけください。今お茶を淹れます」 颯太にお茶を頼み、俺は業者と話をする。 「すみません、細かい荷物は全部受け取りますが、家電と家具類はほとんど処分をお願いしたいのですが、大丈夫ですか?」 「ああ、はい。こちらで処分できます。細かい荷物は手前に積んでありますので、先に降ろしますね。その後ご指示ください」 颯太も頷いた。 段ボール箱をどんどん奥の物置部屋に運んでもらう。 荷解きはあとでゆっくりやればいい。 その時、山川先生が少し表情を曇らせて言った。 「実はですね……大事なものが入っているという引き出しの鍵が、こじ開けられていました。引き出し自体も変形していて、中身はほとんど空でした。 教えていただいたぬいぐるみの鍵だけは持ってきましたが、今となっては必要ないでしょう。 引き出しに入っていた大事なものは、こちらですべて戻せるように法的措置を取りますので安心してください。少し日にちをいただきますが、必ず対応します」 颯太はうつむき、手を握りしめて震えていた。 怒りと悲しみが混ざった震えだ。 「颯太、先生が大丈夫だとおっしゃってる。待とう。いいね?」 うつむいたまま、ゆっくり頷いた。 そこへ業者が声をかけてきた。 「すみません。あとは家具類ですが、布団などはどうしますか?」 「颯太、どうする?」 ううん、と首を横に振る。 「うん。じゃあ必要な家具は全部買ってあげる。今までのは処分でいいね?」 うん、と頷いた。 「先生、ちょっとトラックを見てきますが、いいですか?」 「はい、どうぞ。お待ちしています」 俺はトラックへ行き、必要なものがないか確認しながら、ラインのカメラで部屋の颯太に映した。 「颯太、どう?他にいるものある?」 すぐ返事が来た。 <何も要らないです> 「では、あとは全部処分でお願いします。会計はいつになりますか?」 「処分品を業者に依頼してからでないと確定しませんので、後程また伺いますがよろしいですか?」 「はい、在宅していますので大丈夫です。お願いします」

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