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第12話 荷物の引き取り
翌日、山川先生から連絡があった。
大学の休学手続きは無事に済んだそうだ。
そして次は、音楽事務所との契約解除の話になる。
山川先生から「用意しておいてほしいものリスト」がファイルで送られてきた。
まず必要なのは、颯太が15歳の時に結んだ最初の契約書。
だが、その肝心の契約書が颯太の手元にはない。
颯太は財布と携帯だけを持って逃げ出したのだからしょうがない。
「颯太、契約書ってどこにあると思う?」
<寮にあると思います。15歳の時だったので、あまり重要だと思っていませんでした>
「そうか、15歳じゃまだ子供だんもんな」
印鑑や通帳、大学の教科書も寮に置いたままのはずだ。
このまま放っておくわけにはいかない。
「颯太、寮ってどんな感じだったの?」
<普通のワンルームマンションで、1棟まるごと音楽事務所の寮です>
「いつも誰かが見張ってるの?」
<分からないです。見張られてはいないと思いますけど、オートロックなので、俺が行ってももう鍵を変えられている可能性があります>
「マンションには誰かしらいる感じ?」
<はい。みんな時間がバラバラなので、多分誰かはいます>
「寮に友達はいないの?」
颯太は首を横に振った。
そうか……ずっと寂しかったんだな。
「じゃあ、山川先生と相談して、荷物を取り戻す方法を考えるよ」
先生に連絡すると、そんな心配は杞憂だった。
さすが弁護士、動きが早い。
「お任せください。引っ越し業者を連れて、いきなり行ってきます。
着いてから事務所に連絡します。明日の朝一で行きますよ。
もう業者にも頼んであります。荷造りから全部やってくれます。
携帯は2台持っていきます。1台は録音用、もう1台は録画用です。
さらに胸ポケットにクリップ式のカメラも付けます。
それとは別に、小型のレコーダーも持っていきます。
これは長時間録音できて小さいので、ポケットに入れておきます。
録画は相手に通告して行えば問題ありません。
抑止力として非常に効果がありますから、心配しないでください」
「部屋の鍵も、楽屋に置いていたバッグに入れたままらしいんですよ。
だから手元にないそうです」
「はい、大丈夫です。問題ありません。それから大事なことを聞きます。
契約書や、現金、預金通帳、印鑑、などの大事なものは部屋のどこに置いていますか?ちょっと本人に聞いてください」
聞くと颯太がすぐに打ち始めた。
<机の一番上の引き出しに入っていますが、カギを掛けていて、カギは棚の犬のぬいぐるみが着ている服のポケットに入れてます>
すぐそれを山川先生に伝えた。
「分かりました。では心配せずに待っていてください。昼過ぎには荷物を持ってきます。
院長のマンションに運んでよろしいですか?」
「はい、大丈夫です。部屋は余っていますから。よろしくお願いします」
電話を切って颯太を見ると、心配そうな顔をしていた。
「大丈夫だよ。全部うまくやってくれる。プロだからね」
そう言ってから、ふと思い出したように颯太に言う。
「それより、このゲスト用の部屋、颯太の部屋にしていいかな?
ベッドは2台もいらないから、1台は昼寝用にして、もう1台は別の部屋に移すよ。
注文した大きなベッドは俺の部屋に置くから、寝る時はそっちに来ればいい。
要らないものは物置部屋に置いておけばいいしね」
「そうだ、部屋に冷蔵庫や洗濯機があるんじゃないの?家電類はもう処分したら?うちのを使うんだから要らないでしょう?他に大事な家具はうちに置けばいいけど、良かったら俺が新しいのを買ってあげるよ。うちで新しい人生をやり直そうよ」
“うん”と小さくうなずくと、颯太はまた俺の腰に両手を回してきた。
抱きしめてほしいんだな。
気が済むまで抱きしめてあげるよ。
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