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第34話 バース科
病院に連れて行くと、すぐ診てくれた。
バース科の医師は30代の、笑顔の感じの良い男性――友永先生だ。
車いすで颯太が診察室に入ると、友永先生はにこやかに迎えてくれた。
ありがたい。
「院長、お久しぶりですね」
「うん、そうだね。今この子を預かってて、病状については弟から聞いてくれてると思うけど、療養中なんだよ。よろしくお願いしますね」
「はい、検査結果も拝見していますので大丈夫です。
立花颯太君だね? 初めまして。バース科の友永です。よろしくお願いします」
颯太は不安げに頷いた。
一通りの問診を終えると、
「少し診察しますので、お待ちくださいね」と言われ、俺は一度席を外した。
5分ほどして呼ばれた。
颯太はうつむいていた。
……あ、事前に診察方法を説明しておけばよかった。
驚いたかもしれない。
友永先生が説明を始めた。
「血液検査は後でしますが、診察の結果、まだ“オメガらしい兆候”は出ていません。
病歴にもあるように、栄養不足やストレスでホルモンが不足している可能性があります。
身体がまだ成熟しきっていないんですね。フェロモンも全く感じません。
颯太君も今まで自分をベータだと思っていたんだよね?」
頷く。
「ということは、ヒートらしきものは全くなかった?」
また頷く。
「では、これからじっくり治療していきましょう。
血液検査でホルモンを調べて、結果が出てから治療方針を決めましょう。
ゆっくりで大丈夫ですよ。
颯太君はオメガで間違いありませんが、兆候が出るほど成熟していないだけです。
遅い人はいくらでもいます。これからですよ。
三日後にまた来られますか?」
颯太は頷いた。
俺「はい、分かりました。三日後に来ます」
「では処置室で採血をしてください。今日はそれで終了です。
次の予約は10時でよろしいですか?」
「はい、お願いします」
受付票を受け取り、採血と会計を済ませた。
「じゃあ、颯太、帰ろうか?」
駐車場で車に乗せると、
颯太は静かに泣いていた。
そっと手を握った。
「……帰るよ」
帰宅すると、颯太はまっすぐ自分の部屋へ行った。
無理もない。
ベータだと思っていたのに、オメガだと告げられた。
一生に関わる問題だ。ショックを受けて当然だ。
少し時間を置こう。
チョコレート入りの甘いココアでも作ってあげよう。
15分ほどしてから、ココアを持って部屋をノックした。
開けると、颯太はベッドでうつ伏せになって泣いていた。
俺もベッドに入り、そっと声をかけた。
「颯太、うつ伏せだと息が苦しいよ。こっち向いて」
顔を見せてくれた颯太を抱きしめた。
「颯太、オメガだと聞いて嫌になったの?」
頷く。
「そうか……。俺も颯太は歌手だからベータだと思ってたよ。
オメガだと知ったのは、弟から聞いてからだ。
ものすごく驚いた。でも“嫌”だからじゃない。
アルファにとって、オメガに出会うことって一生に一度あるかどうかなんだ。
それくらい幸運なことなんだよ。だからそんなに自分を責めないで。
颯太が嫌じゃなければ、俺は一生をかけて守る。
歌だって続けられる。ネット配信でも十分やっていける。
これからじっくり身体を治していこう。
俺がずっとそばにいるから。どうかな?
颯太が嫌なら、俺はあきらめるけど」
颯太はいやいやと首を振った。
「ん?違うの?」
起き上がり、車いすのタブレットを取って打ち込んだ。
<違うんです。俺がオメガなら、ずっと先生に迷惑をかけると思って……それが辛かった>
「え? なんでそれが迷惑なの?
家族みんな“幸運を大切にしろ”って応援してくれてるんだよ。
颯太は俺の幸せだ。否定しないでほしい。
迷惑なんて思ったこと、一度もない。
今が俺の人生で一番幸せなんだよ。
それに……もう取り返しがつかないくらい、
颯太を深く愛してる」
颯太はまた俺の胸で泣いた。
――もう、泣かせてしまおう。
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