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§15 送り狼

 グレンside  王子を横抱きにしてバルコニーから広間へ戻ると、その場にいた全員から一斉に視線を注がれる。  いち早く近付いて来たミレイが「まあまあまあ!」と怒っているのか喜んでいるのか分からない声を上げる。 「シッ、王子が起きるだろう」 「失礼しました。係に連れて行ってもらいましょう」 「構わん。このまま連れて行くからお前たちは引き続き楽しんでおけ」  俺の言葉にミレイだけでなく後ろにいたジェイドとフーベルまで目を丸くする。なんだその目は。 「……どうか、送り狼にはならないでくださいませ」 「酒に酔っているのでなければ黙っていろ」  極めつけのジェイドの言葉に呆れて広間を出た。  部屋付きの護衛が後ろを付いてくる中、静かな廊下を努めてゆっくりと歩く。振動で王子を起こしてしまわないように。  部屋に着いて護衛がドアを開ける。扉の前で待機を命じ、部屋に入る。    机の上にはミレイが言ったように本やノートが積まれている。  ゆっくりとベッドに寝かせて、ジャケットと靴だけ脱がせて掛け布団を肩口まで持ってくる。言うだけなら簡単だが王子を起こさないようにするので神経を使う。  その甲斐あってライゼル王子は穏やかな顔で眠っている。  あれだけ戦える武人であれば起きてもいいはずだ。しかし起きている気配は感じず、規則正しい寝息が正真正銘のものであることは間違いない。    相当気を張っていて緊張の糸が切れたのかもしれない。少しでも安心して眠れると良いのだが。  慎重にベッドに腰を下ろし眠るライゼル王子を見つめる。  窓から差す月の光に煌めく髪が綺麗だ。初めて会った時も月明かりに照らされて輝いていた。  出会った時から感じていた温かい魔力と、香水ではない柔らかな花の匂いはゼフィロスに来てからも変わっていない。それが、嬉しかった。彼の何かを変えてしまうのではないかと恐れていたからだ。  先ほどのバルコニーでのやり取りを思い出すと尻尾が揺れる。  手を握り返してくれたことも、本音をこぼしてくれたことも、涙を見せてくれたことも、触れられるのが嫌ではないと口にしてくれたことも、髪を手で梳くのを許してくれたことも、全てが胸を締め上げてきた。  綺麗な髪は特に、馬車で「どこに触りたいか」ときかれたときに危うく口を滑らせそうになったので感慨深い。  最終的に自分の腕の中に身を預けてくれたことで、少しは信頼を得られていると感じられた。  もっと、もっと……と、はやる気持ちをいつまで押し込めていられるだろうか。  彼には変わってほしくないと思っていたのに、自分が変わっていくことにこれほどまで歓びを得るとは。 「……貴方のためなら、いつまでも待とう」  伴侶として心と身体を丸ごと預けてくれる、いつかそんな日が来たらいいと願う。  ぐっすりと眠る可愛い人の額にキスを落として立ち上がる。  どうか良い夢を見られるように。        

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