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最終話
モーラン侯爵夫妻とシンシアは帰って行き、正式に破談の申し入れをして受理された。
ロキは目の前で起こった出来事が現実として受け入れられず、クラストの執務室で銅像のように固まっている。
後処理に追われているクラストはふと上半身を起こし、封を閉じた手紙をそばで控えているデイビットに渡した。
「これを頼む」
「かしこまりました」
恭しくお辞儀をしてデイビットは部屋から出て行った。
とうとう二人きりに残されてしまい、身の置き場がなくなった。そもそもなぜクラストの執務室までついてきてしまったのか。シンシアが帰ったときに仕事場に戻ればよかった。
部屋を出るタイミングを窺っているとクラストの薔薇色の瞳がロキを捉えた。
「ロキが呪詛師だと気づいていた」
衝撃的な告白にロキの喉がひくりと鳴る。さらにクラストは続けた。
「貴族の間では呪符の話は有名だったからな。金が欲しいからとはいえやりすぎだ」
「孤児院を助けるためで」
「でも褒められたことじゃない」
「……はい」
「最初は植物が好きなのに触ろうとしないときに違和感を持った」
別宅の庭園でクラストに花が好きだと話をした。そのとき薔薇を頭に挿してくれたがロキは触れなかったのだ。
「母親が東の国出身だと聞いてもしや、と思った。呪詛師は処刑されたと聞いていたが、身分を偽って生きてても不思議ではない」
「軽蔑しましたよね?」
経緯はどうであれ、ロキはクラストを騙していたのだ。彼はロキを責める権利がある。
「おまえは最初から俺を心配してくれたよな。自分が酷い目に遭うとわかっていたのに、俺に尽くしてくれた」
「孤児院を救ってくれたからです。オレはなによりもあそこが大事だから」
孤児院はロキにとって大切な心の支えだ。それがあったからどんな辛いことにも耐えられた。
マザーたちを護ることが自分の生きる道標になってくれる。
「さっき俺が使った呪符を誰から貰ったと思う?」
「まさか」
「マザーからだよ」
マザーにはなにかあったときように呪符を一枚預けてあった。
「誰にも口外してはいけないとあれだけ念押ししたのに」
「ずっとロキのことを気にかけていたよ。マザーとはずっと手紙のやり取りをしてたんだ」
「どうしてオレにどうしてそこましてくれるんですか?」
呪いをかけ、好きでもない男を抱かせて多額の給金をもらうロキはクラストにとって害でしかない。
やさしくされる理由が思いつかなかった。
だがロキの質問にクラストは目を眇めている。
「ここまで言っても分からないか」
「わかりません」
「……好きだからに決まってるじゃないか」
「なっ!? ありえません……クラスト様みたいな立派な方がオレなんて」
「ロキ、自分を誇れ」
薔薇色の瞳がまっすぐ向けられる。
「食事が美味しいことも花が美しいことも、誰かと熱を分け合う悦びも……全部ロキが教えてくれた。愛おしいと思うのは当然だろ」
「……それはオレの方ですよ。こんなに誰かを好きだと思わせてくれたのはあなただけです」
「ロキ」
腕を伸ばされて、そろそろと掴んだ。思ったよりも強い力で引っ張られ、クラストはそのまま後ろのベッドに倒れる。
押し倒すような体勢にロキは目を回した。
ぐりっと腰を押しつけられる。そこの硬さと熱量が蕾に当たり、期待で腹の奥がむず痒い。
「んんっ」
「これだけで感じるのか?」
「だって……」
いままで数え切れないほどしたのだ。身体は順応になってしまうのは仕方がないと思う。
羞恥心で涙が浮かんでしまい、瞼を擦っていると頭を撫でられた。
「ロキはずっと可愛くて気高くて……愛おしい」
「クラスト様もずっと素敵です。ちょっと甘えん坊なところも」
「じゃあいまからたくさん甘やかしてもらおうかな」
背中に腕を回され、クラストとキスをした。触れるだけじゃ物足りないとばかりに口を開き、舌をいれると絡まっていく。
(これが解けない糸ならいいのに)
ロキが舌を動かしているとやんわりと噛まれてしまった。
甘い痛みに腰が揺れる。
頭を撫でてもらうと褒めてもらえるようで嬉しい。舌をさらに深く絡ませるとクラストが笑った。
顔を上げると唇がお互いの涎で濡れている。艶っぽい笑顔にクラクラしてしまう。
ロキはクラストのシャツのボタンに手をかけた。肌が露われていく箇所に口づけを落とす。湿り気を帯びた吐息がロキの髪を揺らした。
感じてくれることが嬉しくて強く吸う。陶器のように白い肌に赤い薔薇が咲いた。
「オレのだって記し」
「じゃあ俺もつけないとな」
「ちょっ……わっ!」
体勢を逆転された。シャツをたくし上げられると乳首の周りを念入りに吸われてしまう。
ピリッとした刺激にロキの背中が跳ねた。
「はっ、あぁ……もぅ、オレが……やるの、んんっ」
「あとでな」
腹を撫でられ、期待で奥が疼いた。想像するだけで蕾が濡れてしまう。
クラストはゆっくりと下がり、ロキのスラックスを脱がせた。勃起した性器は愛液を垂らしている。
一切の戸惑いを見せずに口に含まれ、蕾に指を這わせられた。二つの刺激に翻弄される。
「あっ、あぁ……だめ、そこっ……ああっ」
性器の先端をクラストの頰に擦られてしまう。ざらざらした咥内にぐっと腰に力が入る。そうすると中の指を締めつけてしまい、クラフトが苦笑を漏らした。
「これじゃ中を解せないぞ」
「だって、もぅ……はぁ、ふっ」
「気持ちいい?」
「クラスト様ぁ……好き。もうなにされてもだめ……あっ!」
指を抜かれ、ベッドサイドから潤滑油を出したクラストは瓶をひっくり返した。ひやりとした粘度のある液体が尻の窄まりに集まる。
クラストの男根があてがわれた、ぐっと腰を進められると中はわずかな抵抗のあとにすんなりと奥まで受け入れた。
太いカリがロキの弱い部分を掠め、それだけで達する。
「ああぁああ!!」
射精感に酔いしれる猶予もなく、律動が始まった。角度を変えながらロキを攻め立てる。
膝を外側に広げられ、強請るように奥を突かれた。
「ふっ、少しキツイな」
「だって……あっ、あぁ」
「可愛い」
目尻に浮かんだ涙にキスをされた。涙はとどまることなく溢れてくる。
身体をくねらせながら悦がっているとクラストの性器が一層張りつめた。
「中に出すぞ」
「んんっ……っ!!」
どくどくと白濁を吐き出され、中が熱い。クラストは最奥で射精したらしい。ゆっくりと上下に腰を揺すり、ロキの肉壁に精液を塗り込んでいる。
息つく暇も与えられずに腕を引っ張られ、ロキはクラストに跨るような体勢にされた。
背中に腕を回され、お互いの汗で身体が張りつく。
「まだ終わりじゃないからな」
「ああっ……」
突きあげられるとロキは背中を後ろに仰け反らせた。露わになった喉仏に噛みつかれ、その痛みすら甘美な刺激に変わってしまう。
乳首を吸われながら中を擦られる。出された精液がぐちゅぐちゅといやらしい音をたて、ロキの鼓膜まで犯した。
ロキは振り落とされないようにクラストの背中に腕を回し、必死になって腰を揺らす。
ぎしぎしとベッドが悲鳴をあげる。こんなに激しい音をしていたらデイビットが飛び込んでくるかもしれない。
でも律動をやめることなんてできるわけがないのだ。
頂点を極め続けたままのロキの身体が痙攣している。思考があやふやで気持ちいいことしか考えられない。
視界がチカチカと明滅を始める。ロキの男根はぐっと天を仰いでいた。
「イく……だめ、また……あっ」
あっという間に限界に達してロキは悲鳴のような嬌声をあげた。長く続く頂点にビクビクと身体が震えている。
クラストは動きを止めずにロキの性器を掴んでいた。
「すごいな。中だけで達したのか」
「へっ? あっ、あぁ……なに?」
「これなら何回でもできるな」
恐ろしいことを言われた気がしたが、意識が朦朧としているロキにはわからない。
自分からキスを強請り、膝をつかってクラストを追い詰めた。
「はっ、はぁ……中、いっぱい出してぇ、あっあ」
「枯れるまで出してやる」
ロキは終わらない快楽の海に飲まれ続けていた。
クラストが正式に継ぐことになり、レビーナ公爵とリリーは隠居することになった。
レビーナ公爵の病気のことも考え、空気がきれいな郊外へと居を構えるらしい。そのため本家にはロキとクラストが住む。
馬車に乗り込む前にリリーは振り返り、ロキを抱きしめた。
「ロキさんと離れるのは寂しいわ」
「いつでも遊びにいらしてください」
「やっぱり連れて行こうかしら」
「それはやめてくださいと言っているでしょう」
クラストが意義を申し立てるとリリーは美しい眉を寄せた。
「いいじゃない! あなただけロキさんと独り占めするのは良くないわ」
「ロキは俺の妻になるんです」
「つまり私の子になるということでしょ?」
「そうですけど、そうじゃありません!」
馬車の前にはレビーナ家に仕える従者が見送りにきており、親子喧嘩を温かく見守っている。
郊外まではレビーナ公爵の体調を考えながら休憩を多くとるらしい。このままでは日が沈むまでに着けないだろう。
「あの……」
クラストとリリーが口喧嘩を始めてしまい、ロキは恐る恐る手を挙げた。
「リリー様、こんなオレを息子だと言ってくださりありがとうございます。寂しくなりますが、クラスト様と一緒にレビーナ家に恥じないように頑張ります」
「……まぁ素晴らしい! やっぱり連れて行こうかしら」
「母上!」
間に入ったつもりだが、火に油を注ぐ結果になってしまったらしい。
クラストとリリーの口喧嘩はしばらく続き、レビーナ公爵が咳払いをしたことでようやく終息した。
馬車に乗り込んだリリーは窓から手を出してくれる。ロキはそっと手を繋いだ。
「どうかお二人ともお元気で」
「えぇなにかあったら教えてね。すぐ帰ってきます」
「もう十分すぎるくらい幸せです」
ロキが答えるとリリーは目尻を下げた。本当はわかってくれているのだろう。けれどお茶目な彼女は最愛の息子にちょっかいをかけたくて仕方がないのだ。
「では、ごきげんよう」
リリーが高らかに言うと馬車が走り出した。
蹄の音が小さくなるまで手を振り続けているとクラストが反対の手をぎゅっと握ってくれた。
やさしい薔薇色の瞳に魅入られてしまい、ロキの頬に熱がのぼる。まだ夢の中にいるようにふわふわしていた。
「さて新しくできた孤児院の見学に行こうか」
「はい! マザーが朝から張り切っていたので荷物運びを手伝わないと」
「そうだな」
クラストのお陰で孤児院はレビーナ家の近くに新設されることになったのだ。
これでいつでも会いに行ける。
「クラスト様のいるところがオレの幸せです」
「俺もだ」
薔薇が咲き乱れる庭園でロキとクラストは永遠を誓うように口づけを交わした。
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