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第1話 夏服×扇風機
ミーンミンミン……
片田舎の小さなカキ氷屋。
陽が傾いていたせいもあって、昼間に見た長蛇の列が無くなっていた。
ラッキーとばかりに店に入り、ハンディタイプの扇風機をバックに仕舞う。
「ご注文はお決まりですか?」
白地のシャツに黒のカフェエプロン。柔やかな表情をした女性店員が、伝票片手にやってくる。
「……」
咄嗟に俯き、キャスケットのツバで顔を隠すと、メニュー表の写真を指差す。
「恋するいちご練乳ですね! お待ち下さいませ」
「……」
店員が去ると、ツバを抓んで僅かに上げ、店内の様子をうかがう。と、カキ氷を食べる客の一人と目が合ってしまった。
咄嗟に横髪で顔を隠し、俯きながらツバを下げる。
この髪色が目立つせいか。何だか居心地が悪い。
「お待たせしました」
目の前に置かれる、練乳のかかった鮮やかなピンクのカキ氷。写真通り、ハート型にカットされた苺が可愛く飾られていて、爽やかなミントがちょこんと山頂にのっている。
「……っ、!!」
跳ね上がる心臓を抑え、脇に置いたバックから、手のひらサイズのクリアスタンドを取り出す。
そこには、白金にショッキングピンクのメッシュの入った、腰まで長い髪の──アクア。
アクアは、マイナー漫画に登場するパンクロリータで。今一番の推し。
可愛さは勿論、友達思いで。繊細で傷つきやすい癖に、自ら悪役を買って出る所が格好よくて好きだ。
今回、双子ファッションに挑戦したくて。大人しめver.をチョイス。
フロントに編み上げリボンとレースの付いた、黒のキャミソール。赤と黒のタータンチェックの3段フリルスカート。同じ柄のハギレとチェーンの付いた、黒のキャスケット。
カキ氷の近くに置き、スマホでパシャッと写真を撮る。
本当はもっとアクアグッズを並べたいし、一緒に撮りたい所だけど。まだ恥ずかしさが勝ってて、これが精一杯。
本当は髪だって……アクア専用のウィッグを付けたかったけど、悪目立ちしそうで。肩まで伸ばした地毛で、何とかしてみたけど……
「……あの、」
突然声を掛けられ、ビクンと肩が跳ねる。
落ち着いていた心臓が暴れ回り、声のある方へと顔を上げれば──
「それ、アクアちゃんですよね」
「……」
「俺、大好きなんです!」
オタクとは程遠い雰囲気の、爽やか風イケメン。
「あっ、ごめんなさい。俺、ここの店員で。実は、店に入ってきた時から、アクアちゃんに似てて、可愛いなって……」
確かによく見れば、カフェエプロンをしている。
それに……何故か俺を見て、照れてるような。
「もうすぐバイト時間終わるので、もし嫌じゃなければ……この後どっかで、一緒に語りませんか?」
「……」
この人、俺を女の子と勘違いしてる──?
……そっか。
俺、いま女の子に見えるんだ。
初めての女装コスプレに、殆ど顔を上げられなかったけど。
この人のお陰で、ちょっとだけ自信ついたかも。
「はい、いいですよ」
「……えっ!」
緊張が解けたのか。一瞬だけ驚いた顔を見せた店員が、すぐに溶けたような笑顔を浮かべる。
「あー、良かったぁ……」
……ん?
あれ。俺いま、男の声出したよね。
この人、まさか気付いてない?
本当の事を打ち明けるべきか否か。
この先の展開に、俺は悩み始めていた。
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