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――え、するよね?
ウサギのぬいぐるみを膝に置き、無駄に背筋をピンと伸ばしてソファーにお行儀よく座りながらカイは一人でぐるぐると考えている。
食事のあと、二人でお風呂に入った。
一緒に身体を洗いっこして楽しかったし、ホカホカのお風呂はとても気持ちよかった。
――何も……キスすら無かったけど。
その後、「ま、これだけ着ておけばいいよね。どうせすぐ脱がせちゃうし」と、またもや情緒のない言葉とともに渡されたフカフカの純白のバスローブ一枚の姿でリビングに来て、一緒にソファーに腰を下ろした。
なるほど、これからか……と思ったら、突然始まったヘアケアタイムである。
誉はカイの髪を入念に、もうそこまでしなくてもいいのにと思うくらい丁寧に、タオルドライからのドライヤー。やっと乾いたと思ったら、10種類のヘアオイルを差し出してどれが良いかと希望を聞いてきた。2年前よりも5種類増えている。
よく分からないので適当に指さすと、「俺もそれがいいかなと思ってた」と、嬉しそうにしていたので、とりあえず従っている。
――そもそも。
カイにしてみれば、ヘアオイルの存在自体が意味不明である。
折角お風呂できれいに油分を取ったのに、折角ドライヤーでしっかり乾燥させたのに、何故もう一度油まみれにして濡らすのか。
一方誉は、ラベンダーオイルの甘く柔らかな香りと共に、するりと滑らかなカイの髪の毛の感触を楽しんでいる。
完璧に整えたその髪は、絹糸のように美しい。
――長い髪、悪くない。むしろ大歓迎。
見て、触っているだけで癒される。
すべての疲れが昇華される。
……今ならどんな難症例でも完璧に切れる気がする。
「よし、終わり」
その言葉と共に背中を撫でてやると、カイはピクリと肩を揺らした。それから、俯く。
ウサちゃんを抱きしめる。
耳がすごく熱い。
――いよいよかな。
そう期待しつつも、どう切り出したら……。
「カイ、こっち向いて」
すると誉から声がかかった。
肩を撫でながら促されて、その様にする。
薄いシャツ一枚の誉が柔らかく微笑んだ。
その大きな腕が頬をするりと撫で、顎、首筋……そしてバスローブの中に滑り込む。
――きた。これはきた。絶対"する"流れ!
そう思った瞬間、
「ボディオイルもヘアオイルと同じ香りに揃えようか。ケンカしちゃうと困るし」
と言いながら誉がまた満杯にオイルの瓶が入っている新たな籠を取り出したので、カイは肩を落とした。
――違った。これ、まだ時間がかかるやつだ。
一言物申してやりたい気持ちはあるが、そもそもカイは自ら人に物を言うことが苦手なのだ。
ましてやそれが、睦言のおねだりなんて……そんな"はしたない"ことはできない。
もし兄に知られたら間違いなく怒られる。
淑女は座して待つべし、である。
――いや、自分は女ではないけれども。
カイは、またもやぐるぐると考えながら、きゅっと唇を噛んで耐える。
「ちょっとお膝で立てる?」
「……う、うん」
誉は自分の両足を跨がせるようにカイをソファーの上に膝立ちにさせる。
「ウサちゃんは、ちょっとこっちで待っててね」
体幹がなくすぐにふらつくカイからぬいぐるみを抜き取って、すぐ横に座らせる。
そしてカイには自分の肩を掴むように促した。
「ちょ、ほま……っ」
すると誉は、いきなりバスローブの前を開いて手を滑り込ませてきた。
更にその中を覗き込んで、フムフムと頷き始める。
「や、やめ……」
「こらこら、暴れないで。
あー、やっぱり乾燥してるなあ。
まったく、航はケアが甘すぎる……」
胸元に触れた後、今度は肩に触れる。
かと思えば脇腹、肘、背中と誉はやりたい放題だ。
しかしその手つきは全然いやらしさがない。
――って、これ、触診じゃん!皮膚科に転向した?!
誉は一つずつ丁寧に患部を見て、触れ、丁寧にオイルをすり込んでいく。
……しかし、悲しいかな。
誉に邪心がないとわかっていても、カイの身体が勝手に反応し始める。
誉の指が触れるたびに腕が震える。
皮膚にふわりと吐息がかかるだけで、ぴくぴくとお腹の下が小さく痙攣した。
かあっと顔に熱が上るのが自分でも分かる。あまりにも恥ずかしくて俯くと、誉は優しく微笑んだ。
「怖かった?……大丈夫、痛いことはしないからね」
そして安心させるかのように頭を撫でてくれる。
――ちがう、そうじゃない〜!
そう思っても、まさか「触診でエッチな気持ちになりました。もっとちゃんと触ってほしいです」なんて当然言えるはずもなく、カイは俯いたまま必死に頷いてやり過ごすしかなった。
最後、入念すぎるほどの目視を経て、誉はカイの胸に耳を寄せる。
「ひゃっ」と、思わず肩が上がり、背が仰け反ったカイを抑え、誉は目を閉じた。
途中、トントンとゆっくり背中を撫でられると、カイは条件反射で呼吸をそのリズムに合わせた。
……しばしの、沈黙。
そして誉は目を開き、最後にカイの首元を指で探りながら「よし」と呟いた。
かと思ったら、そのまま流れるようにカイの唇を奪う。神業のような速さだった。
「……ん、んっ……」
大きな誉の舌が、遠慮なく挿し込まれた。
これまでの啄むようなキスとはまったく異なる、深い、深い情欲のキス。
カイはすぐに苦しくなって、顎を引く。
けれども誉は止まらない。カイの後頭部を押さえ撫でながら、優しく、しかし貪るようなキス。
カイは誉のシャツを掴み、ガクガクと震え始めた膝に力を込めた。
角度を変えて何度も唇を重ね、舌を絡め合い、互いの吐息すらも共有する。
カイがもう立っていられないとお尻を半分落としたところで、誉がようやく唇を離す。
それから僅かに濡れた前髪をかき上げ、下唇の右端を舐め取る。そのすぐ下にある小さなホクロが、やけに艶めいて見えた。
そして誉は目を細め、低い声でゆっくりと言う。
「お待たせ。……さあ、始めようか」
頷く間すら与えられず、カイはウサギのぬいぐるみと一緒に、まるで姫君のように抱き上げられた。
「――セーフサイン、覚えてる?」
誉は、カイをベッドに座らせるや否や、跪いて尋ねた。すぐにカイは頷いて、抱えていたウサギのぬいぐるみを誉に見せるよう差し出して、小さな声で答えた。
「……ウサちゃん、だっこ、する……」
「セーフワードは?」
「"ねんね、する"」
「――OK。
……ウサちゃんは、ここでお休みしててもらおうね」
誉はそう言うとウサギを受け取って、枕の上に置いた。
それが、始まりの合図だった。
バスローブにするりと誉の大きな手が滑り込む。
それと同時に落とされる、深いキス。
「ん……っ」
優しくおへその下を撫でられながら舌を吸われると、カイはそれだけでメロメロになってしまう。
口の中が誉で一杯で、その舌先をちゅっちゅと吸うと言いようもない安心感を覚えた。
だから誉の唇が離れるのが惜しくて、シャツを引っ張って顎を上げて追う。
すると誉は小さく笑んで、カイの頭を優しく撫でながら更に深いキスをくれた。
カイがそれに夢中になっている間に、誉は巧みにバスローブを脱がす。
その手がお腹よりもさらに下に及ぶと、カイは我に返って唇を離し、太ももを閉じようとした。
それを割り開いて内腿をなでると、不安げに誉を見上げた。
だから、安心させるようにもう一度唇キスを落とした後、同じように顎と首筋を甘く吸う。
続けてピンク色の可愛らしい胸に舌を這わすと、カイは可愛らしい声で鳴いた。
それが恥ずかしかったのだろう、すぐに両手で口を覆って押さえようとしたが、誉がちゅっと乳輪ごと吸うと、我慢しきれずに喘ぎ声が漏れてしまう。
その身体が弛緩したタイミングを狙い、誉はカイの性器をゆっくり撫でる。先走りでトロトロのそこは芯を持って誉の手の中で健気に脈打っていた。
軽く擦ると、カイの薄い下腹がビクビクと痙攣する。同時にへその下を軽く押した。するとカイは、気持ちよさそうに身を捩る。
「ほま……」
カイは身体をひくつかせながら、涙目で訴えた。
太ももをモゾモゾさせている。
その言いたいことを、誉はすぐに察した。
後ろが疼いているのだ。
「"きもちいいの"しようか」
そう耳元で囁くと、カイの顔が一気に赤く染まった。熱を持った頬をふんわり撫でて、ベッドサイドテーブルを探る。
「……持ってて」
誉はコンドームを一つカイに握らせた。
うまく注意がそれたタイミングで太ももを割り開き、ローションを垂らしながら、ひくつく後孔の輪郭をくるりと撫でた。
「……っ」
カイの内腿に力がこもる。
それが閉じる前に身体を滑り込ませて、孔に指を挿入していく。
いやらしい水音と共に中へと押し進め、カイが一番好きなところをトントンとつついた。
「ほま、そこ……」
「うん、……気持ちいいね」
カイは手の中のコンドームを両手で握りしめながら、小刻みに頷く。
「あ……っ」
更に刺激を続けると、ピンと背が張らせた。
下腹がぎゅっと凹んで、わずかに腰が浮いた。
「ふあ……」
――甘イキをしたカイは、ぴくぴくと震えながら深く息を吐く。その肉茎が芯を失い、透明な体液をトロトロと吐き出しているのがまた可愛らしい。
誉は労るように凸凹する下腹を撫でながら、丁寧に後孔をほぐしてやった。
性器へと姿を変えた孔は、すぐに誉の指を2本、3本と受け入れるようになる。
そのタイミングで誉は下着を下ろして、カイからゴムを引き取った。そして中身を取り出して、
「……俺も、限界」
と言うと、カイの右手を自身の昂りに導く。
その質量と熱に驚いて、瞳を大きく開いたカイの左手に、むき出しのゴムをそっと置いて「できる?」と囁いた。
誉が腰を下ろして招き入れると、カイは緊張した面持ちで誉のそれに対峙する。
上身をかがめ、おずおずとその先端にゴムを合わせた。不意にカイの指先が敏感な箇所に触れて、誉が小さく反応する。一瞬視線を上げたカイに微笑みかけて、その頬と耳をゆっくり撫でた。
カイが幼い手つきで誉の性器にゴムをつけていく。
この子は、これから自分が抱かれる準備している。
そう思うと何とも言えず淫猥で、誉は思わず緩む口元を手で押さえつけた。
一方カイは、何とかゴムをつけ終えると息を吐き、確認するように、おずおずと誉を見上げた。
「……ありがとう」
誉はそう言うと、カイの背を優しくベッドに導く。後孔に先端をあてがうと不安げに誉を見たので、その唇にキスを落とした。
ちゅっちゅっと音が響く可愛らしいキスだ。
それを頬、首筋、鎖骨と落としていくと、くすぐったいのかカイがフフっと笑った。
それでようやく肩の力が抜けた様だ。
カイは誉の首に腕を回し甘えてくる。
誉は優しく受け止めて、さらに腰を押し進めた。
一つ奥へと進んでいくごとに、カイの身体から力が抜けていく。
最奥までたどり着いたときは、その表情はとろんと蕩け、気持ちよさそうに瞳を閉じる。
「気持ちいい?」
そう問いかけると、カイは夢見心地で頷いた。
それから赤い舌を出して、キスをおねだり。
誉がその通りにしてやると、ちゅっちゅとその舌を吸ってきた。
その仕草を愛しく思いながら、誉はカイが気持ちいいポイントを的確に突いて刺激する。
呼応するようにカイの中がぎゅっと締まった。
その度に、誉は快感と共にカイへの愛しさが増していく。
「ほま、は……きもちい?」
息継ぎの合間に、カイが問うてくる。
「――もちろん。すごく気持ちいいよ。
カイ、大好きだよ……愛してる」
誉がうっとりしながらそう返すと、カイもまた嬉しそうにふにゃりと笑う。
「オレも、ほまれのこと、だいすき」
――そして。
どちらからともなく強く抱きしめ合い、二人は共に果てた。
でも、どうしても離れたくなくて、その後もぴったりくっつきながら暫く互いの色んな場所に啄むようなキスをし合う。
それが鼻の頭にそれが及ぶとカイがまたクスクスと笑った。そしてお返しとばかりに誉の首筋を吸う。
「――やったな」
誉はそう言うと、同じようにカイの首筋から肩に口付けた。ふと、カイの右の腕の痣が視線に入った。
いつも何かあるたびに強く握りしめているそこは、カイの掌と指の形を写したように濃い跡になってしまっている。
――誉は、そこを労るように、口づけた。
カイはそれに気づいたか否か曖昧な態度のまま、もう一度誉を引き寄せる。
そしてもう一度、甘えるようにキスをねだった。
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