26 / 29

2-9.

――いけない、寝過ぎた。 誉はそう反射的に思って身を起こしかけ――腕の中の幸せな温もりで、我に返る。   違った、今日は、公休だ。 思い返せば、休みらしい休日を取ったことはフェロー以降初めてだ。 いつも勤務日と変わらず起きて、そのままカフェテーブルのパソコンの電源をつける。そのまま論文を読んだり、書いたり……酷い時はやることもなく、結局医局に顔を出してしまうことまであった。  ――しあわせだな。 そんな疲弊した日常があったからこそ、誉はより強く実感する。愛する人を胸に抱いて微睡むこの時間の尊さは、何にも代えがたい。 見下ろすと、カイは小さな寝息を立てながら、柔らかな呼吸と共にまだ夢の中。誉の上着をぎゅっとして、時折頬を擦り付けてくる。 その小さな口が、ウサギの耳をかじりながらモグモグしているのに気が付いた誉は、クスリと笑ってそれを外した。 いたずらに下唇に人さし指を当ててやると、はむっと食べられた。 そのまま甘噛みされると、少しだけくすぐったい。 誉はゆっくり指を引き抜くと、おでこにキスを落とした。昨日赤みが出ていたので心配したが、痣にもならず綺麗に直っている。 目の下や頬の腫れぼったさも引いていた。 安堵する一方で、職業病か、次第にチェックが入念になってきてしまう。 時に目視、時に触診を使いながら、誉先生の入念な朝の回診が勝手に始まる。 体温、脈……問題なし。 呼吸、OK。 寝汗は、少しだけ。 ……まあ、同衾していれば、こんなものだろう。 身体のこわばり、触れた時の拒絶反応もない。 大丈夫、問題ない。 よかった。 今日もカイは、過ごしやすい日になりそうだ。 誉は微笑んで、未だモグモグしている可愛い唇を人差し指でムニ、と押した。 その眉間にしわが寄るのが可愛くて、何度かムニムニとした後、たまらなくなってキスを落とす。 ところが、触れるだけの軽いキスだけつもりだったのに、突然ちろりと唇を舐められた。 見下ろすと、目を閉じたままカイの唇から、舌先がちょこっとだけ出ている。 誉がそれを包み込むようにキスを落とした。 するとカイが誉の舌をちゅっちゅと吸ったので――。 「……カイくん、起きてますね?」 と、誉が呆れた顔で言う。 するとカイは、目を閉じたままくふふと笑って、 「まだねてまーす」 と返して誉にくっついた。 「……カイくんは、寝てるのかあ」 誉は呟くと、カイからうさちゃんをひょいと抜く。 それから、枕の上に置き直して、更にカイとぴったりくっついた。 「じゃあ、これも夢かなあ」 そしてそう続けると、ゆっくりカイの背中を撫でる。ぴくんとカイの身体が反応した。 それから、カイの柔らかな髪、そしておでこ、今度は耳へと順番にキスを落としていく。 最後はその耳輪をチロチロと舐め、続けて優しく食んだ。 「……っ!」 カイは、誉の上着をギュッと掴みながら肩を跳ねさせた。その耳が急に赤く、熱くなっていく。 しかし誉が構わずそれを続けると、カイからふわふわと甘い吐息が漏れ始めた。 それを見計らったかのように、誉は最後にふっと甘く息を吹きかけて、 「……夢でも、いい?」 と囁く。カイは、とろとろの顔で、 「……やだぁ」 と返して、誉にぎゅっと抱きついた。そして、誉の胸に鼻の頭を押し当て、拗ねたように言う。 「……おきてるし……」 「そっか」 誉は思わず口元を緩めながら、そんなカイのお尻の少し上を撫でてやる。 するとモゾモゾとカイの太ももが揺れる。 それに気が付かないふりをしながら、脇腹、そしておへそ周りをゆったりと撫でる。 布越しでもわかる誉の大きな手と、温もり。 カイは再び頭の中がふわふわしてきたのを自覚しながら、顎を上げ舌をちょろりと出す。 誉は可愛らしいそのおねだりに、すぐ応える。 二人の舌は直ぐに絡み合って、キスは自然と深まっていった。 「ん、ん……」 カイから甘い吐息が漏れる。力が抜けて思わず誉を離した手を取り、その肩に導く。 その流れで誉はカイを仰向けにしゆっくり押し倒した。そしてぎゅっと抱きしめて更に甘く口づける。 それでも誉の手は、パジャマ越しのまま。 決して直接触れてこようとしない。 カイは、もどかしくて、たまらない。 もっと、ちゃんと、触ってほしい。   だから、息継ぎの合間に、ぷくりと片頬を膨らませた。そしてそれに気づいた誉が一瞬止まった隙に、パジャマを胸の少し下まで引き上げて、 「もっと……」 と、おねだり。 その瞬間、誉がガクッとうなだれた。 突然のことに焦るカイを尻目に、フルフルと震えながら返す――絞り出すような声だった。   「カイ、それは反則でしょ……」 ふう、と誉が熱い息を吐く。 その様子から、カイは悟ってしまった。 ――誉の中のおおかみさんを、起こしちゃった カイはごくんと喉を鳴らし、ゆっくり頭を上げていく誉をまっすぐに見た。 胸がドキドキと高鳴り始める。期待してしまっていることを自覚する。 誉と目が合った。 その瞬間、誉はわずかに目を細めた。 カイの身体が、ベッドに沈んでいく。 同時に、誉の顔がどんどん近づいて――そのまま重なる、唇。 ――食べ、られちゃう、かも 甘くて、重くて、深いキスを受け入れながら、それでもカイはドキドキが収まらない。 誉の手が、直接お腹に触れてくる。 すごく熱くてびっくりすると同時に、その熱がとても気持ちよくてたまらなかった。 少しの緊張と、期待と、身震いする程の心地よさ。 目を開くとすぐそこに誉がいる。 視線が合うと、ふんわり微笑んで頭を撫でてくれた。頬にくれるキスも、気持ちよくて大好き。 こんなに優しいおおかみさんなら、食べられてもいい。……いや、全部綺麗に食べてほしい   ――そしたら、ずっと一緒にいられるもんね   誉のキスが、とうとう身体に及ぶ。 「ほま、跡……」 まだ先日の跡が残る首筋を食み始めた誉に、カイがおずおずと言う。 すると誉はぺろりとそこを舐めて、 「大丈夫、つけないよ」 と、囁いた。 「ちがう、あの……」 カイは即座に首を横に振って、恥ずかしそうに手で顔を覆いながら返した。 「つけて、ほしい」 誉がわずかに目を大きく開く。 「……でも……見えないとこが、いい……」  恥ずかしいから、という最後の言葉は霞んで殆ど聞こえなかったが、誉はふっと笑っておへその横をちゅっと吸った。花弁のような赤い跡。そこをチロチロと舐める。 カイは指の隙間からそれを見て――やっぱり恥ずかしくて、また目を閉じた。 誉がキスをするたび、その軌跡が増えていく。 特に他人の目に触れない太ももの内側は、入念に。  「ほま、くすぐったい……」 「我慢」 「ん……、やぁ」 「もうちょっと」 「んんっ」 そのキスがどんどん際どいところに及び、とうとうパジャマを下着ごと下ろされてしまった。 くるんと反転させられたかと思うと、今度は腰のくぼみをなめられる。 同時に胸をつままれて、カイは背筋をピンと伸ばした。いつの間にか後ろから抱かれて、胸やおへそ、その下まで誉の手が好き勝手に伸びていく   そして誉は次に、カイの背中を食んだ。ピリリとした甘い痛みが走る。 それに怯んだ隙に、とうとうその掌が敏感な性器を包む。誉は先っぽを巧みに指先でなでると、スッと手を離してカイにそれを見せた。 粘液が誉の指先を汚し、指先を離すとねっとりと糸を引く。 「……トロトロだね、可愛い」 カイは羞恥心から目を逸らした。同時に、太ももに熱くて固いものが挟まれる。 それが誉のだと理解するのに、そんなに時間は掛からなかった。 脈打つそれはすごく熱くて、太ももが焼けてしまいそうだ。 「……うん」 そして誉はそう言うと、ふうと熱い息を吐いた。 「……もう、無理……」  「へっ?あ、ちょ、ほま……」 「無理、挿れたい。……無理」 「あ、待っ……っ」 誉がカイの後孔に指を当てる。 くるくると縁に触れた後、一気に指を突き立てた。 「〜〜っ」 くちゅくちゅと中を擦られるたび、カイは唇を噛んで、その刺激に耐えようとする。 「駄目だよ」 すると誉はすぐにカイの唇に指先で触れ、割って中にそれを挿入した。 そのまま指の腹で舌先をスリスリと擦られると、まるでキスしてる時のような甘い快感が口内に広がっていく。 頭の中がふわふわして、身体が弛緩したその瞬間、誉が後孔から指を引き抜いた。 そしてその代わりに、誉の昂ぶりが打ち込まれる。 「ン……ッ!」 お腹の中が、誉でいっぱいになる。 熱くて――そして、蕩けそうなほど気持ちいい。 誉の指が、口内から引き抜かれる。 そして今度は下腹をスリスリと撫でられた。 ズ、ズ、と中の動きに合わせてお腹を軽く押されると、カイはたまらない。 びしゃ、びしゃと太ももに何かがかかった。 それが自分の体液だと気づくと、恥ずかしくて顔を覆ってしまう。 そんなカイに、誉が囁く。 「……痛くない?」 カイは真っ赤な顔のまま、コクコクと頷いた。 すると誉はカイの腰を掴んで引き寄せ、更に深く繋がろうとする。それからカイの手を引いて、自身のお腹を触らせた。 「ここまで、挿入ってるの……わかる?」 「……っ」 カイはまた頷いた。 誉の手に促されて押すたびに、お腹が中から押される感覚が伝わってきた。 それはとても気持ちよくて、安心で――。 カイが、うっとりしながら誉に言う。   「ほまれと、一緒……」 「そうだね、一緒だね」 「……しあわせ」 そして誉を振り返り、ふにゃりと笑って見せた。 誉はもう、それだけで愛しさが溢れてたまらなくて、カイの頬に何度もキスを落とす。 次第に、頬だけではやっぱり物足りなくなって――。 「ほま、だっこ……」 カイが甘えた声でそうねだると、いつもの通り向き合って抱きしめてくれる。 そして2人で唇を重ね、ふふっと笑い合った。 ★ 「そうだよね!お水だけでも、飲ませてからにするべきだったよね!!」 「ん、んむっ、ほま、そ、んな、急に、のめな……」 誉が吸い飲みを傾けながら、心から反省した様子で言う。 事の始まりは、行為後、誉がカイの爪先が青っぽいことに気が付いたことだ。 恐らく、水分不足による貧血だ。何てことない、いつものことだと言うカイに対し、誉はまさに顔面蒼白で、「俺としたことが」と何度も繰り返しながら入念且つ、至れり尽くせりのケアが行われた。 柔らかいガーゼのパジャマは真新しい。また例によって買っておいてくれたものだろうか。 カイは少しずつ水を飲み終えると、誉が口の中にタブレットを放り込む。 今度は低血糖対策のブドウ糖のタブレットだ。 甘くて美味しい。 「痛いところない?おかしいって思うとこない?」 「うん、ないよ」 カイはそう言うと、ふふっと笑った。 「笑いごとじゃないんだよ。 はあ、ほんと……俺としたことが……欲に負けてしまった……いやでもさ、あれはカイにも責任あると思うんだよね。あの煽り方はどう考えたって反則……」 急に横を向いてブツブツ言い始める誉に、カイはちゅっとキスをする。 そして、自身のお腹をスリスリと撫でて、本当に嬉しそうに言った。 「――きもちいの、しちゃった」 それからまた笑みをこぼして、続ける。 「……しあわせだね」 その様子を見た誉はふうと息を吐いて、お腹に添えられたカイの手を上から優しく包み込む。 それからそのうなじに軽く唇を押し当て、問うた。 「……おかみさんな夫でも、愛してくれますか。 俺の可愛いうさぎさん」 「ふふっ、なにそれ」 「……いや、ほんともう、だめだった。 ほんとに……好きすぎて止まらなかった……」 「もう、気にしなくていいのに……」 カイはそう言って振り向くと、 「おおかみさんのほまれも、大好きだよ」 と答えると、ちろりと赤い舌を出して甘いキスをねだった。

ともだちにシェアしよう!