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2-9.
――いけない、寝過ぎた。
誉はそう反射的に思って身を起こしかけ――腕の中の幸せな温もりで、我に返る。
違った、今日は、公休だ。
思い返せば、休みらしい休日を取ったことはフェロー以降初めてだ。
いつも勤務日と変わらず起きて、そのままカフェテーブルのパソコンの電源をつける。そのまま論文を読んだり、書いたり……酷い時はやることもなく、結局医局に顔を出してしまうことまであった。
――しあわせだな。
そんな疲弊した日常があったからこそ、誉はより強く実感する。愛する人を胸に抱いて微睡むこの時間の尊さは、何にも代えがたい。
見下ろすと、カイは小さな寝息を立てながら、柔らかな呼吸と共にまだ夢の中。誉の上着をぎゅっとして、時折頬を擦り付けてくる。
その小さな口が、ウサギの耳をかじりながらモグモグしているのに気が付いた誉は、クスリと笑ってそれを外した。
いたずらに下唇に人さし指を当ててやると、はむっと食べられた。
そのまま甘噛みされると、少しだけくすぐったい。
誉はゆっくり指を引き抜くと、おでこにキスを落とした。昨日赤みが出ていたので心配したが、痣にもならず綺麗に直っている。
目の下や頬の腫れぼったさも引いていた。
安堵する一方で、職業病か、次第にチェックが入念になってきてしまう。
時に目視、時に触診を使いながら、誉先生の入念な朝の回診が勝手に始まる。
体温、脈……問題なし。
呼吸、OK。 寝汗は、少しだけ。
……まあ、同衾していれば、こんなものだろう。
身体のこわばり、触れた時の拒絶反応もない。
大丈夫、問題ない。
よかった。
今日もカイは、過ごしやすい日になりそうだ。
誉は微笑んで、未だモグモグしている可愛い唇を人差し指でムニ、と押した。
その眉間にしわが寄るのが可愛くて、何度かムニムニとした後、たまらなくなってキスを落とす。
ところが、触れるだけの軽いキスだけつもりだったのに、突然ちろりと唇を舐められた。
見下ろすと、目を閉じたままカイの唇から、舌先がちょこっとだけ出ている。
誉がそれを包み込むようにキスを落とした。
するとカイが誉の舌をちゅっちゅと吸ったので――。
「……カイくん、起きてますね?」
と、誉が呆れた顔で言う。
するとカイは、目を閉じたままくふふと笑って、
「まだねてまーす」
と返して誉にくっついた。
「……カイくんは、寝てるのかあ」
誉は呟くと、カイからうさちゃんをひょいと抜く。
それから、枕の上に置き直して、更にカイとぴったりくっついた。
「じゃあ、これも夢かなあ」
そしてそう続けると、ゆっくりカイの背中を撫でる。ぴくんとカイの身体が反応した。
それから、カイの柔らかな髪、そしておでこ、今度は耳へと順番にキスを落としていく。
最後はその耳輪をチロチロと舐め、続けて優しく食んだ。
「……っ!」
カイは、誉の上着をギュッと掴みながら肩を跳ねさせた。その耳が急に赤く、熱くなっていく。
しかし誉が構わずそれを続けると、カイからふわふわと甘い吐息が漏れ始めた。
それを見計らったかのように、誉は最後にふっと甘く息を吹きかけて、
「……夢でも、いい?」
と囁く。カイは、とろとろの顔で、
「……やだぁ」
と返して、誉にぎゅっと抱きついた。そして、誉の胸に鼻の頭を押し当て、拗ねたように言う。
「……おきてるし……」
「そっか」
誉は思わず口元を緩めながら、そんなカイのお尻の少し上を撫でてやる。
するとモゾモゾとカイの太ももが揺れる。
それに気が付かないふりをしながら、脇腹、そしておへそ周りをゆったりと撫でる。
布越しでもわかる誉の大きな手と、温もり。
カイは再び頭の中がふわふわしてきたのを自覚しながら、顎を上げ舌をちょろりと出す。
誉は可愛らしいそのおねだりに、すぐ応える。
二人の舌は直ぐに絡み合って、キスは自然と深まっていった。
「ん、ん……」
カイから甘い吐息が漏れる。力が抜けて思わず誉を離した手を取り、その肩に導く。
その流れで誉はカイを仰向けにしゆっくり押し倒した。そしてぎゅっと抱きしめて更に甘く口づける。
それでも誉の手は、パジャマ越しのまま。
決して直接触れてこようとしない。
カイは、もどかしくて、たまらない。
もっと、ちゃんと、触ってほしい。
だから、息継ぎの合間に、ぷくりと片頬を膨らませた。そしてそれに気づいた誉が一瞬止まった隙に、パジャマを胸の少し下まで引き上げて、
「もっと……」
と、おねだり。
その瞬間、誉がガクッとうなだれた。
突然のことに焦るカイを尻目に、フルフルと震えながら返す――絞り出すような声だった。
「カイ、それは反則でしょ……」
ふう、と誉が熱い息を吐く。
その様子から、カイは悟ってしまった。
――誉の中のおおかみさんを、起こしちゃった
カイはごくんと喉を鳴らし、ゆっくり頭を上げていく誉をまっすぐに見た。
胸がドキドキと高鳴り始める。期待してしまっていることを自覚する。
誉と目が合った。
その瞬間、誉はわずかに目を細めた。
カイの身体が、ベッドに沈んでいく。
同時に、誉の顔がどんどん近づいて――そのまま重なる、唇。
――食べ、られちゃう、かも
甘くて、重くて、深いキスを受け入れながら、それでもカイはドキドキが収まらない。
誉の手が、直接お腹に触れてくる。
すごく熱くてびっくりすると同時に、その熱がとても気持ちよくてたまらなかった。
少しの緊張と、期待と、身震いする程の心地よさ。
目を開くとすぐそこに誉がいる。
視線が合うと、ふんわり微笑んで頭を撫でてくれた。頬にくれるキスも、気持ちよくて大好き。
こんなに優しいおおかみさんなら、食べられてもいい。……いや、全部綺麗に食べてほしい
――そしたら、ずっと一緒にいられるもんね
誉のキスが、とうとう身体に及ぶ。
「ほま、跡……」
まだ先日の跡が残る首筋を食み始めた誉に、カイがおずおずと言う。
すると誉はぺろりとそこを舐めて、
「大丈夫、つけないよ」
と、囁いた。
「ちがう、あの……」
カイは即座に首を横に振って、恥ずかしそうに手で顔を覆いながら返した。
「つけて、ほしい」
誉がわずかに目を大きく開く。
「……でも……見えないとこが、いい……」
恥ずかしいから、という最後の言葉は霞んで殆ど聞こえなかったが、誉はふっと笑っておへその横をちゅっと吸った。花弁のような赤い跡。そこをチロチロと舐める。
カイは指の隙間からそれを見て――やっぱり恥ずかしくて、また目を閉じた。
誉がキスをするたび、その軌跡が増えていく。
特に他人の目に触れない太ももの内側は、入念に。
「ほま、くすぐったい……」
「我慢」
「ん……、やぁ」
「もうちょっと」
「んんっ」
そのキスがどんどん際どいところに及び、とうとうパジャマを下着ごと下ろされてしまった。
くるんと反転させられたかと思うと、今度は腰のくぼみをなめられる。
同時に胸をつままれて、カイは背筋をピンと伸ばした。いつの間にか後ろから抱かれて、胸やおへそ、その下まで誉の手が好き勝手に伸びていく
そして誉は次に、カイの背中を食んだ。ピリリとした甘い痛みが走る。
それに怯んだ隙に、とうとうその掌が敏感な性器を包む。誉は先っぽを巧みに指先でなでると、スッと手を離してカイにそれを見せた。
粘液が誉の指先を汚し、指先を離すとねっとりと糸を引く。
「……トロトロだね、可愛い」
カイは羞恥心から目を逸らした。同時に、太ももに熱くて固いものが挟まれる。
それが誉のだと理解するのに、そんなに時間は掛からなかった。
脈打つそれはすごく熱くて、太ももが焼けてしまいそうだ。
「……うん」
そして誉はそう言うと、ふうと熱い息を吐いた。
「……もう、無理……」
「へっ?あ、ちょ、ほま……」
「無理、挿れたい。……無理」
「あ、待っ……っ」
誉がカイの後孔に指を当てる。
くるくると縁に触れた後、一気に指を突き立てた。
「〜〜っ」
くちゅくちゅと中を擦られるたび、カイは唇を噛んで、その刺激に耐えようとする。
「駄目だよ」
すると誉はすぐにカイの唇に指先で触れ、割って中にそれを挿入した。
そのまま指の腹で舌先をスリスリと擦られると、まるでキスしてる時のような甘い快感が口内に広がっていく。
頭の中がふわふわして、身体が弛緩したその瞬間、誉が後孔から指を引き抜いた。
そしてその代わりに、誉の昂ぶりが打ち込まれる。
「ン……ッ!」
お腹の中が、誉でいっぱいになる。
熱くて――そして、蕩けそうなほど気持ちいい。
誉の指が、口内から引き抜かれる。
そして今度は下腹をスリスリと撫でられた。
ズ、ズ、と中の動きに合わせてお腹を軽く押されると、カイはたまらない。
びしゃ、びしゃと太ももに何かがかかった。
それが自分の体液だと気づくと、恥ずかしくて顔を覆ってしまう。
そんなカイに、誉が囁く。
「……痛くない?」
カイは真っ赤な顔のまま、コクコクと頷いた。
すると誉はカイの腰を掴んで引き寄せ、更に深く繋がろうとする。それからカイの手を引いて、自身のお腹を触らせた。
「ここまで、挿入ってるの……わかる?」
「……っ」
カイはまた頷いた。
誉の手に促されて押すたびに、お腹が中から押される感覚が伝わってきた。
それはとても気持ちよくて、安心で――。
カイが、うっとりしながら誉に言う。
「ほまれと、一緒……」
「そうだね、一緒だね」
「……しあわせ」
そして誉を振り返り、ふにゃりと笑って見せた。
誉はもう、それだけで愛しさが溢れてたまらなくて、カイの頬に何度もキスを落とす。
次第に、頬だけではやっぱり物足りなくなって――。
「ほま、だっこ……」
カイが甘えた声でそうねだると、いつもの通り向き合って抱きしめてくれる。
そして2人で唇を重ね、ふふっと笑い合った。
★
「そうだよね!お水だけでも、飲ませてからにするべきだったよね!!」
「ん、んむっ、ほま、そ、んな、急に、のめな……」
誉が吸い飲みを傾けながら、心から反省した様子で言う。
事の始まりは、行為後、誉がカイの爪先が青っぽいことに気が付いたことだ。
恐らく、水分不足による貧血だ。何てことない、いつものことだと言うカイに対し、誉はまさに顔面蒼白で、「俺としたことが」と何度も繰り返しながら入念且つ、至れり尽くせりのケアが行われた。
柔らかいガーゼのパジャマは真新しい。また例によって買っておいてくれたものだろうか。
カイは少しずつ水を飲み終えると、誉が口の中にタブレットを放り込む。
今度は低血糖対策のブドウ糖のタブレットだ。
甘くて美味しい。
「痛いところない?おかしいって思うとこない?」
「うん、ないよ」
カイはそう言うと、ふふっと笑った。
「笑いごとじゃないんだよ。
はあ、ほんと……俺としたことが……欲に負けてしまった……いやでもさ、あれはカイにも責任あると思うんだよね。あの煽り方はどう考えたって反則……」
急に横を向いてブツブツ言い始める誉に、カイはちゅっとキスをする。
そして、自身のお腹をスリスリと撫でて、本当に嬉しそうに言った。
「――きもちいの、しちゃった」
それからまた笑みをこぼして、続ける。
「……しあわせだね」
その様子を見た誉はふうと息を吐いて、お腹に添えられたカイの手を上から優しく包み込む。
それからそのうなじに軽く唇を押し当て、問うた。
「……おかみさんな夫でも、愛してくれますか。
俺の可愛いうさぎさん」
「ふふっ、なにそれ」
「……いや、ほんともう、だめだった。
ほんとに……好きすぎて止まらなかった……」
「もう、気にしなくていいのに……」
カイはそう言って振り向くと、
「おおかみさんのほまれも、大好きだよ」
と答えると、ちろりと赤い舌を出して甘いキスをねだった。
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