1 / 13
第1話
王都バルバドロスの空から急かすように残光が消え、深い藍の外套が街を包み込む頃。
人々の清らかな営みが静まり返るのを待っていたかのように、その場所はゆっくりと息を吹き返し、まるで老獪な双頭の赤いドラゴンのような姿を浮かび上がらせる。
幾千、幾万かのランプに照らされて呼吸を始めたそこは、政府公認とはいえ人道もなければ名もない、華やかだけれど悲しみばかり詰め込んだ二棟建ての豪奢な檻だった。
雲からやっと顔を覗かせた下弦の月に照らされて、極彩色の漆が塗り込められた柱を持つ真っ赤な渡り廊下を美しい生き物が衣を翻して悠然と進む。
「……あれが、朱雀さまか」
「なんとまぁ、不死鳥のように眩しいこと」
階上の廊下だけでなくはるか階下からさえも賞賛が溢れて讃えられるのは、最高級のルビーを涙として零す宝石人である「朱雀」。
宝石の質、産出量共に最高の彼は、この娼館で使われる最高位であるプレシャスの称号を持ち、大商人のゴウの寵愛を一身に受けて今や畏怖と羨望、焦がれるような欲情の対象だった。
「本日は三階の金花の間だそうです」
灰色の着物を着た少年がそっと告げると、朱雀は笑顔を崩さないままに鷹揚に頷いてみせる。
その動作一つですら、見ているもののため息を誘うほどだった。
連なった幾つもの小さな金輪で作られた簪、美しい刺繍や箔が凝らされた着物は言うに及ばず、何よりも美しいのは容姿だ。
小柄で華奢な体は白皙のような透明感で、顔はこぢんまりとしていながら目鼻立ちがしっかりしており、ピジョンブラッドの色をした瞳は大きく、はっきりとした意思を持っているために生き生きと輝いている。
裾にいくほど赤くなる長い黒髪を結い上げて、颯爽と歩いていく姿は鳳凰と言われても納得の容姿だった。
「あっ 傘をちゃんとさしてくださいませ」
灰色の着物を着た少年は慌てて、傾いて今にも役目を放棄しそうだった和傘を元に戻す。
頭上にかざした途端、傘の生地の部分に何かが当たってパラパラと雨が降ったような音が響く。
頭上の音に少年はびくりと身をすくめたけれど、朱雀はさらに深く笑みを深めただけだった。
傘に弾かれて転がり、煌めきながら中庭へと落ちていくのは宝石人たちが流した役に立たないインクリュージョンの多いクズ石だ。
他人を妬む宝石人が、妬む相手が渡り廊下を渡る時に嫌がらせとしてぶちまける。
おかげで、この娼館の中庭はさまざまな宝石で埋め尽くされて、まるで星を飼っているかのような輝きを放っていた。
ともだちにシェアしよう!

