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第2話
「朱雀さまに……石を投げるなんて……」
「およし、シオン。そうやってでしか鬱憤を晴らせない、可哀想な子たちなんだよ」
おっとりとそう返し、朱雀は眦に赤いラインを引いた目で階上をサッと睨み上げる。
こちらを見下ろしているのは、朱雀がいるためにNo.2の「セミプレシャス」から上がることができない宝石人。
本来なら美しいと賞賛される顔を、ハンカチでも引き裂きそうな表情に変えて覗き込んでいる。
「 ふ」
朱雀はそんな相手に向かい、艶然と笑ってその場で優雅に一回転してポーズを取ってみせる。
その瞬間、茶屋のある一の棟の方からどよめきが起こり、拍手喝采が巻き起こった。
衣装だけでない、その身のこなしと微笑だけでこれだけの人を沸かせる朱雀に、シオンは憧れの目を向ける。
朱雀はそんなシオンの頭を長い爪がついた手で優しく撫でてから、再び優雅に歩き出した。
二棟ともに五階建ての巨大な木造建築であるここは、闇に溶け込みそうな外観とは違い内観は隙なく天井まで金箔と螺鈿で装飾され、この世の贅を尽くしたような艶やかさと豪華さが入る者を別の世界へと誘う。
その一の棟と二の棟を繋ぐのが、先ほど朱雀が道中を行った渡り廊下だ。
深い朱色の柵を持つそれが幾本も架けられている異様な様子は見るものを圧倒する。
提灯の灯りを反射して艶めかしく濡れたように光っている渡り廊下に、朱雀の打ち掛けは燃えるような紅蓮を見せながら翻る。
金糸で刺繍された巨大な霊鳥が命を得たかのように羽ばたく様に、その場の客たちが息を呑む。
黒檀の三枚歯の下駄が鳴るたび、渡り廊下のではクズ石が投げられ、まるで星空の中を一羽の鳥が飛んでいるかのように幻想的だった。
朱雀はその煌めきをピジョンブラッドを湛えた瞳に映しながら真っ直ぐに見据えた方向へと進む。
はっきりとした意思を持って進むその双眸は、周囲の豪奢な装飾さえも霞ませるほど鮮烈で、目を離そうとしても離せない魔性の美しさだ。
皆がうっとりと見つめる先で、精緻な龍の彫刻を施された場所を抜け、白磁の香炉から漂う沈香を纏いながら一番豪華な意匠が施された部屋の前にたどり着いた。
その扉をシオンが開け、朱雀が静々と入る。
行灯の明かりで薄明るい上り框の先にある襖の向こうからは、三味線の華やかな音色と男たちの笑い声が漏れ聞こえてくる。
シオンは慣れた手つきで朱雀の服を整えて襖の前に立たせると、膝をついて声をかけた。
「旦那様、お連れいたしました」
本来ならばここで、襖の向こうにいるこの場で最も上座の人間からの許可を受けてシオンが襖を開くべきだと言うのに、返事も何もないままに襖は勢いよく開かれて、中から一人の大男が顔を覗かせた。
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