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第14話
忌々しそうに言うと、ヴィクトールは光を嫌う生き物がそうするように、暗がりへと足を向けた。
過剰なほどの豪華絢爛な表と違い、どうやら裏に当たる空間は薄暗く可能な限り存在感を消すように明暗をつけているようだった。
「建物が大きすぎる。維持費を考えると無駄が多いだろう……だが、管理の面で言うならば……」
ヴィクトールは呟きながら銀色のシガレットケースから一本の煙草を取り出す。
自身は好んで吸う質ではなかったが、商談の間を持たせる場合や煙草休憩だと言って抜け出す際には便利な言い訳の道具になる。
今回も喫煙所を探していたのだと言う体を装い、本来なら客であるヴィクトールが目にするはずのない場所を進んでいく。
暗い廊下を進むヴィクトールに、酷く耳障りな怒声が届いた。娼館自体がその扱う商品のせいで陰鬱とした空気が漂いやすい場所だ、故にどこの国の娼館でもそうなのだろう と、ヴィクトールは無視をして立ち去ろうとした。
下手な場面に居合わせて、見学もできずに連れ戻されるのは御免だった。
「おい、このクズ石。どうせ何の価値もないんだろ!」
「グレーの瞳なんて、見てるだけで不吉なんだよ!」
グレーの瞳?
それは未だ何の宝石人かわかっていないレイテンシ・グレーのことだと、ヴィクトールはふと足を止めた。
すれ違った際に見かけた灰色の着物の少年たち、それらはデビュー前……こちらでは水揚げ前の原石(フラグメント)たちだ。その中に一人、未だ濁った灰色の瞳をした少年がいたのをヴィクトールは覚えていた。
印象に残っていたのは、その年で未だに瞳がレイテンシ・グレーだったこともあるが、朱雀の側にいたからだ。
朱雀の付き人と見て間違いはなさそうだ と、ヴィクトールは一歩踏み出す。
そこには数人のフラグメント達に囲まれ、水をかけられたのか灰白の髪は濡れて頬に張り付いていた。
次々と根拠のない、憂さ晴らしのためだとわかる言葉が投げつけられても、シオンは抵抗らしい抵抗もせずにただ顔を横に向け、その無機質な瞳で壁の染みを見つめるように虚ろなままだった。
濁った灰色の瞳が沈黙によってさらに澱みを増したように見え、ヴィクトールの視線はさらに冷ややかなものになっていく。
「お前なんてフラグメントの価値すらないんだ!」
「それ脱いで、出てけ! ユズリハさまだって、価値のない宝石に居場所はないっておっしゃっていたぞ!」
そう言うと残忍な手はシオンの着物の襟を引っ張り、帯を解こうと力を込め始める。
その時になってやっと、シオンの瞳がゆらりと揺れた。
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