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第15話
野暮ったい灰色の衣が乱されて雪のような白い首筋が覗く、引き下げられて大きく開いた襟からは柔らかな曲線を描く胸元が見え……もうわずかでもずれれば、秘めた場所をあらわにしてしまいそうだった。
その瞬間、静観し、まるで上質な肉を品定めする観察者のようだったヴィクトールの黒い瞳がぴくりと動く。
「……そこまでだ」
低く、しかし有無を言わせない声が薄暗い廊下に響き渡った。
フラグメントたちは一瞬にして動きを止め、凍り付いたようにヴィクトールを振り返る。
色とりどりの煌めく視線の先にあるのは、すべての光を飲み込んでしまいそうな真っ黒な髪と瞳をした男だった。
客ということは違いなかったが、それだけじゃないことにフラグメントたちはすぐに気がつく。身につけているものの質が一目見てわかるほど上等なもので、冷徹に見下ろしてくる視線だけでその男が支配者なのだと知らしめてきたからだ。
ヴィクトールは咥えていた煙草に火を点けると、嫌悪を隠そうともしない態度でまた一歩近づく。
「その粗末な遊びに、俺の貴重な煙草の時間が邪魔された」
ヴィクトールは一歩踏み出しただけだというのに、その冷たい視線に晒されてフラグメントたちはよたよたと後ずさる。
水をかけられて着物を乱されたシオンの虚ろな瞳とヴィクトールの漆黒の瞳が真正面からぶつかった。
灰白の髪の間から覗くレイテンシ・グレーの瞳は、ヴィクトールを見ているはずなのにそこに何もいないかのようにぼんやりと揺れるだけだ。
絶望も、恐怖もない、ただ深い無関心と諦めにも似た静寂がないまぜになったような……
けれどそれが、ヴィクトールに得体の知れない「何か」を垣間見せる。
「あ あ、の、お客さま、こちらは従業員用のつう ろ ……ひっ」
睨まれて、トパーズの瞳を持つ少年は怯えたように引っ込んでしまった。
「お前たちは、これ以上私の休憩の邪魔をすると言うことだな?」
声は怒鳴るものではなかったけれど、フラグメントたちを怯えさせるには十分だった。
宝石の瞳を潤ませながら、フラグメントたちはヒソヒソと何か言い合い……けれど、退散することが一番だと結論が出たようで、蜘蛛の子を散らすように消えていく。
ヴィクトールは最後の一人が消えたのを見送ってから、携帯灰皿に一口しか吸っていない煙草を押し付けた。
「…………」
シオンは床にへたり込んだまま立ち上がろうとしない。それどころか明らかに自分を助けたヴィクトールへ、感謝の言葉も送らなかった。
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