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第1話
授業が終わり、張り詰めた空気からようやく解放された。
最後のチャイムがなった瞬間、胸の奥で固まっていたものがフッとほどける。
窓から差し込む光が一段と明るく感じられ重かった肩が自然と軽くなった。
廊下に出ると、ひんやりした校舎の空気と、外から入り込む初夏の香りが混ざり合っている。
靴音が軽く響き、教室にいた時よりも呼吸がしやすく、歩くテンポまで自然と早くなる。
校門を出ると頭上には爽やかな青空が広がり、新緑の香りを含んだ風が頬をかすめる。
汗ばむ前の心地よい風は、和也の髪をくすぐりながら「さあ、動け」とでも囁くようだ。
一年を通して最も身体が動きやすく、心も軽くなる季節だ。
背後では部活に向かう声や笑いが重なり、学校全体が昼下がりの自由な空気に包まれていく。
和也はラケットの重さを掌で確かめながら、ゆっくりとテニスコートへ向かった。
身体は軽いとはいえ得意ではない運動に気後れはある。
それでも、この季節だけは「今日も少し頑張れるかもしれない」と思わせる。
和也は、大股にならないように、慎重にステップを踏みながら、右サイドに打ち込まれたボールへ食らいついた。
足さばきはどうにか形になっているものの、一歩が遅れがちで踏み込みは浅い。
そのせいで身体の軸がほんのわずかに後ろへ傾く。
それでも腕だけで帳尻を合わせるように振り抜き、なんとか相手のバックへ返そうとした。
しかし、ボールは思った以上にラケットの上を滑り、ふわりと浮いた軌道のままラインをかすめて外へ落ちていく。
「腰が高いぞ。腰が高いからボールが浮いてしまうんだ。」
コーチの声が、陽射しの中に響く。
同じ指摘は何度目だろう。和也は苦笑にも似た息を吐く。
分かっている。
言われてきた通り、もっと膝を落とし、下半身で支えればいい。それなのに、いざ打つ瞬間になると足の力が抜け、上半身だけでなんとかしようとしてしまう。
球速を上げようとすると決まってボールはコートの外に飛んでいく。
「ボールの下を見ろ」と注意されても、打つ瞬間にどうしても顎が下がってしまう。
その癖が抜けない。ラリーが続くたびに、ぎこちなく応じる和也の動き。
相手の速いボールが来ると、怖さがほんの少し混ざった息が漏れ、スイングはどうしても縮こまる。
打ち返すたびに、ふっと浮かぶ安堵の表情……。
今現在、高校二年生の三ツ橋和也は、青空の下で、額に汗を滲ませながら、テニスの指導を受けていたが、お世辞にも巧みなプレーとはいえるものではなかった。
だが、その拙さと必死な追いかけ方には、見ている者が思わず応援したくなるような、不器用な真剣さが滲んでいた。
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