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第49話

「亮介……話がある。黙って聞いてくれ」 佳孝は、先ほどまでの鋭い口調とは打って変わって、落ち着いた穏やかな声で亮介に向き直った。 「よく考えてほしい。お前は次期社長の立場にある。あれだけの会社を守り、継続のことも考えなければならない。家を継ぎ、子を持つ相手が必要だろ? 亮介なら、きっと社長夫人に相応しい相手が見つかるはずだ。長い目で見ればその方がいい……。お前にとっても、きっと」 その口調には、諭すような優しさがあった……だが、言葉には的確な核心を突いていた。 「和也のことだけど――。お前、本当にあいつを『正式なパートナー』として迎え入れる覚悟があるのか? 言っておくが『愛人』なんて扱いは絶対に許さない……そして、他に愛人を作るなんてのも、なおさらだ、そんな条件で、お前の両親が納得すると思うか?」 その言葉を聞いて亮介は、しばらく黙り込んだ。 何も言い返せず、ただ目を伏せたまま俯く…だがその瞳の奥には、微かな感情のうねりがあった。 悔しさか、羨望か、それとも、あきらめなのか……。 しばらくの沈黙の後、佳孝が静かに言った。 「和也は俺の隣で、今を生きているんだ…自分の意思で……だから、あいつを不安にさせるものがあるのなら、俺が全力で守る」 —―和也を守る…たとえそれが過去の影だったとしても、その決意だけは誰にも譲ることはできなかった。 少しの沈黙の後、亮介が口を開いた。 「おい、どうして和也がここに居るって分かったんだ? しかもこのタイミングで……」 その問いに対して、佳孝は口元を僅かに緩めて答えた。 「そのタイミングの良さは、本来お前の得意技だったけどな……。実は、何もなければ和也は一時間おきに、俺にメールを送る約束になっていたんだ。 それが時間になっても届かない。嫌な予感がして……一か八か、この場所に賭けてみたという訳だ」 亮介は、しばらく言葉を失いただ唖然として佳孝を見つめた。 「俺の言いたいことは、もう全部言ったよ。ああそうだ、合鍵を返しておかないとな」 佳孝はポケットから鍵を取り出し、テーブルの上に静かに置いた。 「隠し場所だけど、変える必要はない。もう俺がここを訪れることはないから」 それだけを言い残すと、佳孝は慌てることなく部屋を出て行った。 亮介は、その背をただ黙って見送るしかなかった。

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