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第48話
「俺は、大学も就職も東京に拠点を移した。でもな、和也のこと忘れた訳じゃない…時々ふっと思い出してたよ、お前どうしているかなって」
和也は、ちらりと亮介の横顔を覗った。
「久々に此方に戻ってきて、その……風の噂で耳に入ってきたんだ。お前と佳孝が一緒に居るって…」
亮介の声が僅かに熱を帯びる。
「納得がいかなかったんだよ。佳孝の奴、昔から何考えているのか分からないところがあった。ずるいんだよ…黙って近づいて、いつの間にかお前の傍にいて、気づいたら…お前があいつのものになるってことが……どうしても認めたくないんだ!」
そこまで言って、亮介は拳を握りしめる。
その言葉には、嫉妬や悔しさ、取り残された想いが複雑に入り混じっていた。
(そんなこと言われても……)と和也は心で思いながら、何も言えずただ黙ってその想いを受け止めることしかできなかった。
亮介の言葉は乱暴で、どこか息苦しさすら感じていた。
この場をどう終わらせればいいのか、和也は答えを見つけられず曖昧なまま視線を落とした。
だからといって、この居心地の悪い場所にいつまでも居る訳にもいかず。
「あの……僕、本当のこと話したよね。だから、もう帰ってもいいでしょ」
和也はそう言って、出口の方へ足を向けようとした…けれどその瞬間、亮介が静かに、しかしはっきりと前に立ちはだかった。
「佳孝……あいつ、自分だけいい子になって、お前を独り占めにしようだなんて絶対に許さないからな…!」
低く吐き捨てるように言うと、亮介は突然和也の腕を掴み、そのまま強引に床に押し倒した。
「えっ!?、やめて。お母さんが居るんでしょ」
慌てて訴え掛ける和也に、亮介は…フンっと鼻で笑って言った。
「もう東京に帰ったよ。心配するな…今、この家に居るのは俺とお前だけだ」
「えっ…そんな……!」
ぞくりとした悪寒が、和也の背中を走り抜けた。
胸の奥で、誰かに助けを求める声が微かに響いていた…だが、そんな思いも届かぬまま、亮介は容赦なく和也の唇を奪った。
(ま、まさか……嘘でしょ。亮介とキスするなんて……まだ、佳孝とだって……)
頭の中で言葉にならない叫びが響く。
和也なりに必死でに抵抗を試みたが、濃密で執拗な行為に、次第に力を奪われ抵抗する気力がなくなっていく。
身体の自由が効かなくなったその隙を突いて、亮介は唇を離し、得意げに笑みを浮かべた。
「やっぱり、俺とお前は相性がいいんだよ。お前の身体のことは俺が一番
理解している。だから俺のものになれよ! 悪いようにはしない。年寄りが居るんだろ? どうだ良い施設でも紹介してやるぞ」
亮介の懇願する視線と小馬鹿にするような視線が混ざり合う……。
「それとも、佳孝がそんなにいいのか? あいつセックスうまいか…もうとっくに許してるんだろ…。そういえば、あいつとやってる時、一番いい声出してたよな」
和也はその言葉に、頭が真っ白になり必死で反論した。
「佳孝は、そんなことしないよ…!」
「嘘をつけ、お前を前にして何もしない訳がないだろ?」
そう言って、再び唇を奪おうとした瞬間……バタン! と、扉が勢いよく開く大きな音が部屋中に響いた。
「おい! そこで何やってるんだ…!!」
鋭い声と共に現れたのは、佳孝だった。
その声に、亮介も和也も一瞬にして動きを止めた。
驚きが顔に浮かぶのは言うまでもない。
「な、なんだよ!… 勝手に人の家に入ってきて!」
先に反応したのは亮介だった…怒りと動揺を混ぜたような声で叫ぶ。
それに対し、佳孝は一歩も引かず言い放つ。
「お前こそ、勝手に人のものに手を出すな!」
「人のものだと? 前にも言っただろ。最初に目を付けたのは俺だ。こいつは元々俺のものだった。それを横から搔っ攫ったのはお前じゃないか」
「そんな昔の話はもう関係ない……とっくに時効だ。今の和也は、俺の大切な人だ」
しばらくの沈黙……。
「……それにしても、どうやってこの家に入った?」
「忘れたのか? 昔、散々ここに出入りしていたことを、俺はこの家のことは誰よりも知っている。信頼されていたからな、合鍵の隠し場所まで教えてもらっていた…。どうやらあの時から場所は変わってなかったみたいだな。
その言葉に、亮介は何も返せなかった……心の中で、二人の男を帰らせてしまったことを、ほんの一瞬後悔していた。
一方、和也はというと、乱れた服を整えながら、部屋の隅で小さく身体を丸めていた。
二人の激しいやり取りを、声も出せずにただ黙って聞いていることしかできなかった。
そんな和也の様子を見て、佳孝が声を掛ける。
「おい、和也…。こっちに来い」
呼ばれると、和也は不安定な足取りで立ち上がり、佳孝の元へ駆け寄った。
「先に行って車で待ってろ、俺は後から行く。」
そう言って、佳孝は和也に車のキーを渡す。
「おい! 和也…!」
後ろから亮介が叫ぶ……だが和也は振り返ることなく部屋を出て、そのまま足早に階段を駆け下りて行った。
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