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第2話 最悪な夜2

 店内は不思議な雰囲気だった。分厚い絨毯に民族調の壁掛け、ステンドグラス風のランプにやわらかな間接照明。どこの国とは言えない異国情緒が漂っている。  中央に豪華なソファセットがあり、その奥のカウンターで漢服というのか長袍というのか、不思議な服装の店主(だろう)がなぜかグラスを磨いていた。  オレに気づいた店主はそっとグラスを置くと、上品にほほ笑みかけた。 「いらっしゃいませ。本日はどのような攻め様をお探しですか?」  「え? 攻め様?」  テーラーじゃないのか? 「あの、ウィンドウのマネキンがおいでって言うから」 「ああ、そうでしたか」  と話している間にさっきのマネキンがやって来た。しっかりした足取りで、こうして見るとマネキンには見えない。  彼はカウンターの向こうでコーヒーをいれ始めた。まるで人間のように自然な動きだ。 「お客様がお気に召したようですね。この子は滅多に目覚めないのに」 「やっぱりAI搭載のアンドロイド?」 「いいえ。こちらは理想の攻め様を扱うお店です」  理想の攻め様?  首を傾げて、ふとその単語をどこかで聞いたと思う。 「……ああ、噂で聞いたことがある」 『理想の攻め様を売る店がある』  それは一部の上流階級に流れている噂だ。実在してるなんて思わなかった。 「ここがそうなんだ」  青年が香り高いコーヒーを出してくれた。 「ええ。ここにいらしたということは、お客様はあまり合わないパートナーに困っているのでは?」 「そうなんだ。最初はうまくいくんだけど、そのうち振られちゃうっていうか」  今日の出来事を思い出して、オレの怒りが再燃する。 「それなら理想の攻め様を試してみるのはいかがでしょう? 色々なタイプを揃えておりますよ。今なら昭和の薄幸青年、平成のインテリヤクザ、令和の料理男子などが人気です」 「へ、へえ?」  店主はピンと来ないオレの様子を見て、安心させるようにもう一度、ほほ笑んだ。 「一度、ご覧になりますか? お顔や体格の好みもあるでしょうから」  いや、いらない、と言う間もなく、自分の後ろの真紅のカーテンを音もなく開けた。  オレはずらりと並んだ攻め様を見て、息を飲んだ。こんなにたくさんの攻め様がいるとは思わなかった。攻め様の視線が集中して、オレは思わず一歩後ずさる。  服装も髪型も人種も様々な攻め様にはそれぞれプレートがついていて、年齢職業属性が書き込まれていた。昭和の亭主関白、平成の乙女男子、令和のチャラ男、各時代のスポーツマンに果ては北欧の王子様からアラブの石油王まで。  キラキラした攻め様たちを前に、オレは目を丸くしていた。  ていうか、とても現実とは思えない。  これ夢? 酔って幻覚見てんのかな? うん、きっと夢だな。 「どうでしょう、お好みに合う攻め様は見つかりましたか?」  店主に訊かれて、単純に好みの顔を選んだ。どうせ夢なら、好きな顔がいい。 「じゃあ、そのグレーのスーツの人でお願いします」  スーツは野暮ったいが、すっきりした目元が好みだ。スレンダーな体つきもいい。オレよりすこし年上だろうか。 「かしこまりました。それではまず、基本の扱い方をご説明いたします。攻め様には属性によって一日に一杯、決まった飲み物を与えてください」 「飲み物って何ですか?」 「こちらで購入して頂くのですが、牛乳かコーヒーかビールが基本設定です」 「牛乳かコーヒーかビール? それで動くんですか?」 「ええ。オプション設定のワインやウィスキーという攻め様もいますが、今回は基本設定のビールですね」  その程度なら問題ない。  食事は基本は不要だが、食べても問題はないこと。シャワーや風呂は一人で入れること。まめに構って、愛情をこめて大切に扱うこと。 「一週間以内でしたら、無料で交換が可能です。ただし無料交換は二回までなので、それまでに理想の攻め様をお決めください」  つまり三人目までに決めろってことか。いや、必要ねーし。 「攻め様は大事に扱えば、どんどん理想の攻め様になっていきます。優しく愛情を注いで理想の攻め様を育ててください」  愛情を注いで育てる? 攻め様って子供みたいだな。  説明の間に、オレが選んだ攻め様がやってきた。 「このまま連れて帰っていいの?」 「ええ。攻め様をどう育てるかはあなたの腕次第ですから、どうぞお楽しみください」  そしてオレは、攻め様をお持ち帰りした。

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