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第3話 昭和の熱血教師1
目が覚めたら、最悪だった。
「う~、飲みすぎた」
「そうですね。昨日は大変でした」
すぐ横から声が聞こえて、オレはぎょっとして体を起こした。
上半身裸の男がいる。
「え? だ、誰?」
昨夜は一人で店を出たはずだけど、どっかでナンパした? 酔ったはずみで持ち帰ったのか?
あわてて記憶を確認していると、男がいくらかさみしそうに言った。
「忘れてますか? 理想の攻め様として私を選んでくれたでしょう?」
男の言葉で、一気に昨夜の夢を思い出した。ていうか。
「夢じゃなかったのか」
「思い出してくれました? ところで、今日は休日ですか?」
「え? ああ、うん。日曜だし」
「では、そろそろ起きましょうか」
時計を見れば、まだ朝の八時だ。
「いや、もう少し寝る。二日酔いで気分悪いし」
「そんな時こそ早起きして動いたほうが早く酒が抜けますよ。根性入れて起きてしまいましょう」
「いやいやいや」
なんだ、根性って。
「休日にだらだら過ごすなんてもったいない。梅干しはありますか?」
「は? 梅干し? 冷蔵庫にあると思うけど」
頂き物を母親が送ってきたのが残っているはずだ。
攻め様は身軽に起き上がり、キッチンへ行ったようだ。上半身裸どころかパンツ一枚だ。あわてて自分の体をチェックしたが、服も着ているしエッチしたような痕跡はない。
ベッドに寝転んで頭痛をこらえていると、攻め様がパンツ一枚で堂々とマグカップを持って戻ってきた。
顔も好みだし、細身だけどうっすらと腹筋が割れていていい感じだ。
「二日酔いにはこれが効きます」
熱々のほうじ茶の中に梅干しが入っている。
「わざわざ作ってくれたの? ありがと」
べつに欲しくなかったけど、せっかく作ってくれたから飲んでみた。
「え、うま」
「頭がすっきりして気合いが入るでしょう?」
攻め様はにっこり笑う。
まずいな。好みの顔だからドキドキしてしまう。ていうか、気合いって何だよ。
「ところで、どうしてそんなカッコなの?」
「オーナーが酔って吐いたので」
オーナーってオレだよな?
「え、まじで? それはごめん。とりあえずこれ着てて」
あわててTシャツとハーフパンツを渡すと攻め様は素直にそれを着た。
「ありがとう、オーナー」
「その呼び方、どうにかならない?」
「では何と呼べばいいですか?」
「普通にセナでいいけど。えーと、攻め様の名前は?」
「ありません。名前はオーナーにつけていただくものなので」
「そうなの?」
攻め様は待てをされた犬のようにわくわくした雰囲気でオレの言葉を待っている。その様子を見ていたら、すっと浮かんだ名前があった。
「ええと、じゃあ、あきら」
実家で飼っていた犬の名前だ。
「わかりました。では、セナ、これからどうしますか?」
それはこっちが訊きたい。
オレは急いで鞄を探った。攻め様の取扱説明書が出てきて「属性 昭和の熱血教師」と書いてある。さっきの根性論やら気合いやらはこのせいか。さすが昭和。
「まあとにかく、酔いつぶれるまで飲むのはやめた方がいいですよ。肝臓にもよくないですし、将来体を壊します」
「飲まずにいられるかっつーの」
怒りが再燃し、オレは昨日のことをあきらに話した。
「それは確かに災難でしたね。彼とはどこで知り合ったんですか?」
「クラブのゲイナイトで」
「クラブ? つまり不良の溜まり場ですね。そんな場所で知り合う相手はろくでなしに決まっています」
あきらの断言にオレはあわてて現代常識をかぶせた。
「いやいや、普通の遊び場だよ」
ちょうど前の彼とケンカ別れしたとかで、会ったその日に部屋に転がり込んできたのだ。
「それはちょっと無防備すぎませんか? 同棲するならもっと互いを知ってからじゃないと」
あきれた顔をするあきらにオレは言い訳する。
「身元はわかってたよ。学校の後輩だったから」
オレは幼稚舎から大学までエスカレーター式の私学に通っていた。何年もほぼ同じ顔ぶれで過ごすから、学年が違っても全員が顔見知りだ。
あいつは中等部から入ってきて、好みの顔だったからすぐに覚えた。
「なるほど。顔に釣られたわけですか。でも一緒に住む必要はなかったのでは?」
「そうだけどさ。行くとこないっていうのに、追い出すのはかわいそうだろ」
部屋はあるし体の相性もいいし、特に追い出す理由は思いつかなかった。もちろん、甘やかすとつけあがるとわかっていたけど、あいつはおねだり上手でついつい言うことを聞いてしまっていたんだよな。
「それはセナも悪いです」
「何がだよ?」
「甘やかすとつけあがるとわかっていて、衣食住の面倒を見たのでしょう? そういう人は寄生できる相手だとわかると際限なく寄りかかってきますよ。つまりあなたはいいカモだったということです」
ズバリと言われて、温厚なオレもさすがにムッとした。
「わかってるよ。そのくらい」
いつもそうだ。オレとしてはちゃんとつき合っているつもりでも、相手には都合がいい男と思われてしまう。
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