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第4話 昭和の熱血教師2

「オレは本命にはなれなくて、いつも誰かのスペアなんだろ」 「そこまで卑下しなくても。セナは見た目もキレイだし素直で優しい性格です。ただ、生活態度はよろしくない。そこを改めれば、きっと幸せになれます。ですが、そのためには自制や我慢や努力も必要です」  オレはぽかんとあきらを見た。まじめな顔して何言ってんだ。ああ、そうか、これが熱血教師か。 「私の協力が必要ならそのための協力は惜しみません」 「そ、それはありがと」  真面目さに若干ビビりながら、そろそろと立ち上がる。 「ちょっとシャワー浴びて、なんか食べる。あきらは食事しないんだっけ?」 「はい」  背筋を伸ばして座っているあきらから逃げるようにシャワーを浴びて、レンジでチンするパスタを食べた。その間、あきらはテレビを見ていた。現代常識が身に着くといいな。  コーヒーを飲んでいるうちに、二日酔いの頭痛も治まってきた。  パラパラと取扱説明書を読むと、攻め様はオーナーを慰撫するのが最大の使命で、ようするにひきこもりだ。社交性はあまりないらしい。つまりほかの人には懐かない。  毎日、決まったドリンクが食事になり、月に一度メンテナンスが必要。  属性によっては外出が好きなタイプもいるようだ。娯楽や食事を与えるのは自由。何より大事なのは「愛情」を与えること、とある。  愛情? そんなの、どうやって与えたらいいんだ?  犬でも飼ったと思えばいいのか?  ていうか、まずは着る物がいるよな。 「服買いに行こうか」  あきらはオレより十センチほど身長が高いし、スーツも買いなおさないと。手洗いしたらしくスーツはベランダに干してあったが、オレが汚したのにそのまま着せるのは嫌だった。  攻め様はオーナーの提案には基本的に従うようにできていて、あきらは素直についてきた。貸した服は若干丈が足りないが、そこまでおかしくはないのでほっとした。 「初めてのデートですね。うれしいです」  そうか? この程度でデートとかいう?  あきらはしっぽでも振っていそうな笑顔でオレの横を歩いている。  ひとまず駅前のカジュアルショップで部屋着を見ていると、あきらがいきなり側にいた男子高校生の手をつかんだ。 「待ちなさい、君」 「な、なんだよ」  制服姿の男子が驚いた顔であきらを見上げている。 「鞄に入れたものを出しなさい」 「……」 「万引きは犯罪ですよ」  低い声でささやくように言う。 「こんなことをしたとご両親が知ったら悲しみに暮れるでしょう。学校にも連絡が行くし、君の将来がつぶれます。それに盗んだ服を着て、君は本当に満足するのですか? 良心は痛みませんか?」  言っていることは正論なのだが、男子高校生はきょとんとした。  そのあとすぐに眉を寄せて剣呑な顔になる。 「何わけわかんないこと言ってんだよ」   腕を振り払った男子高校生は大股で店を出ようと歩いて行く。その背中にあきらはさらに言った。 「本当にいいんですか? すべての行いはご先祖様が見ていますよ」  男子高校生は薄気味悪そうにあきらをちらりと振り返り、一目散に駆けだして行った。 「私の力不足のようです。改心させることができませんでした」 「いや、しょうがないんじゃね」  周囲の注目を浴びたオレは急いであきらの手を引いて、その店を出たのだった。  夕食はデリで買ってきた。  あきらには設定通りにビールを出す。グラス一杯をうまそうに飲んでいた。これで動くなんて不思議だ。  人間に見えるけど、人間じゃない。生きた人形という理想の攻め様は、サイズの合う部屋着を着てくつろいでいる。オレとの会話もスムーズだ。 「セナは自分の顔が嫌いなんですか? とてもキレイで整った顔立ちだと思いますが」 「オレはあきらみたいなカッコいい系のきりっとした顔に生まれたかったよ。この顔のせいで嫌な奴に迫られることも多いしさ」 「そうですか。ままならないものですね」  その言葉のチョイスに笑う。さすが昭和。 「でも私はセナの顔が好きですよ」  言ったと同時に指で顎を持ち上げられ、キスされた。え、ちょっと。 「待って」 「どうしました?」 「そういうのは求めてないから」 「そうなのですか?」  意外だという顔であきらはオレをまじまじと見つめた。 「でもこれは私の基本動作に組み込まれているのですが」  まじか。オレの目的はそこじゃないんだけど。 「基本? しなきゃダメなのか?」 「それはつまり、したくない、という意味ですか?」 「あー、まあな」  理想の攻め様で勉強したかったとは言いづらくて、オレは目を伏せた。 「いいですよ。セナはそのままで」  え、なんで押し倒されてんの? ここはやめるとこじゃないの? 「いやいや言っていても、私に任せていればちゃんと気持ちよくなりますから」 「待てって。したくないって言っただろ?」 「抵抗されるのも燃えますよね。嫌よ嫌よも好きのうち、口では何言ってても体は別でしょう?」  昭和の暴挙をぶつけてくるなよ。  こっちの認識不足だが、これが基本に入っているとは知らなかった。 「ダメだっつってんだろ!」  オレはあきらの腹に蹴りを入れ、急いで返品に行こうと決心した。

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