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第5話 令和の料理男子1

「お気に召しませんでしたか?」  あきらを受け取った店主は顎に指をあてて首を傾げた。 「いえ、そういうわけじゃなくて。ちょっと昭和の価値観はオレに合わない気がして」  エッチしたくなくてと言えなくて、オレは言い訳しながら愛想笑いをする。 「そうでしたか。属性は確かに相性がありますからね。それなら、こちらの攻め様はいかがでしょうか?」  いや、もういらない。オレには理想の攻め様の研究は無理だったんだ。  あわてて首を横に振ったが、店主はにっこり笑って一人の攻め様を勧めてきた。 「こちらは「令和の料理男子」ですので、感覚的には合うかと思います」  見た目は可愛い系の顔立ちで、サマーパーカーにハーフ丈のデニムという服装もイマドキだった。明るめの茶髪にぱっちりした琥珀色の二重の目で、にこっと笑う。 「よろしく、オーナー。今日から飯の心配はしなくていいよ。俺がちゃんと面倒みるから」  親しみやすい雰囲気だけどぐいぐい来るな。 「今回の交換は無料ですし、彼はとても人気のあるタイプですから、ぜひどうぞ」 「いや、でもほんとにオレは」 「食べたい料理ある? 大抵のものは作れるし、わからなくてもレシピくれたら作るよ」  なかなか魅力的な申し出ではある。料理できないオレにとっては、彼氏の手料理は憧れのシチュエーションの一つだ。 「どんな攻め様が合うか、試してみないとわかりませんでしょう?」  店主にもそう畳みかけられ、オレは「令和の料理男子」の攻め様を連れ帰ったのだった。 「へー、いいとこ住んでるねー。セナってお坊ちゃま?」  マンションの部屋をぐるりと見回して、攻め様はにこにこしている。  琥珀と名付けた攻め様はうきうきとキッチンに入って、買って来た食材を冷蔵庫にしまい、棚を開けてチェックを始めた。 「鍋とフライパンが一つずつしかないのか。じゃあ、肉焼いて、パスタとスープでいい?」 「すごいね、うちでそんな料理食べたことないよ」  そして出てきた料理は本当においしかった。なるほど、胃袋を掴まれるってこういうことか。オレは料理しないし、相手もできないことが多かった。 「琥珀は食べないの?」 「気にしなくていいよ。適当につまむから」  琥珀はオプション設定のワインを飲みながら、肉をちょっとだけつまんだ。 「セナはうまそうに食べるね。料理のしがいがある」 「これ、本当においしいし。トマト缶でこんな本格的なソースができるんだ」 「気に入ったならいつでも作ってあげるよ」  あまったるい笑顔を浮かべた琥珀はオレの髪を優しくなでた。なんだかドキドキする。こんなふうに優しくされたことがあまりないんだ。  カウンターで横並びに座っているから、琥珀はそのまま耳を摘んだり頬をなでたりもする。くすぐったくて肩をすくめた。 「嫌だった?」  困ってしまってちょっと身を引くと、琥珀はからかうような目つきでオレをのぞきこむ。 「嫌じゃないけど、なんか照れるよ」  こんなスキンシップはされたことがない。それにオレからもしたことがない。  オレがつき合って来た相手はわりと外出好きで奔放なタイプが多くて、こんな感じにまったり過ごしたことがないんだと気づかされた。 「へえ、もったいないね。セナはとてもかわいいのに」  いい雰囲気を作ろうとしているのに気づいてオレは先手を打った。 「琥珀。先に言っとくけど、オレはエッチはいらないから」 「え? なんで?」  琥珀もあきらと同じように首を傾げた。だからオレは正直に言うことにした。 「いや、実はオレもタチ、攻めなんだ」 「え、そうなの? セナが攻め?」  琥珀は目を丸くしてオレを見つめた。 「じゃあなんでうちの店に来たの? リバ希望? 開発されたい?」  それでもいいよとウィンクされて、あわてて首を振る。令和の攻め様はずいぶんと柔軟な考えを持っているらしい。 「ウインドウのマネキンがおいでって言ったから。それに、理想の攻め様を研究したくて」 「研究? ってどういう意味?」 「オレの恋愛がうまくいかないのは、何か悪いとこがあるのかと思って。理想の攻め様を見てれば、それがわかるかと思ったんだ」 「なるほどね、それでお試ししてみたんだ」  琥珀はワインをぐっと飲み干すと、獲物を捕らえたような隙のない笑顔になる。 「だったら、エッチも体験しないと意味なくない? 理想の攻め様のテクニック、知りたくないの?」 「え?」  まさかそんなことを言われるとは思わなくて、オレは唖然とした。 「理想の攻め様の真骨頂はエッチだよ? 体験しないなんてもったいないよ?」  そう言われると、確かにもったいないような気もしてくる。だけどずっとタチだったオレにはハードルが高い提案だ。 「じゃ、キスだけしてみよ? それくらいならいいでしょ?」  キスだけ? まあそれならいいか?  オレが迷っている間に、琥珀はキスを仕掛けてきた。  ちっとも強引じゃなく、触れるだけの優しいキスだ。何度も唇を触れ合わせて、ゆっくりとオレの気持ちをほぐすように舌でつついてくる。  迷いながら唇を開くと舌が入ってきた。くそ、正直うまい。オレがぼうっとしているうちに、手のひらがシャツの裾から入ってきて、ゆったり体をなでている。  琥珀の指が胸に触れて、小さな突起を摘んだ。 「あっ…」  思わず声を上げてしまって、かっと頬が熱くなった。 「気持ちいいでしょ?」  いつの間にかシャツははだけられていて、リビングのソファに連れていかれた。これはまずい。

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