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第1話 俺の名は
「いってぇ…んだよ」
後頭部の強烈な痛さで視界が揺らいだ。
なんなんだよ?
「いい加減にしろっ、学園でまで爵位を持ち出すな。婚約者なら、私の気持ちを理解しろっ」
目の前の男は言いたいことを言って立ち去ろうとした。
んだコイツ?
奴の付き出した手を考えると、俺の後頭部が痛いのはコイツに突き飛ばされ壁に頭を打ち付けたってのが正解だろう。
あいつは俺の事を「婚約者」って言ったよな?
男の俺を婚約者って可笑しいだろ?なにかの冗談なのか?
そもそもあいつ、誰だよ。
この状況が可笑しいのは更に婚約者発言した男の隣には勝ち誇った顔をした「男」がいた。
肩を抱かれ寄り添うように…男が男に。
どうなってんだ?
その前にここは外国か?
金髪金目の外国人顔の奴に、ピンク頭に茶色い目って…コスプレか?
俺、いつこんなイベントに来たんだ?
まさか俺…漫画とかにある解離性同一性障害って奴なのか?
やべぇ、状況が全く理解できねぇ。
まず一つずつ解決していくしかねぇよな?
「お前って俺の婚約者なの?」
目の前の男に疑問をぶつけた。
「………な…に…言ってるんだ?」
金髪野郎は信じられないようなものを見る目で俺を見るが、俺だって信じらんねぇんだよ。
「いやぁ、頭打ったせいでお前の名前も関係性も忘れたわ…あんた誰?」
正直に今の俺を話した。
「……嘘だ…私を忘れるわけ…ないだろ…」
えっ?
自意識過剰発言?
ナルシストかぁ。
めんどくせぇな。
「いや、だから答えろよ。お前…誰だよ?」
俺の言葉に勝ち誇った顔していた男の方が焦りだし耳打ちしていた。
「……本当に言ってるのか?」
「つうか、ここどこだよ」
辺りを見渡し建物の窓ガラスに映った顔に驚愕した。
俺と同じ動きをする見知らぬ他人。
…嘘だろ?
「アティラン?」
「あの…グラキエス様?」
ガラスに夢中な俺に話しかける男達…。
様の前に言う言葉は確か名前だよな?
グラキエスつった?
すげぇカタカナ。
ガラスに映る奴もカタカナが似合う容姿だった。
プラチナブロンドに青い瞳…俺の想像する俺ではない俺がいる。
「…グラキエスって…俺?」
「…アティラン…本当に分からないのか?」
俺の婚約者だと名乗る金髪野郎が困惑顔で近付いてくる。
ピンク頭と一緒に…。
「アティランて…何?」
「アティランはお前の名だ、家名がグラキエス…。」
金髪野郎は子供に話すように丁寧に俺に教える。
俺の状態を半信半疑で対応していた。
「アティラン グラキエス…すげぇカタカナ…まじ?」
「グラキエス様…もしかして…」
「嘘だろ…」
なんでこうなった?
俺は黒髪黒目の純日本人だったはず。
確か…地震だっ。
大きな縦揺れを感じたと思ったらバランスを崩し駅の階段から落ちたんた。
その後は…記憶がない。
なら、あの時俺は死んだのか?
「俺は…死んだのか?」
「いや、アティランお前は生きている」
横から金髪野郎が口出ししてくる。
手を伸ばしながら俺に触れようとする態度に何故か嫌悪感が生まれ、近付いてくるコイツらに不快感を全面に出しながら一歩離れ距離を取った。
その時、金髪野郎が苦悶の表情を浮かべたが今はコイツを気にしている余裕はなかった。
俺は…生まれ変わってアティラン グラキエスって奴になったのか?
それとも俺はアティラン グラキエスつて奴の身体に入っちまったのか?
だめだ全然わかんねぇ。
…頭いてぇ。
「アティラン…医者に見せるか?」
「んあっ…あぁ…そうだな…」
金髪野郎の提案を受け、わけも分からず三人で保健医の元へ向かった。
歩いているだけなのに多くの生徒から視線を受け、注目される事に居心地の悪さを感じた。
金髪野郎もピンク頭を横に連れながら何度も振り返り俺を確認してくる。
先程まではイチャつき金髪野郎が肩を抱いていたが、今はピンク頭が腕にしがみついていた。
どうでも良いけどよ、前見て歩けよ…ぶつかんぞ。
保健医は俺達三人の組み合わせに隠すこと無く驚いていた。
なんとなくだが今までのやり取りを総合すると、俺と金髪野郎は婚約中でありピンク頭は金髪野郎の浮気相手ってことだろ?
その三人が一緒に歩いていたら注目されるわ、困惑されるわな。
保健医との受け答えでも、俺の言葉使いに俺以外の人間は困惑していた。
「…まるで、別人ですね…」
「はぁ」
元がどんな人間か知らねぇけど、あんたらの反応からしてそうなんだろうな。
「グラキエス家に報告して様子を見ましょう」
「はぁ」
「貴方達に窺います、彼に何があったのですか?」
「あっいやっその…」
金髪野郎が分かりやすく口ごもった。
当然だな。
浮気してる所を婚約者に見つかり暴力振るって記憶喪失にさせた、なんて言えねぇよな。
「グラキエス様が転んで頭を…」
「いや、俺転んでなかったから。」
ピンク頭が俺が記憶喪失を良いことに嘘を言い出したので、すかさず訂正した。
「………」
ピンク頭はそれ以上何も言わなかった。
「貴方達…」
「ち、ちがっ私は」
「気が付いたら壁に後頭部を打った後で、目の前にはこの男が俺に手を付きだしてたなぁ。」
「「………」」
俺の言葉にもだが、浮気野郎達は黙ってしまった。
婚約者?である俺の前で堂々と浮気を繰り広げる奴だ、きっと過去の俺は耐えていたか立場が弱いかで我慢していたんだろうな。
「今回の事は確りと調査します。お二人とも如何わしい行動は取らないこと、良いですね。」
「「……はぃ。」」
保健医であっても生徒より立場は上、彼の厳しい言葉に二人は反論しなかった。
このやり取りからして、浮気野郎達の行動は周知の事実だろうと理解できた。
記憶を失った俺には二人に興味もなく他人事のように判断できる。
堂々と浮気するとかすげぇな。
「なぁ、金髪」
俺の言葉にこの場にいる三人が驚いていた。
「…グラキエス…覚えてないかもしれないが、彼は君の婚約者でありこの国の第一王子リーヴェス アフェーレ王子です。」
「浮気野郎っすよね?」
軽蔑の含んだ俺の言葉に三人は硬直した。
「「「………。」」」
「婚約解消で」
「「………」」
「…ひっ…」
俺自身がどういう立場なのかは分からないが、ピンク頭がビクッと反応したのを目撃した。
「文句ねぇよな?婚約者の目の前で他の野郎の肩抱いてんだからよ。」
俺の言葉にこの場にいる三人は沈黙した。
「なんか喋れよ。」
「ぉっまえは…誰だっ?」
金髪野郎は顔面蒼白って言葉が似合うほど顔色を悪くした。
そんなに困るんだったら最初からすんなよな。
「今更その質問かよ?アティラン グラキエス?なんだろ」
「本気で婚約解消していいと思ってるのか?」
金髪野郎は焦ったように声を荒げてくる。
「ダメなのかよ?」
「き、記憶が戻った時、こ、後悔するぞっ」
知れば知る程不愉快な奴だな。
俺が強気になればなる程、狼狽えやがって…小心者が浮気なんてしてんじゃねぇよ。
「そん時はそん時だな。浮気野郎と婚約し続けるなんて今の俺には考えらんねぇよ」
この場にいた三人が声も出せずに瞬きを繰り返していた。
「んじゃそう言うことで、お前らもう帰っていいよ。後の事は保健医に聞くから。じゃぁなっ。」
相手に有無を言わせず「帰れ」という意味を込めて言葉で送り出した。
二人は混乱したまま部屋を出ていった。
特に金髪野郎は足元がフラつかせながら、ちっこいピンク頭に引っ張られていったな。
俺にはもう関係ない奴らだけどな。
「…貴方は本当にアティラン グラキエスですか?」
再度確認する保健医に俺もなんて答えて良いのやら…。
「んぁ、多分…覚えてないっす。」
「…そう…ですか。」
保健医は無理矢理にでも状況を飲み込もうとしていた。
「はぁ」
俺は他人事のように「ここって日本じゃねぇな…」と現実逃避していた。
新生アティラン グラキエスが生まれた瞬間だった。
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