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第2話 ここが俺の家……でけぇ

大慌てでやって来たと言うことは、きっと俺の親だろう。 どれが家族だ?男ばっかで母親がいねぇなぁ。 それにさっきから思ってたけど、この国の奴って皆顔整ってるよな。 金髪野郎は絵に描いたような王子、ピンク頭は可愛い系、保健医は雄らしさ全快にした男、んで鏡に写った俺は綺麗系。 日本人の時の俺のタイプだわ。 タイプの顔になるとか残念すぎないか? 鏡の俺に見惚れるようなナルシストになる気はないし、鏡を前に一人シコるなんて虚しいだけだろ。 現実逃避のように物思いに耽っていれば、話し合いが終わっていた。 「アティラン、お前本当に王子との婚約解消する気なのか?」 ガラス越しに映った俺にそっくりな男。 きっと父親なんだろうな…。 「んぁ?あぁ。金髪野郎は無理だな。」 「…本当にアティラン…なんだよな?」 困惑した表情で確認してくる姿をみると、本物のアティランと俺の性格は大分違うのだろう。 …あっ、俺の婚約者王子つったっけ?王子を金髪野郎は不味いのか…。 やっべ、王子本人にも金髪野郎とか言っちまったな…まぁいっか。 言っちまったもんは仕方ねぇ。 そもそも俺がこうなったのは金髪野郎に問題があったからだろ?なら責任は金髪野郎が責任とるべきだろ? 俺は記憶喪失ってのを逆手にとって、自由気ままに過ごすってのもアリだよな。 本物のアティランの記憶が戻って俺がいなくなったら…それは…アティランに頑張ってもらおう。うん、アティランお前ならできる。 「………。」 「記憶が曖昧どころが一切無いようです。」 考え事をして返事を忘れていると保健医が代わりに答えていた。 保健医と世間話のような会話をするも俺には知らないことばかりで「分からないです。」「知らないっすね。」ばかりだった。 結果、保健医は「記憶が無い。」としか説明出来ず、医者じゃないが俺もそれしか言えないだろうなぁと他人事のように見ていた。 「…記憶喪失で王子の婚約者は難しいけど…記憶が戻ることは有るんですよね?」 「…分かりません」 「そんなっ」 俺の事で父親と保健医が真剣に話しているが、俺には疑問で一杯だった。 記憶喪失だの婚約者だので混乱してたが…なんで男の俺が男の王子と婚約してんだ? もしや俺って…女なのか? 体を触って確認した。 男と女の違いで分かりやすい胸とかあれを触った。 胸は無いが下のモノはあった。 俺は男だった。 …良かった。 男の記憶があって、女の体になって男に抱かれるなんて耐えらんねぇ。 抱くならまだしも抱かれるなんて絶対に無理だ…。 「アティラン…大丈夫なのか?」 「んぁっあぁ問題ない。」 「そっそうか…一度屋敷に戻ろう。」 「あー…そぅだなっ。」 多分父親だろう人の言葉に従がった。 俺ん家ねぇ…え?今この人、屋敷って言わなかったか? 屋敷なの?家じゃなく? もしや、俺って金持ち?ラッキー。 二人の後を歩いているが、この二人ってどういう関係性? さっきからもう一人いるけど一言も喋んねぇな、この人。 多分片方が俺の親で、もう片方は…親戚か? 見覚えのない廊下を歩き続け漸く校舎を確認して驚いた。 「…ここ何処だよ…。」 日本と掛け離れた光景に呆然とした。 「ん?ここはアティランが通っているソルセルリー学園だ」 「そるせるりー学園?…はぁ…。」 すげぇ、石造りで洋館?これが学校かよ? 日本人の時に外国とか行ったことねぇからわかんねぇけど、城じゃね? 「前見て歩かないと転ぶぞ、気を付けなさい。」 「ぁっおぉ。」 「「………。」」 前を歩く二人は無言で見つめあっていた。 俺が記憶喪失になったことで困惑しているのがわかる。 「アティラン…先に乗りなさい。」 …まじ? あの…「乗りなさい」って…馬車なんですけど。 車は? 馬車で移動なんて聞いたことねぇよ。 どっかの国の結婚式ならまだしも、日常で馬車?馬車?馬車ですか? 本気で言ってる? 疑いながら目線をやれば、すんげぇ真面目な顔で見てくるんですけど…。 これは本気なのね? 「大丈夫か?」 「…あっ、なんでもないっす。」 俺を揶揄っている訳ではなさそうだったので、素直に従った。 俺が乗り込めば二人も乗り込んでくる。 うん、馬車移動は本気だった。 ここって何処の国? 「アフェーレ王国だ。」 「え?」 混乱するあまり声に出していたらしい。 「我が国はアフェーレ王国だ。私がアティランの父親で当主のゲフリーレン グラキエスで隣にいるのがお前の母親のセリオン グラキエスだ。」 「母親?…男だろ?」 「あぁセリオンは男だ。動物と違うんだ、雄しかいなくて当然だろ?」 雄しかいない、雄しかいない、雄しかいない。 頭の中で強烈な言葉が木霊する。 雄しかいない世界? そんなん聞いたことねぇよ。 嘘だろ? 女…女…女…居ねぇの? 女のいない世界なんて…考えたこともねぇよ。 誰か嘘だって言ってくんねぇかな? 俺は男もイケるが女が好きだ。 女…いねぇの…おんな…。 「うそだ…」 「記憶が無いからってそんなこと言うな。セリオンに失礼だろ?」 「ぁっ…すんません…」 頭が追い付かず、何が失礼なのか分からず謝った。 「いいんだ。」 初めてセリオンという人の声を聞いた。 男しかいない世界で、男が子供を産む…。 …嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ。 もしかして、俺って王子の子供を産む予定だったの? 超危ねぇ。 まじで良かった。 なに恐ろしい奴になってんだよ俺。 これは本気で婚約解消でお願いします。 「ぁあのっ」 「着いたな。」 「あぇ…?」 王子との婚約は解消でお願いしますと言いかけた時、家に着いたらしい。 馬車の扉が開き降り立つと…でっけぇ屋敷があった。 うん…これは屋敷だ。 「ここが俺ん家?」 すげぇ。 ラッキーなんじゃねぇの? 「中に入りなさい。」 「……はぃ。」 映画の中に入り込んだような建物に驚嘆するばかりで、挙動不審に辺りを見渡しながら二人に続き部屋に入った。 応接室?一般家庭に無いような部屋に通された。 「アティラン」 「………。」 「アティラン…」 「あっ、俺か。」 「………。」 「はい」 「本当に記憶がないのか?」 「ないっすね。」 「…どのくらい無いんだ?」 「どのくらい?二人の名前も国名も知らなかったぐらいで、金髪野郎に聞くまで自分の名前も分からなかったっすね。」 「……そうか…今日は疲れたろ?部屋で休みなさい。」 「あぁ、どうも…あぁ…部屋って何処っすか?」 「あっあぁ、ニル案内を…アティラン、分からないことはニルから聞きなさい。」 「部屋で休みなさい」といわれた時、本当に記憶喪失なのか試されているような感覚だった。 ニルと呼ばれた男は、応接室のドア付近に一言も発すること無く存在を消して立っていた奴のことだ。 「はい」 「…アティラン様、こちらです。」 「あっどうも。」 ニルと言う男は表情を変える事なくしなやかに歩いていく。 隙の無い身のこなし、細いのに引き締まった体だというのは服の上からでも見て取れた。 素直な感想は「エロい体」だった。 ニルに案内された部屋は広く、高そうな家具で整えられていた。 何処に居りゃ良いんだよと思うくらい落ち着かない部屋だな。 「はぁ…。」 休めるか分からないが、高そうなソファに座った。 「ニル。」 「はい。」 「ニルから見て、俺ってどんな奴だったの?」 使用人から見てアティランという人物はどう写っていたのか気になった。 性格が掛け離れているのは、遭った人間の態度でなんとなく察した。 「アティラン様は聡明かつ洗練された美しさを持ち、驕ること無く全ての方に平等に接するお方です。」 「どんな人間だよ。」 反射的に答えてしまった。 「全ての方を平等に接する為、少々冷酷とおっしゃる方もおりますが凜としていて素晴らしい方だと認識しております。」 「…凜として素晴らしい、ねぇ…。」 ニルを盗み見れば、今の俺の態度にかなり不満を持っているのが伝わる。 顔はそのままでも口の悪い俺とは真逆の性格…耐え難いだろうな。 「言っておくけど、俺はあんたのアティランになるつもりはないからな。」 「………」 一瞬だがニルの顔が歪んだ。 冷酷と言われている男を崇拝している男もまた、凜とした佇まいを理想として冷酷になろうとしているのかね? 俺が今この男を押し倒したらどんな反応するんだ? あぁあ、俺より体格が小さかったら良かったのに…。 でけぇな、コイツも。 俺にはデカイ奴を組敷く趣味はないんでね、残念だ。 アティラン グラキエスも日本人の俺からすればデカイが、この国では小さいのか? 金髪野郎は俺より十センチは高かったし、目の前のニルも目線が上だよな…。 保健医もそうだし父親もでかかった。 俺より小さいのって母親とピンク頭だけだったな。 目線の高さからして百九十センチはなくともそれに近いとは思うんだよな。 あぁ何処かに俺よりちっさくて綺麗系の顔でつり目が良いな。 ちょっとワガママで強気な奴がエッチに弱い…そんな理想な奴いねぇかぁ。

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