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第29話 遂に
イグニス家へ向かう当日。
衣服を整え両親と共に馬車に乗り込んだ。
俺の屋敷からイグニス家は馬車で三十分程の距離らしい。
イグニス家は侯爵家であり、家柄や権力等もグラキアス家と同格の為婚約は至って問題ないそうだ。
あとは二人の相性だが、それこそ問題ない。
性格もエッチも俺好みで、これ以上の相手はいない。
馬車が停車しイグニス家へ到着したことを知る。
扉が開くとすでにイグニス家と使用人が整列し俺達を出迎えていた。
「グラキアス様、お待ちしておりました。」
「本日は時間を頂き感謝します。」
「エストレヤ」
二人の社交辞令の会話をぶった切ってエストレヤの元へ近づき、いつものように唇を重ねた。
顎を掴み逃げられないように深いキスに変わっていく。
予想もしていない俺達の行動にその場に居た者が硬直していた。
エストレヤもまさか両親の前でキスされるとは思っておらず、驚きの余り抵抗を忘れ流され甘い吐息を漏らしていた。
「……ぁっ…まず中へ…どうぞ」
「あぁ」
必死に冷静さを取り戻そうとイグニス家の当主が屋敷へと促し、ゲフリーレンも続き俺達も後を追った。
応接室に案内されている間もいつものようにエストレヤの腰を抱いていた。
学園と同じように俺やエストレヤの両親そして使用人の視線がチラチラと感じる。
案内され入る応接室のソファに家族で座った。
今は仕方なくエストレヤを膝に座らせることはなく解放した。
「訪問した理由も先触れの通り、エストレヤ様との婚約についてです。エストレヤ様はまだ婚約者がいらっしゃらないと聞いております。」
「えぇ、決めかねていたところです」
決めかねている…王子に近付けって言ってたんだろ?
狸めっ。
…親父も気付いてんな。
なんか怖ぇなこの二人。
これが貴族の腹の探りあいか…。
「我がグラキアス家としてはエストレヤ様との婚約を望んでいます」
「…とても素晴らしい話ではあるのですが…アティラン様は以前は殿下と婚約をされていましたよな?」
「えぇ、既に解消済みです。なんの問題もなく解決しております。」
「…聞いたところによると、記憶の方が曖昧だと…。」
俺を見て告げてくる。
確かに記憶を失った男との婚約は親としては不安だよな。
「記憶は有りません、戻る気配もありません。一生このままの可能性も有ります。不安だと思いますが俺はエストレヤと婚約したいと思っております。」
俺の気持ちを侯爵に伝えた。
視界に入るエストレヤが泣きそうな顔をし始め、抱きしめたくなるのを我慢しているからそんな顔すんな。
「万が一記憶が戻った場合はどうします?」
親として当然の質問だが…。
エストレヤは家門の為の道具なのか、本当に心配されてるのか…。
「王子に近付け」そんな指示を出すような父親だ、エストレヤを大事にしている理由は愛情からとは思えない。
「以前の俺は知りませんが、真面目なら一度婚約した相手を簡単に手放すとは思えません。」
「…確かに、以前のアティラン様でしたら婚約解消はしなかったでしょう。」
おっ嫌味か?
確かに婚約解消は俺からしたが、させたのは金髪野郎で記憶を失うきっかけもアイツだからな。
「王家とは穏便に解決済みであり、今後についても問題有りませんので。アティランについても後継者としてこれから鍛えます。」
鍛えられるんだ俺…。
「そうですか…エストレヤとしてはどうだ?」
突然話を振られたエストレヤは驚いていたが、両手を握り締めていた。
「ぼぼくも…グラキアス様と婚約したいです。」
「…では、こちらからも婚約をお願いします。」
侯爵は頭を下げた。
もっとなんか粘られるかと思ったが、意外に呆気ないな。
それから書類にサインをし、俺達の婚約は正式に決まった。
「それでは婚約も無事に決まりましたので、どうですか?我が家で食事でも。」
食事に誘われ了承し、和やかな雰囲気となった。
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