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第77話 ラーデン ティエンダ
俺達は食堂まで手を繋いで向かった。
会話をする余裕はなく転ばすに歩くことに意識を向け、食堂に着いた時には既に半数以上が埋まっていた。
席を探しているとグラキエスとイグニス様も現れた。
四人で食事を終えると中庭に誘われ、開いているベンチを目指した。
中庭には疎らだが生徒はいるのに、何故かベンチには誰も座っていなかった。
横並びに四人頑張れば座れなくもない大きさのベンチだ。
そこにグラキエスが座り、膝に乗るようイグニス様が座った。
二人の間になんの合図も無く自然な流れだった。
グラキエスはイグニス様の唇に許可なく触れていく。
二人には許可は必要ないのか?
イグニス様の顔が蕩けていき、グラキエスの指が離れると二人の距離がぐっと縮まり唇が触れていた。
二人があまりにも美しく見惚れてしまっていた。
はっと我に返りフロイントと視線が合い「俺達も」と誘う前に端に移動されてしまった。
「フロイント…。」
「はいっ」
俺はフロイントの婚約者だ。
覚悟を決めた。
「ダメか?」
ダメか?と聞き、手を差し出した…断らないでくれと願った。
フロイントの手が重なり、思いが通じたことに喜び夢でなく現実だと教えるように俺の膝にフロイントを感じた。
夢のような現実がまた始まった。
「ティエンダ、ちゃんと落ちないように腰を支えてやれ。」
「はい」
しまった、浮かれすぎてフロイントの事を疎かにしてしまった。
グラキエスの指示通りフロイントの腰に腕を回した。
フロイントに怪我をさせるわけにはいかない、俺が守る…大切にしなければ。
「フロイントもティエンダの方に凭れた方が楽だからそうしてやれ。」
「はいっ」
フロイントが俺の胸に凭れている。
グラキエスとイグニス様の様な婚約者には程遠いが、俺達も婚約者らしく出来ているのではないだろうか?
「ティエンダ。」
「えっあっはい。」
そうだ、グラキエスに話があると言われ今は二人きりではないんだ。
フロイントに支配された頭が冷静さを取り戻していく。
俺に婚約者を教えてくれたグラキエスが尋ねているんだ、正確に答えなければ。
「俺が料理した日の事なんだ。その日、ティエンダの側にいたのって誰だ?」
あの日側にいたのは…。
「…あの日は…確か…友人のフェッセン コンパーニョとボンド ガウディぺディオですね」
「ん…他にも二人居なかったか?」
いたか?そんな奴…。
「…二人…あっそうだ、直前にフェッセンの婚約者と友人が合流してきたんだ。」
「その中で背格好はエストレヤぐらいで茶色い瞳に赤みがかった髪の奴いたよな?」
「…あぁ、きっとヴィシャス…リヴァル ヴィシャス令息の事か?」
「フロイント、なんか知ってるのか?」
グラキエスの言葉で全く気付かなかった。
彼はフロイントの友人だったのか?
「えっ?いえ…」
なんだ?
何かあるのか?
「気になることが有るなら言ってくれ。」
グラキエスの言葉に俺も頷いていた。
「えっと…ヴィシャス様は…子爵家で婚約者は居りません…。」
俺は他人に興味がなくあれが貴族とは知っていたが、子爵だったのを今知った。多分あった当初聞いた気がしなくもないが、興味もなく覚えることもなかった。
「それだけじゃねぇだろ?」
「…はぃ…」
分からないがフロイントの腰を強めに抱えた。
「ヴィシャス様は……」
「きっと同じ事をエストレヤにするつもりだ。」
なんだ?
何かされたのか?
「えっ?」
一度深呼吸をしてからフロイントは口を開いた。
「何度かヴィシャス様と話したことが有ります。ティエンダ様が僕との関係を改善するつもりがないことや、お二人が楽しく過ごした等を…聞きました。」
「そんな事話したことはないっ」
違う違う、そんな話していない。
楽しくってなんだ?楽しくって。
俺は彼と楽しく会話なんてしたことないぞっ。
「それに近いことを言った覚えはあるか?」
グラキエスの言葉に記憶が一気に甦っていく。
「…正確には覚えてないが、以前の俺は婚約者とはこのまま…と思っていた。無理に距離を縮めなくても当然結婚するもので、解消などは一度も考えた事はないと話したことがある。言っておくが彼と二人で過ごしたことなどないと断言できる。俺は今まで婚約者を出来ていなかったが、俺はフロイントの婚約者であり続けたいと思っている。」
いつの間にかフロイントに告げていた。
「……ごめんなさい。僕…ずっとティエンダ様を…信じることが出来ませんでした。怖くてお会いするのも…避けてました…。」
俺は…避けられていたのか…。
それすら気付かないなんて…。
「………すまん」
「ぃぃぇ」
婚約者がそんな風に考えていたなど全く気付きもしなかった。
俺はなんて事を…。
「アイツの事、アイツは別れさせ屋かもな。」
「別れさせ屋?」
別れさせ屋?
なんだ?
「婚約者を別れさせるのを専門にしてる奴。」
初めて聞いた。
そんな人間が側にいたのか?
「別れさせ屋だと俺は思ってるが、別れて自分が婚約者にと思っているかもしれない。以前はティエンダを狙っていたが、今は俺達のようだな。」
「…まさか…」
頭が追い付かない。
もしかして俺達も狙われていたのか?
だが、俺達が別れることなんてありはしない。
「俺達は昼休み毎日ここにいるが、二人はどうするんだ?」
どうする…とは?
「仲の良いところ見せ付けておかないと、おかしな噂流されるかもな。」
おかしな噂…。
俺達はこれからちゃんと婚約者をするんだ、なのに変な噂は許されない。
「………ここに来ても?」
いいのだろうか?
「俺は…構わないぜ。」
「僕も…はい、」
グラキエスもイグニス様も俺達が来ることを受け入れてくれた。
グラキエス様もだがイグニス様も優しいんだな、俺たちの事をこんなにも気にしてくれるとは…。
「お邪魔します。」
「ぉ邪魔します。」
仲の良いところを見せ付ける。
仲の良いところとは?
どうすればいいんだろうか?
なにも分からず、ひたすらフロイントを見つめ続けた。
助けを求めるようにグラキエスを見ると、二人は唇が触れていた。
仲良くとはそう言うことなのか?
仲の良いところを見せ付ける…。
見せ付ける…。
昼休みが終わりフロイントを送ってからクラスに戻った。
「仲の良さを見せ付ける。」
グラキエスの言葉が何度も頭を駆け巡る。
仲の良さ…俺達にはまだ…。
膝の上に座る姿も俺達とグラキエス達では全く違った。
二人は自然で、言葉も合図も無く身体を寄せ恋人の距離だった。
俺達は膝の上に座るという行為で精一杯で、相手を気遣う事まで考えが回らなかった。
イグニス様がグラキエスの膝の上で安心しきっていたのは守られていたからで、フロイントが俺の膝の上で固くなっていたのは俺の気遣いがなかったから。
グラキエスを見ていると俺がいかに婚約者失格だったのかを思い知らされる。
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