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第78話 ラーデン ティエンダ
授業が終わりフロイントの教室まで向かうと、正面からフロイントが現れた。
「ぁっ…」
「フロイント。」
次の言葉が出てこなかった。
「僕と…一緒に…帰りませんか?」
フロイントに誘われた。
「あぁ一緒に。」
俺達は寮に向かった。
隣を歩くフロイントを何度も盗み見みしながら歩き続けた。
学園から寮まではそんなに遠くない。
婚約者不慣れな俺には、学園から寮までの距離でさえ無言が勝ってしまう。
「フろぉイント」
緊張のあまり声が裏返ってしまった。
「はい」
「…今日も良いだろうか?」
「………?」
俺を見て首を傾げる姿に、こんな可愛らしい仕草もするのかと前のめりになってしまう。
「ダメか?」
「…ぇっと…?」
気ばかりが焦りフロイントの気持ちを無視してしまったことに気付かされ反省した。
「やはり連続で部屋に邪魔するのは良くないな、焦りすぎた。」
「ぁっ、違うんです。部屋ですよね?…来てください。」
「いいのか?その…無理…して欲しくないんだ。」
「無理なんて…僕…もっと…ティエンダ様の事知りたいんです。」
知りたい?俺の事を?フロイントが?
「おっおっおっお゛俺もだっ。」
何でも知って欲しい、俺の全てを。
「…良かった。」
少し俯き微笑むフロイントの姿に目が離せなかった。
抱きしめたい。
初めて他人に対して生まれた感情だった。
「へっへやっ…部屋まで手を繋がないか?」
「…はぃ」
手を繋ぎながら歩くと何故だが寮の部屋まで、あっという間に着いてしまった。
フロイントが扉を大きく開けてくれたので、俺が扉を押さえた。
二人で部屋に入り昨日と同じソファまで歩いて行くと、フロイントと視線がぶつかった。
きっとフロイントも俺と同じことを考えているはず。
俺が先に座り手を差し出し、フロイントも手に導かれながら俺の膝の上に腰を下ろした。
グラキエスに注意されたようにフロイントの腰に手を回し、フロイントも俺の身体に身を寄せた。
グラキエス達のように唇が触れるような会話をと思ったが、密着しすぎる態勢からの至近距離での会話は予想を遥かに越える難易度だった。
「…フロイント」
俺は遠くの壁を見ながら口を開いた。
「はぃ」
「毎日とは言わない…が…出きるなら…その…部屋に…」
「…はぃ、いらしてください。」
「…あぁ、よろしく頼む。」
その後も視線を合わすこと無く会話が続けられた。
「もうすぐ学園パーティーだな。」
「はい。」
「エスコートしても良いか?」
「…はい、お願いします。」
時計を確認するとかなりの時間が経っていた。
俺が時計を見てしまったことで、フロイントも気付きなんとなく帰らなければならない雰囲気になった。
無言でフロイントが膝から降りてしまい「終わり」を告げられた。
未練がましい俺は少しでも一緒にいたくて動作が鈍くなる。立ち上がりカバンを手にし、ゆっくり歩くも扉まで何時間も掛かるはずもなく別れの時が来てしまった。
一歩部屋の外に出て扉の前で振り返る。
「…今日は僕が見送ります。」
昨日は俺が見送った…。
「…あぁ。」
俺は往生際悪くその場に立ち尽くしていた。
「ティエンダ様?」
「あぁ…フロイント」
フロイントの唇…柔らかそうだな。
「はぃ?」
「…キス…したい…しないか?」
「ぇっ」
フロイントの小さな困惑に思考がはっきりと覚醒した。
俺は今何て言った?
思わず考えていたことが声に出ていたのか?
目の前のフロイントの顔がこれでもかと言うくらい赤くなっていたので、声に出していたことを理解した。
「あっ違っいやっ違わないがっそのっ明日、そう明日キスしないか?」
「ぁっ明日…はっはぃ」
「明日…良いのか?」
「はい」
「そっそうか、なら明日キスしよう」
「はぃ」
「じゃぁ今日はこれで、ゆっくり休めよ。」
「はい…ティエンダ様も…。」
邪な気持ちがバレてしまい隠すように早口で訳の分からないことを口走ってしまった。
俺が勢いで押しきってしまったのでフロイントもなし崩しに納得したように…。
強引だったよな…。
俺がこの場を離れなければフロイントが扉を閉めることが出来ないので、部屋へ向かうも振り返り未練がましい男と思われるのが怖く自身の部屋に向かうまで振り向くことが出来なかった。
まだ見られているのか?と意識してしまうと歩き方を忘れたように身体が上手く動かなかった。
フロイントと歩かない部屋までの距離はかなり遠く疲れるものだった。
部屋につきソファに座ると先程の会話を反芻した。
未だに信じられない。
「明日俺達はキスするのか…?」
明日…俺達はキスをする。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
今日は眠れるだろうか…。
「…その前に歯磨きだ…」
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