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第88話 仲間の勇姿

俺達もだが他の奴らもダンスの終わりに集中していた。 「婚約者なんだ、最後はキスで締め括れよ。」 俺の言葉がホールにいる多数の人間の頭に残り、ダンスの後を期待していた。婚約者ダンスに挑んでいた者達は曲が終わり礼をする。 ホールにいる婚約者達はお互いを観察していたが、行き着く先はティエンダとフロイントだった。 二人は緊張しながらもゆっくり近付き唇が触れると勢い良く離れた。 それを目撃した婚約者達も軽くちゅっとしてからホールを小走りで後にしていた。 顔を真っ赤にさせたティエンダとフロイントが戻ってくるのを視線を外さず「俺の勝ちだな」とエストレヤの耳元で囁き耳を食べれば「ひゃぁん」と可愛らしく啼いた後「ぅん」と頷いていた。 結果としては俺が確認出来たのは十組前後といったところだ。 顔だけでなく首まで赤くした二人が戻ってきた彼らと入れ替わるよう、三曲目が始まろうとしていた。 「グラキエス様…。」 真横から話し掛けてきたのは…同じクラスのオプ二…オプト…なんとかだった。 咄嗟にエストレヤを腕の中で隠していた。 「ん?」 「ダンスを…」 「ん?」 「ダンスをお願いできませんか?」 …なんでだ? 社交界? ダンスパーティーだからダンスを誘われるのは当然なのか? だが、俺はエストレヤ以外とダンスをする気はない。 「…練習したとは言えまだダンス不馴れなんだよ、悪ぃな。」 「それでも…」 引き下がらないな…。 貴族のパーティーの常識は知らないが、婚約者の目の前でダンスに誘うのはどうなんだ? 許されることなのか? 「俺より婚約者の居ない奴、誘った方がいいんじゃないのか?」 「………はぃ。」 オプ…なんとかは、分かりやすく落ち込み去っていった。 社交界って出会いの場なんだろ?婚約者のいる俺じゃなくてフリーの奴に狙いを定めるべきだ。 他人の者を欲していると幸せにはなれないのを早く気付くべきだ。 「お帰りなさい。」 エストレヤの二人を出迎える声で、帰ってきたのを知った。 ダンス終えただけにしては、かなり火照った顔をしている二人だな。 「外で少し涼むか?」 「「はぃ」」 俺達四人は外のベンチで冷たい風に当たりながら休むことにした。 俺の膝の上には向かい合うようエストレヤが座り、ティエンダの膝の上にはフロイントが横向きに座っていた。 静かだな。 「ダンスはどうだった?」 「…緊張…した。」 だよな、俺も。 「一曲目になっちまったもんな。」 「んっ」 「だけど気持ち良かったな、誰にも邪魔されず二人だけで。」 「…ぅん。」 「キスも…」 「ん…」 「これでエストレヤは俺のもんだって証明できた。」 「……僕はもう…。」 「俺のもの?皆に見せ付けてぇんだよエストレヤに手を出すなって。」 「誰も僕に…手なんか出さないよ。」 俺の胸に凭れていたエストレヤが視線を上げ俺に訴える。 「エストレヤが分かってねぇだけだよ。」 「そんなこと…ァティの方がだよ…。」 「俺の方が?なら、エストレヤが見せ付けたらいいだろ?」 「…んっ」 「こんな風に。」 「んっんふぅんっんんっん」 「エストレヤからしてくれんだろ?」 「んっ…ぁっここじゃ…だめ。」 二人だけの世界から隣のティエンダとフロイントを確認した。 忘れていた訳じゃないが、二人は二人の世界を作り出していたのであえて気にしなかった。 膝の上にはフロイントを乗せ俺が以前気を付けろと言った通り腰に手を回し支えていた。 抱きしめる腕でなく支える手だった。 フロイントもティエンダの胸に凭れ、ダンスの余韻に浸ったいる状態で、二人はその体勢のまま一言も話していなかった。 「少し会場でパーティーに顔を出したら部屋に戻るか?」 「んっ」 「エッチしような。」 「…んっ」 頬を染めながら答えるエストレヤに、まだ照れるんだなと嬉しくなった。 俺を意識してるってことなんだよな? 「賭けに勝ったんだ、エストレヤにエッチな事してもらわないとな。」 「……ぁっ…」 忘れていたのか驚きの表情で俺と目が合う。 「してくんねぇの?」 「…する。」 態と悲しそうに聞けばエストレヤから望んだ言葉が聞けた。 ちゅっと頬にキスしてから立ち上がる。 「ティエンダ、俺達先に会場に戻るわ。」 「あっあぁ。」 「二人もすぐに戻れよ、風邪引くぞ。」 「あぁ」 婚約者、初心者二人はまだ熱が冷めていないようで頬が赤く、くっついている分には風邪などひいたりはしないだろうが、風は冷たい。 いつまでもいるべきではない。 俺はエストレヤの腰に手を回し会場を目指した。 「ひゃっ」 目指していたが、建物に入る前にエストレヤを壁に押し付けエストレヤの頬に手をやると冷たく冷えていた。 唇を重ね深いキスをし暖め合った。 会場の音楽を壁越しに聴き、ティエンダ達からも遠く、誰の気配も感じない場所で存分にキスをしあう。 周囲に人が居ない場所でのキスだとエストレヤも素直に受け入れ、俺の背に腕を回していた。 「戻るの、もうちょっと待って。」 「んっ」 何度もキスを繰り返し戻るタイミングを探っていたが、丁度曲が終わりそれを合図に唇を離す。 「…もぅ…」 エストレヤも同じ考えだったのだろう。 そろそろ戻らなければならない、戻りたくない、戻るタイミングが分からない。 そんな感じだ。 「…行くか。」 「ぅん。」 二人で建物に入った。 静かに、周囲に気付かれないようひっそりと。 人が居ない方へ居ない方へと歩いていく。 ダンスホールから離れ、人脈づくり等の挨拶周りの集団も避け軽食が用意されている場所に辿り着いた。 数人しか居ない場所で、一口サイズのクッキーを食べさせあったりと俺達なりにパーティーを楽しんでいる。 飲み物がほしくなりエストレヤを残し取りに行った。 両手にジュースを持ちエストレヤが待つ場所まで歩いていく。 この国では十五歳以上であればアルコールの摂取が許されるが、学園のパーティではアルコールは用意されていない。 アルコールを飲んだエストレヤに興味があったが、俺自身酒を受け付ける体質なのか分からないので失態を犯す前にここは我慢した。 下らないことを考えていれば、何か不穏な空気を感じた。 エストレヤの周囲にいる人間がダンスホールではなく別のところに注目している。 あの時の教室を思い出す…。 良く見るとエストレヤと遠くない位置に金髪野郎がいた。 胸がざわつき早足で向かい、人を避けエストレヤを確認すればエストレヤの服には赤い染みが出来、王子は空のグラスを手にしていた。

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