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第96話 エストレヤ イグニス

「んっん…ごほごほごほっ」 喉の痛みで目が覚めた。 「エストレヤ大丈夫か?」   「ん?…ぉどっ…ざまっ」 喉ががらがら?イガイガ?張り付くようでうまく話せない。 どうしちゃったんだろう? 病気とか? だからお父様がいるの?  身体も全身が痛くて、起き上がることも出来なかった。 「無理するな、寝ていなさい。」 「…ぁぃ。」 声が出ない。 周囲を見渡すとここは寮ではなく侯爵家の僕の部屋だった。 「水飲むか?」 「…ぁぃ」 お父様が水を用意し飲ませてくれた。  「もう少し飲むか?」 「は…ぃ」 凄く喉が乾いていたのか、用意された水を全て飲みきってしまった。 「…ふぅ…」 身体が水分を欲していたらしく、水を飲みきると呼吸が楽になった。 僕が落ち着くのを横で心配そうにお父様が側にいる。 「アティ…は?」 「…アティラン様は…ここにはいない。」 「ぇ゛?」  「エストレヤはどこまで覚えてる?」 「どごまで?」 どこまでってなんだろう? 僕は確か…。 「学園パーティーは覚えているか?」 「………」 学園パーティー…。 パーティー…。 パーティー…。 あっ。 僕は確かダンスの後、外で休んでからアティと一緒に会場に戻った。 飲み物を取りに行ってくれたアティと離れると、直ぐにリーヴェス王子が現れた。 「いつまでアティランを苦しめるつもりだ?」 「苦しめ…る?」 「アティラン程の男がお前の側にいるのは国のためにもアティラン自身の為にもならないのは分かっているだろ?早くアティランを解放しろ。」 「…解放…。」 「もう、充分だろ?」 「…ゃです…アティと別れたくない。」 王子と対面するだけで震えるのに僕は今、王子からアティを奪おうとしている。だって僕は… アティを渡したくない。 「お前なんががアティと呼ぶなっ。」 気が付いたら飲み物を掛けられていた。 必死に立ち向かっていたけど、飲み物を掛けられた瞬間頭が真っ白になり王子との立場の違いを思い知らされた。 僕なんかがアティを独り占めしてはいけないんだ…例え記憶が失われてもアティと僕とじゃ価値が違った…。 何も反応できずにいたらアティが来てくれ、肩を抱かれて控え室での着替えを促された。 アティの腕の中で安心したけど、後ろから王子が付いてきていた。 アティと話したかったみたいだけど、アティは僕の事で怒ってくれているのが分かった。 怖くて何も出来ない僕の代わりにアティが王子と話し、僕に謝罪するように迫った。  アティの気迫に押され王子に謝罪させてしまった事は、貴族として許されることなのか不安になってしまう…。 僕みたいな人間に謝罪してでもアティと話したかったのかと思うと王子はアティの事を…。 僕はアティを奪ってしまったのかもしれないと思い、アティには王子と話し合ってほしかった。 …アティと別れたくないし、捨てられたくもないけど…王子が言った「アティランの為にならない」と言うのは僕も納得してしまう。 記憶を無くしたとは言え、アティランは優秀だし魔法の才能も開花させた。 公爵家の嫡男で将来有望な人。 僕みたいな、ただ家柄だけの侯爵家嫡男では釣り合いが取れない。 二人の間に入っていけず「着替え」を口実に僕は逃げ出した。 使用人の方が用意してくれた衣服に着替え濡れた服を手渡せば、洗濯して届けてくれると…。 僕も使用人の人と一緒に部屋を出ようとしたが「あちらの様子を見てきますので少々お待ちください」と部屋に残るよう促された。 僕はなんの疑いもなくソファに座り使用人の帰りを待った。 あの二人がどんな会話をしているのか想像しながら大人しく待っていた。 「遅いなぁ。」 いくら待っても使用人の人が現れることがなかったので、待ちきれずにアティがいる部屋へ向かうことにした。 がちゃがちゃがちゃ 扉が全く開かず、鍵が掛かってしまっていた。 どんどんどん 「あのぉ、誰かいませんか?」 叫んでも外からはなんの反応もなかった。 「間違って閉められちゃったのかな?…僕って本当に…」 開かない扉の前で悲しくなった。 誰にも必要とされていない、簡単に忘れ去られてしまう人間なんだと…。 「僕ってどんくさいな…。」 アティは王子と今頃…。 僕は…婚約解消されちゃうのかな? そんなの…やだよ…。 僕も早くアティの所に行かなきゃっ。 ガチャガチャガチャ 「…鍵…閉まってたんだ…。」 あれ?どうして外から鍵を? 鍵って普通は中に付けるものだよね? 「もしかして…閉じ込められちゃったの?僕…。」 自分の状況を把握した途端急激に不安や恐怖に支配された。 「ど…どうしよう…アティと約束したのに…」 この時の僕は王子によった閉じ込められたとは一切思い浮かばなかった。 何か事故や偶然が重なって閉まっちゃったのかな?くらいで。 慌てた理由は、アティとの約束やパーティーの間は控え室なんて誰にも気付かれないんじゃないかとかだった。 扉に耳を当て、誰かが通る音がしないか耳をそばだてた。 ばたばたばた…どんどんどん… 「イグニス様」 僕を呼ぶ声が聞こえた。 多分フロイント様だと察した。 ばんばんばん 「僕はここです、フロイント様っ。」 何度も扉を叩きフロイント様を呼んだ。 「イグニス様?」 僕の場所に気付いてくれたフロイント様が取っ手をがちゃがちゃと回しても扉は開かなかった。 「鍵が掛かっているみたいなんです。」 「分かりました、先生を呼んできますから待っていてください。」 「お願いします…ありがとうございますフロイント様。」 走り去る足音を聴きなが、フロイント様にお礼を言った。 良かった。 これでアティの所に行ける。 安心しながら、フロイント様を待っていた。

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