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第132話 目覚めない エストレヤ イグニス

アティが眠るベッドの横で手を握った。 眠っているだけだから、アティの手は暖かくて安心する。 「アティ…今日は良い天気だよ。こんな日は散歩とかしたいね。そうだ以前来た僕の屋敷の庭もね、あの時とは雰囲気がガラリと変わったんだよ。また手を繋いで一緒に散歩しようね。ふふっお父様も僕達の後を着いてきちゃうかもしれないけど、その時は三人で散歩しようね。あれでもお父様はね、アティの事凄く気に入ってるんだよ。僕よりもアティの事詳しくてちょっと嫉妬しちゃう。今の僕のライバルはお父様かもしれないの、フフフ。お父様は凄くアティに夢中みたいだから、あまりお父様の前でエッチなことしちゃダメだよ?お母様もねアティの事が気になるみたいなの。手紙にアティの事良く聞かれるから。学園ではどんな風にアティと婚約者してるのか~って。何処まで書いて良いのか分からなくて「いつも傍にいてくれるよ」ってだけ書いてる。毎日が楽しくて幸せでアティの婚約者になれて本当に良かった。」 最近の僕は眠り続けるアティに語り掛けている。 「もう、アティの居ない頃には戻れないよ。僕はもう、アティを知っちゃったから…あの頃には…戻りたくない。ねぇアティ、目覚めて僕の事忘れちゃってもまた僕の事好きになってくれる?また、僕に触れてくれる?…アティ…早く目覚めて僕に触れて。僕、アティに触れられるの大好きなの。いつもドキドキしてる。何度もされてるけど、毎回初めてみたいに感じちゃうの。アティの手、大好きなんだよ。大きくて優しくて、たまに意地悪だけど僕を気持ち良くしてくれる手。力強く抱きしめてくれたり、座る時には優しく支えてくれるアティの手に安心するの。すぐエッチな手になるけど、僕嫌いじゃないんだよ。むしろ…アティが僕に沢山触ってくれるのいつも期待してた。キスもね、本当はもっとして欲しい。沢山…皆が見ててもアティからエッチなキスして欲しいの。「人前はダメだよ」ってアティを止めるのは、お母様がね少しは焦らした方がより求めてくれるってアドバイスしてくれたの。本当はね、アティのキス凄く気持ち良くて止めて欲しくないって思ってる。目を閉じて「まだ止めないで」って願ってるんだよ。皆に見られてするキスは恥ずかしいんだけど、凄く嬉しいの。だけどね、不安もあるの。…アティの傍にいるのが本当に僕で良いのかな?って思ってるの…。記憶を失ってもアティは優秀で魔法の才能も開花したって先生達が興奮しながら話しているの聞いちゃった。それなのに僕は侯爵家ってだけで何の取り柄も無くて、アティより貴族の人たちの顔と名前を知っているくらい。それも、いずれはアティの方が詳しくなっちゃうかも知れない。僕は貴族の顔は知っていても、その方達とまともな会話をしたことがないから。僕が会話できる貴族の方と言えばフロイント様やティエンダ様だけ。その二人はアティの紹介で僕の力じゃない。僕は何一つ、アティの役に立つことは出来ない…。勉強も魔法も人付き合いも何もかもアティに劣ってる…。そんな僕を公爵様がどうして許してくれたのか分からなかった。…けど、アフェーレ王子との会話で少し分かった気もする…。僕がアティを利用しないこと、他の人に目移りしないこと、アティに暴力を振るわないこと、それだけ。僕じゃなくても…。…ねぇアティ、こんな僕だけどアティの傍にいて良い?何も出来ないけど婚約者のままでいていい?僕みたいな奴と結婚してくれる?…アティ…僕の事捨てないで…僕を一人にしないで…僕にはアティしかいないの…アティ…アティ…アティ。」 眠り続けるアティに何度めかのキスをした。 何の反応もないキスは胸を締め付ける。

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