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その夜、昼に仕事が終わったヒヤマは珍しく自宅に帰った。落ち着かず、ものの少ない部屋をぐるぐると歩き回る。
興奮している自覚があった。
こういった高揚はずいぶんと久しぶりだ。飲まれてはいけないと思いつつ、身を任せたい自分もいる。そうすることで良い発想が生まれることもあるからだ。
パソコンをつけ、さっそく彼の睡眠データを開く。美しい理想的な曲線。それを他の今までのさまざまな被験者のデータと比べた。そして考えるべきこと――これから彼に協力してもらう検査のことを考える。
気がつけば夕飯も食べることがなく日が変わっていた。もちろん眠気が来る気配はない。
ヒヤマは眠ることができない。彼はいわゆる『完全不眠者』――睡眠薬の助けがあっても継続した睡眠を得ることのできない人間だった。
とはいえ、少しも眠らないわけにもいかない。十一時ごろ、彼は薬を飲んでわずかながらの眠気がやってくるのを待った。
薬が効き始めるまでのタイムラグ。その持て余す時間が彼は嫌いだった。否応なく、自分が薬を飲んだことを知らされる時間だからだ。そしてそうにも関わらず、彼には薬はさほど効いてくれない。
不意に、コウダのことが思い起こされた。
薬さえ飲まず、あっさりと入眠した男。
この世界が陥った不眠恐慌と無縁の男。
彼は知らないのだろう。夜が長いことも、優しくないことも、どうしようもなく苦しいことも。
それでもヒヤマは彼を妬まなかった。
そんなことは、本当は知る必要のないことなのだから。
知らない方が良いに決まっている。
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