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第4話

「伯爵家は破門とし、当主夫夫(ふうふ)は斬首刑に処する。またひとり息子のジョアンにおいては身分を平民として、ダリウス王子殿下の監督下に置くものとする」 「……は?」 アカデミー卒業間近。 しっかり悪役令息という役目をこなしてアカデミーで嫌われまくった俺は、悪事を表沙汰にされた両親と共に予定通り牢獄に入れられ、処刑される日を待つだけの身となった。 処刑場らしきところに連れられて、嘲り笑う貴族たちに囲まれながら、いよいよこれでこの世界ともサヨナラだ、と思ったのに。 ――いや、なんで? 念には念を入れて、表向きは親の悪事にもしっかり加担しておいたはずだけど!? バレないように裏で人身売買された人たちの情報や麻薬取引の場所を警ら隊に流したりはしておいたけど、それが俺だと知っている人はいないはずで。 「いえ、私は許されない罪を犯しました。どうか両親と共に、死をもってその罪を償わせてください」 「ジョアン、もう諦めろ」 「……ダリウス?」 「ジョアンはもう、俺のものだ」 「何を言っているんだ」 「俺の勝ちだ、ジョアン」 「ダリウス、まさか……ネルロに何かしたのか!?」 ネルロがハッピーエンドを迎えた時が、俺の処刑の時。 俺が元の世界に戻りたいと願っていることを、ダリウスは知っているはずなのに。 「はは、こんな時までネルロの心配か」 「黒猫、いるんだろ! ネルロはハッピーエンドを迎えなかったのか?」 慌てて叫んだ俺の目の前に、黒猫がポンとその姿を現す。 「イイエ、オ陰様デ、幸セイッパイデスヨ~!」 黒猫の返事を聞いて、俺はほっと胸を撫で下ろした。 「そうか……なら良かった。それでは、私が処刑されない理由は?」 「ウーン、残念ナガラコノ世界ハモウ、予定通リニ進マナイコトガ確定シマシタ」 「……どういうことだ?」 「アノ人間デス」 黒猫は、すっとダリウスを指差す。 「アノ人間ガ死ンデナイ時点デ、物語ガ狂イ始メタヨウデスヨ。アナタハ処刑サレマセン」 「では、元の世界には……」 「モウ戻レマセンネ。ドウゾコレカラハ、コノ世界ヲ自由ニ満喫シテクダサイネ」 「黒猫!」 俺の声を無視して、黒猫は現れた時と同じように再び、ポンとその姿を消す。 嘘だろ……? 家門もなくなり、名声は地に落ちた状態で、どうやって生き延びていけばいいんだ……? こんなことになるなら、悪役令息なんて演じなかったのに。 普通に生きていくほうが、ずっと賢い選択だった。 「ジョアン、こちらへ」 俺は拘束具を解かれ、ダリウスの前に連れて行かれる。 貴族たちが両親の処刑に目を奪われて誰もこちらに注目しない中、グイッと腰を引かれた。 「ダリウス、なぜ……っ」 「これでジョアンはもう、俺だけのものだ」 ダリウスは悪役そのものの表情でニヤリと笑って、俺に口付けた。 *** 「い、嫌だ、嫌だ……!」 「大丈夫だ、痛いことはしない」 俺はダリウスの部屋に連れて行かれ、風呂に入れられた。 かと思えばまるで芸者のようなほぼ下着同然の格好をさせられ、嫌でもその先の要求に気づいてしまう。 いや、恐らくずっと前から気づいていた。 だから俺はこの世界から、ダリウスから逃げようとしていたのだ。 アカデミーにいた時、気づけば第一王子も第二王子も失脚しており、第三王子だったダリウスが唯一残された正統な後継者となっていた。 今までダリウスにあてがわれていたみすぼらしい部屋は、城の中で一番厳重かつ見晴らしの良い部屋へと変わっていた。 俺に求められているのは、ダリウスの閨の相手だ。 豪奢なベッドから逃げようとしても、ダリウスの魔法で簡単に拘束されてしまう。 腕や足に真っ黒な蔦のような影がしゅるりと絡まり、俺は仰向けでベッドに縫い付けられた。 思い切り暴れたくても、近くにいるダリウスに怪我をさせてしまいそうで、思わず躊躇してしまう。 治癒魔法だけは完璧だから、怪我をさせても治してやれる。 今のダリウスに怪我をさせれば、不敬罪や反逆罪でむしろ断罪してもらえるかもしれない。 しかしそれでも、ダリウスに痛い思いはさせたくなかった。 幼い頃、心の傷からダラダラと血を流していたダリウスに、これ以上の痛みを感じて欲しくはなかった。

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