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第1話

海岸沿いの道の駅での営業終わり、今日挽いたばかりのコーヒーの粉を使って2杯のコーヒーを淹れた。 普段は自分の分だけ淹れ、残りは冷凍してしまうのだが、今日はどうしても一緒に飲みたい人がいた。 「冷えますね、よかったらこれ」 海岸に設置してあるベンチにずっと座っていた男性に、温かいコーヒーを差し出した。男はこちらに驚いたのか肩を振るわせた。 「…あっ」 男は困惑の表情を浮かべ、思い出したかのように頬を伝う涙を指先で拭い、ポケットから取り出したイヤホンの様なものを両耳につけた。 「えっと…」 「コーヒーです。よかったら」 男の疑いの表情は消えない。 それもそうだろう。こちらはキッチンカーの中から一日中彼を見ていが、彼はキッチンカーの中の人など気にも止めていないはずだ。怖がられて当然だ。 「あそこのキッチンカーでコーヒー売ってる者です。1日ここに座って海を見てるから、気になって」 「すみません、、、あ、ありがとうございます」 男は納得したのか、ゆっくりとコーヒーに手を伸ばし、受け取った。 「隣どうぞ」 男に促されるまま、隣に腰を下ろした。 「ずっと、何を見ていたんですか?」 「何か特定のものを見ていたわけでは…ただ、ここにいると気が楽で」 「へぇ、よくここに?」 「いえ、バスに乗れるぐらい、調子がいい日だけ」 「バスで来てるんですか?帰りも?」 「はい」 「今日土日のダイヤだから、最終便もう行ってるかもですよ!」 年末と言うこともあり、何もかも普段通りにはいかない。いつもは20時が最終便だが、今日は18時のはずだ。キッチンカーの営業も、バスの時間に合わせた為、間違いはないはずだ。 「困りましたね」 男は他人事のように呟いた。 「タクシーでも呼びましょう」 この近くにタクシーの営業所はない。 今から呼んでも、年末のこの忙しい時期、いつ来るのか予想もできない。 「俺、送ります。あれですけど」 小さなキッチンカーを指差す。 「そんな、初対面でそんなご迷惑」 こんな寒い場所に、1人取り残すことなど到底できなかった。冷えた彼の腕を掴む。 「遠慮しないでください、何かの縁です。もし、自宅を教えたくなければ、近くまででも送ります」 しばらく悩んだ男は、申し訳なさそうにしながら 「よろしくお願いします」 と言って小さく微笑んだ。

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