2 / 2

第2話

男はコーヒーのカップを一度ベンチに置き、左手を支えにしてゆっくりと立ち上がった。 もう一度カップを左手に取り、一歩足を踏み出す。 どうやら体が不自由な様で、右足は殆ど上がらず、引きずったままだ。 「見苦しくてすみません」 男は申し訳なさそうに笑う。 「そんなことないですよ、コーヒー持ちましょうか?」 「お願いします」 受け取ったカップを、車のドリンクホルダーに入れ、男がスムーズに座れる様、サポートする。 扉を閉めてから、運転席に乗り込み、エンジンをかけ、暖房の風量をマックスまで上げた。 「寒くないですか?」 たずねると男はこちらの手を取り、膝に掛けていたブランケットに触れさせる。 「あったかい」 「モバイルバッテリーで動く、電気毛布です」 男は自慢げに答えた。 「へぇ、そんなものが」 「便利な時代です」 しばらく車を走らせた後、男が自ら言葉を発した。 「あの、よければお名前を。私は藤浪と言います」 「あ、俺は多川理翔(たがわ りと)って言います。コーヒーの焙煎所経営してて、たまにキッチンカー出してます……これ、名刺です」 ダッシュボードの中から名刺を一枚取り出し、藤浪さんに渡す。 「ありがとうございます」 「コーヒー、どうでした?車で売るのは、わりと万人受けするものにしてるんですけど」 「美味しかったです。久しぶりに、本格的な味のものを飲みました。1人だと、どうしても簡単に淹れられる粉末のインスタントが多くて」 「来年もあの場所で車出す予定があるので、よかったら贔屓にしてください」 「はい、楽しみにしてます」 車を走らせて40分ほどで藤浪さんの自宅に到着した。自宅は一軒家で、家族と住んでいるのだろうか。 「多川さん」 「はい」 「よかったら、一緒に夕食どうですか?送っていただいたお礼です」

ともだちにシェアしよう!