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第1話 僕と彼の関係
「大丈夫だ、ユタは俺の、恋愛対象外だから」
慌てたようにノートパソコンの蓋を閉めながら、親友である|巳雷《みらい》ははっきりとそう口にした。
僕は巳雷のその台詞に、「実は……」と言いかけた口を閉じる。
そして、「そっか。なら安心だ」とただ一言、おどけるように返事をするしかなかった。
そうか。
僕は巳雷の、親友以上にはなれないのか。
僕はちらりと、閉じられたノートパソコンを見る。
僕の推しアイドル、マユタンの生配信を見るために巳雷のノートパソコンを急遽借りようとしたら、えっちな動画が入っていたのを、たまたま今、発見してしまった。
そしてそれは、全部ゲイビだった。
「あ、悪い。つい閉めちゃった……マユタン見たいんだっけ?」
「う、うん……」
巳雷がゲイだと知った喜びは、僕が彼の対象外だという一言で、一瞬にして無に帰した。
こればかりは、仕方がない。
誰にだって、好みはある。
僕は巳雷を恋愛感情ありで好きだけれど、ほかにもいる仲の良い友人たちは、僕にとってどこまでいっても仲の良い友人という枠をはみ出ることはないのだから。
***
僕と巳雷は、高校一年生で同じクラスになって以来の友人だ。
クラスの人気者で、格好良くて、運動神経も抜群の巳雷と、どちらかといえばひとりで本を読むことが多くて、話す声も小さくて、積極性に欠ける僕は、傍から見れば共通性のない対極の位置にいる者同士だっただろう。
そんな僕と巳雷を繋ぐきっかけを作ったものは、料理だった。
シングルマザーだった母を助けるために僕は小さな頃から料理をしていて、いつの間にかそれが趣味になっていた。
母や僕のお弁当は自分で作っていたし、放課後は中華料理屋でバイトをしつつ、色んな料理の動画を見ては創作料理の幅を広げる毎日だった。
ある日の家庭実習で、ほぼやる気のない男子生徒を尻目に僕がせっせとひとりで仕上げた料理は、盛り付けから味付けまで、先生から一番良い評価を貰うことができた。
僕が内心喜んでいたその時、クラスメイトの誰かが巳雷を揶揄ったのだ。
「巳雷、親の面子、丸つぶれだな!」
「うるせぇ、俺は料理なんてしねぇんだよ。食う専門」
なんの話だろう、と思いながら目を瞬いていると、巳雷は僕のところへやってきて、「マジでうまそう、俺も味見してみていいか?」と気さくに笑顔で尋ねてきたのだ。
そして巳雷は、僕の作った料理を絶賛してくれた。
のちに、巳雷のお母さんが、僕の尊敬する料理研究家さんであることを知った。
そのあと直ぐに、巳雷のお家に招待され、お母さんに紹介された。
気付けば僕は、巳雷の家に入り浸るようになった。
最初の頃僕は、巳雷よりも巳雷のお母さん目当てでお邪魔させていただいていたのだけど、そのうち用事がなくても、巳雷と遊ぶためにお邪魔するようになっていた。
高校二年の時に母が再婚し、あまり邪魔しないようにしたいと言った僕に、「じゃあうちに泊まっていけよ」と声を掛けてくれた時から、巳雷の家に泊ることも多くなった。
母を早く楽にさせたくて高校を卒業したら直ぐに働くつもりだったけれど、再婚したから大学に行けることとなり、受験勉強も巳雷と同じ予備校に通って同じ大学へ合格することができた。
そこからお金に余裕のない時はできなかった、マユタンの推し活もできるようになった。
そして巳雷は、家から片道二時間かかるキャンパスへ通うつもりだった僕に、ルームシェアしないかと声を掛けてくれた。
親の説得も巳雷がしてくれて、僕たちは大学生活を二人で楽しく過ごした。
僕は料理担当。
買い物や調理、そして皿洗いをやった。
巳雷は掃除と洗濯が担当で、それ以外の分は二人で手分けしてやった。
二人暮らしは想像以上に楽しく、そして快適だった。
そんな大学生活も三年目に入り、お互いの就職活動もこれから本格化するとなって、僕は巳雷とこの二人暮らしを今後どうしていくのか話し合わなくちゃな、と思いながらも、何も言い出せずにいた。
気付けば僕が、巳雷のことを好きになっていたから。
僕の作った料理を美味い美味いといいながら食べる巳雷の姿に、僕は幸せを与えられていた。
だから心のどこかで、この生活をおしまいにしたくない、と思っていたのだ。
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