2 / 8
第2話 僕と彼の日常
大学のキャンパス内にある食堂でひとりスマホをいじっていると、友人が声を掛けてきた。
「お、豊 。ひとりなんて珍しいな」
「うん。巳雷は今、教授に呼ばれてるんだ」
「そうか、このあと暇なら皆でバスケしようと思ってるんだけど、お前らどうする?」
「巳雷が戻ってきたら、聞いてみるよ」
「おー、あとで連絡くれ」
「うん、わかった」
なんてことない、普段の会話。
でもこの会話ひとつで、その友人からしてみればいつも僕がひとりではなく、常に巳雷とワンセットと考えられていることが伺える。
しかしそれは全くの見当違いというわけでもなく、六月の僕の誕生日プレゼントを一緒に選んでくれるという話で、今日僕は巳雷と待ち合わせをしていた。
まるでカップルだ。
巳雷は高校時代からモテるのだけど、どうして彼女を作らないのか不思議でならなかった。
でも、今ならわかる。
僕は全く気付かなかったが、巳雷は男が好きだったのだ。
「ユタ、待たせて悪かったな」
「ううん、大丈夫。教授、なんだって?」
「課題受け取って貰えた。マジで間に合わないかと思った」
「そっか、良かったね! じゃあ今日はこのまま……そうだ、さっきバスケしようって誘われたんだけど、どうする?」
「んー、ユタがやりたいんなら行こうか」
「今日は暑いから、あまり動きたくないかな」
「じゃあやめとく」
「じゃあ断っとく」
二人並んで食堂を出たところで、巳雷がベンチのほうを見てボソッと呟く。
「お、保先輩だ」
「あ、ほんとだ」
大学のベンチでイヤホンをしたままうたた寝している一学年上の先輩は、色素の薄いサラサラな髪に日の光が当たって、とても綺麗だった。
手足も長くモデルのような体形で、寝ている姿ですらそのまま雑誌にも使えそう。
「もしかして巳雷は、保先輩みたいな、美人な人が好みなの?」
「え? あー……うん、まあ」
歯切れ悪く、苦笑いしながら巳雷が答える。
昨日の今日で、少し踏み込みすぎたのかもしれない。
なるほど、巳雷のタイプはああいう綺麗系だったのか。
たいして僕は鈍臭くて、平凡で、どこにでもいるモブのような存在。
そりゃ巳雷の恋愛対象外なわけだ、納得。
「あ、修平だ」
俺たちの友人のひとりが、視線の先にいる保先輩の隣に座った。
先輩を起こす様子もなく、本をパラパラと捲りながら、すやすやと眠る保先輩の顔を間近に眺めている。
「修平って保先輩の知り合いなのか?」
修平は柔道部だ。
保先輩はとてもじゃないが、同じ部活に入っているとは思えない。
「ああ、囲碁だか将棋だか、なんか同じサークルに入っているらしい」
「へえ……巳雷も入ればいいのに」
「サークルでまで頭使いたくない。そんなことより早く、ユタの誕生日プレゼントを探しに行こうぜ」
巳雷は僕に笑顔を向けると、そのまま手を握ってぐっと引っ張る。
「ちょ、ちょっと巳雷、速いって……!」
ぐいぐい引っ張られ、彼の後ろを小走りになりながら、僕は繋がれたままの手を振り払おうとした。
ぶんぶん振ってもそれは全く離れる気配はなく、通り過ぎた友人たちからは「相変わらずお前たち仲いいな」と笑われる始末。
僕は手を振り払うことを諦めて、巳雷の好きにさせた。
巳雷はいつも通りで何も悪くはないのに、罪作りな奴だと思ってしまう。
僕が巳雷を気にするようになったきっかけが、こうしたひとつひとつの行為の積み重ねだったから。
――もしかしたら巳雷も、僕が好きなのではないか。
そんな淡い期待は、昨日粉々に砕け散った。
でも、これからもこんなに近い距離で巳雷と一緒にいたら、僕の感情は溢れて止まらなくなってしまうだろう。
僕が好きだと告げてこの関係が壊れる前に、巳雷からきっぱりと対象外だと言ってもらえたのは、逆に良かったのだ。
これからも巳雷と親友で居続けるために、僕らの同居は大学までだな。
そう、ぼんやりと思っていた。
ともだちにシェアしよう!

