1 / 3

第1話 前の名は

「ちょっと待てください、レイガー殿下っ! 俺はαです、相手を間違えています!」 第一王子殿下のベッドに連れ込まれ、急なヒートに襲われたのかとあわあわとする俺。 そんな俺の身体に跨ったまま、レイガー殿下はその端正な顔に、笑みを浮かべた。 同じαの俺が見てもムカつくくらいのイケメンだな、おい。 しかし、ちょっと待てくれ。 そもそも俺はなぜ、護衛対象に襲われているんだ。 股間を蹴り上げるわけにもいかないし、洒落にならん。 「アラン、いいから諦めて俺に抱かれろ」 普通に名前を呼ばれた。 どうやら相手を間違えているわけではないらしい。 だったら人選ミスとしか言いようがない。 「ですから俺は、レイガー殿下と同じαなんですって! 抱くならΩにしましょうよ!」 俺は殿下と同じく突っ込む側だと必死に訴える。 そりゃそうだろう、折角イケメンのαという性別に転生したんだ、可愛いΩたちとイチャイチャするべきじゃないか。 なのになんでわざわざ、αな俺の尻を狙うんだ!? 「他の奴なんて、どうでもいい。俺はお前を抱きたいんだ」 マジかー。 身長百八十センチ、身体を鍛えているため筋肉質で、 αな俺。 今世でその台詞は初めて聞いたわ。 や、前世では同じバリタチで有名な奴から、しつこく言い寄られていたこともあったけど。 ……って、ん? 俺は、俺を見下ろしてくる目の前の男の顔をまじまじと見た。 いつも通り過ぎる時は頭を下げていたから、護衛対象である高貴な身分の、しかもαの顔なんて、こんなしっかり見たことなかったけど。 ……あれ? 俺は目を瞬いた。 「急に大人しくなって、どうした? アラン」 ふ、と微笑むその顔。 凛々しい眉、やや下がった目尻……口元に覗くホクロ、形の整った薄めの唇、そしてすっきりと立ち上がる鼻梁。 纏う色彩が変わっていたから、すぐには気づけなかったけど、めちゃくちゃ似てる。 前世でガン無視していた、あのバリタチ男に。 あいつ、なんて名前だったっけ。 そうだ、確か……「御門(みかど)怜雅(れいが)」。 俺がぽつりとその名前を漏らすと、レイガー殿下は一瞬固まった。 「……なんだ、俺を覚えていたのか。志麻(しま)嵐恩(あらん)」 え。 えええええええ!?!? 俺は今世で初めて前世のフルネームを呼ばれ、目を点にした。 *** 俺には前世の記憶がある。 前世の日本で、バリタチのゲイだった俺。 好きになる子はいつもノンケの大人しめの子で、チャラチャラしている印象の俺は避けられるパターンが多かった。 苦手意識を持たれているにも関わらず迫るのは可哀想だし、なにより好きな人の嫌そうな顔を見るのは辛い。 だから結局、ゲイバーで飲んで、可愛い系を漁っては日替わりで抱くという、空しくも充実した日々を過ごしていた。 そんな生活のせいか、ゲイ界隈にてそれなりに名前と顔が売れた俺。 気付けば、「バリタチ王子」扱いされるようになっていた。 そして、いつも使うハッテン場にはもう一人有名なバリタチがいて、そいつが怜雅だったのだ。 そいつとは俺が死ぬ半年くらい前に、初めて出会った。 俺と怜雅がいるといつも俺の好みの子は奴にとられるから、俺は奴が嫌いだった。 邪魔だったし敵だったし、勝手にライバル視していた。 しかし、怜雅は違った。 俺のどこを気に入ったのか、奴は俺と出会ってからというもの、どんなネコちゃんの誘いも断って、ひたすら俺にモーションをかけるようになったのだ。 はっきり言って、迷惑以外の何物でもない。 そのおかげで怜雅狙いのネコちゃんたちからは敵視されるし、仲間のタチからは揶揄われるようになったからだ。 で、死んだ日も俺は奴につきまとわれていた。 奴をガン無視しながら、夜の横断歩道を渡っているところに、トラックが突っ込んできて――。 怜雅が焦ったような顔をして俺の腕を掴んだところで、俺の記憶は途切れている。 そうか。 怜雅はやっぱりあの事故に巻き込まれて、俺と一緒に死んだのか。 悪いことしたな。 でもさ。 「キモイ! この世界まで、ストーカーしてこないでくれよ!」 前世の感覚のままつい俺が叫べば、レイガー殿下は目を丸くしたあと、腹を抱えて大笑いした。

ともだちにシェアしよう!