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第1話 前の名は
「ちょっと待てください、レイガー殿下っ! 俺はαです、相手を間違えています!」
第一王子殿下のベッドに連れ込まれ、急なヒートに襲われたのかとあわあわとする俺。
そんな俺の身体に跨ったまま、レイガー殿下はその端正な顔に、笑みを浮かべた。
同じαの俺が見てもムカつくくらいのイケメンだな、おい。
しかし、ちょっと待てくれ。
そもそも俺はなぜ、護衛対象に襲われているんだ。
股間を蹴り上げるわけにもいかないし、洒落にならん。
「アラン、いいから諦めて俺に抱かれろ」
普通に名前を呼ばれた。
どうやら相手を間違えているわけではないらしい。
だったら人選ミスとしか言いようがない。
「ですから俺は、レイガー殿下と同じαなんですって! 抱くならΩにしましょうよ!」
俺は殿下と同じく突っ込む側だと必死に訴える。
そりゃそうだろう、折角イケメンのαという性別に転生したんだ、可愛いΩたちとイチャイチャするべきじゃないか。
なのになんでわざわざ、αな俺の尻を狙うんだ!?
「他の奴なんて、どうでもいい。俺はお前を抱きたいんだ」
マジかー。
身長百八十センチ、身体を鍛えているため筋肉質で、
αな俺。
今世でその台詞は初めて聞いたわ。
や、前世では同じバリタチで有名な奴から、しつこく言い寄られていたこともあったけど。
……って、ん?
俺は、俺を見下ろしてくる目の前の男の顔をまじまじと見た。
いつも通り過ぎる時は頭を下げていたから、護衛対象である高貴な身分の、しかもαの顔なんて、こんなしっかり見たことなかったけど。
……あれ?
俺は目を瞬いた。
「急に大人しくなって、どうした? アラン」
ふ、と微笑むその顔。
凛々しい眉、やや下がった目尻……口元に覗くホクロ、形の整った薄めの唇、そしてすっきりと立ち上がる鼻梁。
纏う色彩が変わっていたから、すぐには気づけなかったけど、めちゃくちゃ似てる。
前世でガン無視していた、あのバリタチ男に。
あいつ、なんて名前だったっけ。
そうだ、確か……「御門 、怜雅 」。
俺がぽつりとその名前を漏らすと、レイガー殿下は一瞬固まった。
「……なんだ、俺を覚えていたのか。志麻 嵐恩 」
え。
えええええええ!?!?
俺は今世で初めて前世のフルネームを呼ばれ、目を点にした。
***
俺には前世の記憶がある。
前世の日本で、バリタチのゲイだった俺。
好きになる子はいつもノンケの大人しめの子で、チャラチャラしている印象の俺は避けられるパターンが多かった。
苦手意識を持たれているにも関わらず迫るのは可哀想だし、なにより好きな人の嫌そうな顔を見るのは辛い。
だから結局、ゲイバーで飲んで、可愛い系を漁っては日替わりで抱くという、空しくも充実した日々を過ごしていた。
そんな生活のせいか、ゲイ界隈にてそれなりに名前と顔が売れた俺。
気付けば、「バリタチ王子」扱いされるようになっていた。
そして、いつも使うハッテン場にはもう一人有名なバリタチがいて、そいつが怜雅だったのだ。
そいつとは俺が死ぬ半年くらい前に、初めて出会った。
俺と怜雅がいるといつも俺の好みの子は奴にとられるから、俺は奴が嫌いだった。
邪魔だったし敵だったし、勝手にライバル視していた。
しかし、怜雅は違った。
俺のどこを気に入ったのか、奴は俺と出会ってからというもの、どんなネコちゃんの誘いも断って、ひたすら俺にモーションをかけるようになったのだ。
はっきり言って、迷惑以外の何物でもない。
そのおかげで怜雅狙いのネコちゃんたちからは敵視されるし、仲間のタチからは揶揄われるようになったからだ。
で、死んだ日も俺は奴につきまとわれていた。
奴をガン無視しながら、夜の横断歩道を渡っているところに、トラックが突っ込んできて――。
怜雅が焦ったような顔をして俺の腕を掴んだところで、俺の記憶は途切れている。
そうか。
怜雅はやっぱりあの事故に巻き込まれて、俺と一緒に死んだのか。
悪いことしたな。
でもさ。
「キモイ! この世界まで、ストーカーしてこないでくれよ!」
前世の感覚のままつい俺が叫べば、レイガー殿下は目を丸くしたあと、腹を抱えて大笑いした。
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