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第5話
グリシャはかつて、アレンと名乗っていた。子供と女性が倒れていたのを、父達が発見し、村へ連れて帰って来た。白い肌に、白に近い金髪の髪、青い瞳を持つ2人は、褐色で黒髪の村の人間とは違ってとても、珍しかったのを覚えている。2人は、とても憔悴しきっていて、何者からか逃げて来たらしく、女性の足の裏は血まみれだった。母や村の医者で、2人を看病する。俺も手伝いで、水などを持って行った。好奇心から2人を見たかったためだろう。
「助けてくれて、ありがとうございます。もう、ダメかと思っていました。」
女性が泣きながら、お礼をいう。ふわふわした髪と、細い肩、大きな青い瞳が守ってあげたくなる可憐な女性だった。俺はこんなに綺麗な人を今まで、見たことがない。その傍には、同じように青い瞳をもつ男の子がピッタリとくっついている。
「目が覚めてよかったわ。ホットミルク、落ち着くから飲みなさい。」
母は親子にホットミルクを差し出す。女性は、一瞬、躊躇ったが、受け取りのむ。そして、男の子も真似してホットミルクを飲む。
「とても美味しいです。こんな美味しいもの初めて、飲みました。」
「ふふ、大袈裟よ。でも、気に入ってくれてよかった。」
母のホットミルクは俺の好物だ。俺も褒められた気になって嬉しい。すると、女性は男の子を連れて立ち上がる。
「お世話になりました。お陰でまた旅を続けられます。」
そう言って、女性は少ない荷物を持ち、出て行こうとした。2人の格好は冬の森に不釣り合いな薄着をしていた。慌てて、母が2人を止める。
「さっきまで、倒れていたのだから無理しないで。それに、そんな装備で冬の森を旅するなんて危険よ。もう少し、ここにいてもいいんじゃない。」
「いえ、ここまでして貰って、さらにお世話になる訳にはいきません。」
女性が困り眉でいう。でも、足の裏を怪我しているから立っているだけで痛そうだ。優しい母はそんな2人を放っておける訳がない。俺に村長の父を呼びに行かせた。
「見ると、2人は何か事情があるのだろう。もし、困っているのなら私達を頼ってほしい。妻が心配して気が気じゃないらしい。怪我が治るまでの、間だけでもこの村にいてくれまいか。」
父は、優しい声音でいう。いつもの俺に厳しい父とは全く違った声で俺は驚いた。
「旦那は村長なの。この人がいいと言っているのだから、この村に留まってくれない。」
母も再度、お願いをする。すると、女性は泣き崩れて、お礼をいう。そんなに、泣いたら大きな目が落ちてしまうんじゃないかと、心配になり、俺は女性の背中をさすった。
「本当に、ありがとうございます。」
女性は、名前をターシャといった。ターシャは、頭がよくて、優しかった。俺たちの知らない物語を子供達にたくさん話してくれた。俺も含めて村の子供は、ワクワクして聞いていた。それに加えて、あの美貌だ。村の男達は、皆、ターシャに夢中になって花や木の実を送った。そんな男達を威嚇するみたいに、アレンはターシャにべったりだった。村の子供達は、ターシャを独り占めしようとするアレンが気に食わなくて、ちょっかいをかける。
「今日もママにべったりですか。」
「まだ、ママにおっぱい貰ってるじゃないの?」
アレンが怒って、子供達に向かって殴りかかる。でも、細いアレンの手から繰り出される拳なんていつも森で遊んで自然と鍛えられている村の子供には、効かない。逆にやり返されてアレンは転ばされた。そして、馬乗りになって殴られる。
「うう、やめろ。」
「はは、アレンの弱虫!」
子供達は残酷に笑う。アレンはなんとか逃れようと身じろぐがびくともしない。
「おい!何をしてるんだ、やめろお前ら!!」
そこに、父の稽古という名の地獄を終えた俺が割って入る。確かに、アレンがターシャを独り占めしているのは狡いと思うが、弱い者いじめは気に食わない。俺は、周りの奴らを睨みつける。すると、奴らはたじろぐ。
「こんなことして、恥ずかしくないのか。北の森の民としての誇りを持て」
いつも父に言われてる言葉を放つ。一度、言って見たかったのだ。
「ごめんよ、ロキ。もうしない。」
俺に威圧されたのだろう。子供達は謝ってすごすごと去っていった。痛みに蹲っているアレンに手を差し出す。
「大丈夫か。ほら、捕まれ。」
「ありがとう、ロキ。」
アレンは俺の手につかまり、立ち上がる。その軽さに俺に驚く。こいつは、もっと肉を食べるべきだ。
「来い、傷手当てにし行くぞ。」
アレンを村の医者のとこに連れていく。アレンの肌は白いから、痣や切り傷がよく目立って痛々しい。明日、あいつらを絞めておこう。俺はいつもの日課の鍛錬をするため、家の裏庭へと向かうとアレンもついて来た。
「あいつらに負けたくない。俺もお前みたいに強くなりたい。俺を鍛えてくれ。」
アレンは俺にそうお願いしてきた。俺も鍛錬の相手が欲しいと思っていたし、丁度よかった。
「いいよ。ただし、厳しいからね。」
その日からアレンと俺は一緒になって鍛錬をする。俺の鍛錬は、朝の走り込みから始まる。木の枝や根を避けて、ボコボコな道を走り、岩を登る。アレンは俺の後ろを必死で突いてきた。そして、午後は剣で手合わせをする。アレンは細いから俺の大振りの一撃で吹っ飛んでしまう。鍛錬後は2人で俺の母のホットミルクを飲むのが日課だ。今じゃ、虐められてできた怪我よりも鍛錬による怪我の方が多い。半年も経つと、アレンは俺に難なくついて来るようになって、村の子供達のなかで俺に次いでの実力者となっていた。
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