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第6話
「こんなことも、できないのか!村長の子供としての自覚を持て!!」
バシン。容赦ない父の平手打ちが俺の頬にあたる。口からは血の味がする。俺は体を動かすことは、得意だが、頭を使うのは苦手だ。今日も村長に必要だと算術を父に習っていたが、あまりにも俺ができないものだから父が怒ってしまった。尊敬する父に叱られたのと、頬の痛みで、俺の視界は霞む。
「泣くな!人に弱味を見せるな!シャンとしろ!!」
父は泣く俺をさらに怒鳴りつける。俺は村長の子だから、しっかりしなくちゃいけないのに涙は次から次に溢れ落ち止まってくれない。限界に達した俺は、部屋から出て屋敷から逃げ出す。俺は足が速いから、従者や家来は捕まえられなかった。行くあてもなくめちゃくちゃに走る。どうしよう。逃げてしまった。でも、今は家に戻りたくない。気づくと俺は、アレンの親子の住む小屋に辿り着いていた。アレン達の小屋は、村の人とは少し離れた森に近い所に建てられていた。物珍しい2人の容姿の2人を他の村の人達から隠すためらしかった。俺が声を押し殺して泣いていると、中から声がした。
「ロキ、どうしたの。入ってきなさい。」
ターシャが優しく、俺を迎え入れる。泣きじゃくる俺をターシャは抱きしめてくれた。すると、いつもターシャからする甘い匂いが胸いっぱいに広がる。金木犀の香りだ。ターシャは金木犀の匂い袋を持ち歩いていると、この前、教えてくれたのだ。
「どうしよう。俺、逃げちゃった。お父様、怒ってるよね。捨てられちゃったらどうしよう。」
ターシャは俺の背中を撫でながら、話す。
「大丈夫よ。ロキみたいに、頑張り屋で優しいいい子、ロキのお父さんが捨てる訳ないわ。ロキのお父さんは、ロキに立派な跡取りになって欲しくて厳しくしてるの。きっと今頃、心配になって探してるわ。」
「本当?」
「ええ、子供を捨てる親なんている筈ないもの。」
ターシャは俺が泣き止むまで抱きしめてくれた。ターシャの腕の中は、あったかくて落ち着いた。アレンがいつもターシャにくっ付いていたのは、安心するからだろう。
「ロキ、ここにいたのか。」
俺がターシャに頬の手当てをして貰っていると、汗だくの父が迎えきた。その声にはいつも見たいな力強さはない。ターシャの言っていた通り、俺を探してくれたのだろう。その日の晩はいつもは別々に眠るのに、父が一緒に寝てくれた。父の体温はあったかくて、いつもよりよく眠れた。
「お母さんを助けて!!!」
必死の様相でアレンが村の医者のもとに駆け込む。何事かと村人達が集まっていく。俺もターシャに何かあったのかと思い、アレンの家へ向かおうとすると、母に止められた。
「子供が見ていいものじゃない。ロキは家で待っていて。」
村人達の話によると、ターシャは冬眠していなかった熊に襲われたらしい。ターシャとアレンの家は森に近かったから襲われたのだろう。ターシャはアレンを必死に守り、アレンは少し怪我をしただけで済んだが、ターシャは死んでしまった。父が助けに行った時には、爪で腹はさかれていて、見るも無惨な姿をしていたらしい。ターシャの葬式では、たくさんの人々が涙を流していた。俺もターシャのことと、甘い匂いを思い出して涙が枯れるほど泣いていた。アレンは式の間、ずっと放心していた。そんなアレンを俺の父は背中をさすっていた。
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