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1話 修学旅行パニック!
修学旅行先の旅館に泊まった夜。偶然二人部屋で同室になったのを良いことに、恋人を後ろから抱き締めたまま浴衣の隙間からトランクスを探り当てる。今日は抵抗が強いなとは思っていた。しかしここが旅館だからだろうと、あまり気にせず続ける。いつもの様にトランクスと素肌の間に手を差し入れた、つもりだった。
だがそこにあったのはカサカサとした紙の感触で、これはもしかして⋯⋯。
「おむつ?」
俺がそう口にした瞬間、尚稀は激しく泣き出してしまった。
まずい、と思った時には手遅れだった。違和感を感じた時点で止めるべきだった。
「ごめん、だから嫌がってたんだね。泣かないで」
向かい合わせにして膝に乗せると、優しく背中を擦る。こんなに泣かせてしまったのは初めてで、内心とても焦る。
しばらくそうしていると、膝がじんわりと温かくなって来た。尚稀はまだ泣き続けている。
「おしっこ出ちゃった?」
何気なく言ったつもりだったのだが、泣き声は一層激しくなるばかりだ。これは俺のデリカシーが無さすぎたかもしれない。
「泣かせるつもりじゃなかったんだよ。俺が泣かせたから出ちゃったんだよね?」
小さく頷くのが見えて、落ち着くまでずっと抱き締め続けた。
まだ泣き止んではいないが、やっと話ができるようになってきた。
「⋯⋯さっき風呂の時間に穿き替えて、寝る前に便所行こうと思って我慢してた⋯⋯。お前がこんなところで盛ってくると思わなかったから⋯⋯」
両目を擦りながらちょっとずつ話してくれた。
「全部俺のせいだね、ごめんね。あんまり目擦ると赤くなっちゃうから、ほら泣き止んで」
「だって、こんなの引く⋯⋯」
「いやいや、俺全然引いてないでしょうよ。いつも夜になっても泊まらないで帰ってたのはこれが理由?」
こくりと小さく頷く。
「毎日なの?」
これにもこくりと返事があった。
「予備の持ってる? 肌荒れたら大変だから、交換しよう」
もう色々バレた事で諦めたのか、のそのそと自分の荷物から白いおむつを持って来た。
「ちょっと待ってて。お風呂はもう入れないから、タオルお湯で絞ってくるね」
備え付けの洗面台でホットタオルを作って部屋に戻ると、しゅんとしたまま身動き一つしない尚稀の姿に、可哀想と言うより可愛いと感じてしまう俺はおかしいだろうか。
「はい、浴衣持っててな」
尚稀に浴衣の裾を持ち上げててもらい、その適度に筋肉の付いた細い脚からトランクスと重くなったおむつを引き抜いて、おむつが当たってた部分をタオルで丁寧に拭いていくと、少しリラックスした表情になった気がする。
「ほらきれいになったよ。片足あげて」
その言葉に素直に足を上げてくれたので、新しいおむつと、最後にトランクスを穿かせてやる。
「できあがり。もう寝ような」
「ん、明日も引かないで⋯⋯」
「ここまでやっておいて嫌になったりしないって。それよりお前可愛かったから、我慢するの大変だったんだぞ」
今度は背中を軽く蹴られてしまった。その顔は真っ赤で、つい笑ってしまう。意外な一面を知ってしまったが、より一層愛おしく感じる日だった。
翌朝おねしょでおむつを濡らした尚稀の着替えを手伝ってから、班に合流した。
巨大テーマパークともなると、次の目的地までの移動だけで大仕事だ。元々テーマパークにさして興味の無い俺は、次はここ! とはしゃいでいる同じ班のメンバーのノリに付いて行けず、さりげなく便所行って来るから先に向かっててと言った。
すると俺も、と尚稀も付いて来た。
「お前は班行動してる時点で奇跡だよな」
返事は無く、ただぎろりと睨まれてしまった。
尚稀はいわゆるヤンキーだと思われている。金に近い髪色や、耳に幾つものピアス、一匹狼な性格で言葉数も少なく、俺以外誰ともつるまない。ケンカが強いと言う噂もあるが真偽の程は分からない。
便所に行きたいのは嘘では無いので、一番近くの便所に向かっている時だった。尚稀がいきなりしゃがみ込んだ。
「えっ、どうした? 気分悪い?」
それなりに天気も良いので、熱中症かと心配になる。
膝に顔を埋めたまま、ふるふると顔を横に振る。
「⋯⋯も、でる」
尚稀が訴えてたのは、便所の我慢が限界だと言う事だった。
「まだ便所まで距離あるけど⋯⋯。お前さ、朝おむつ穿いたよな?」
「んっ、」
今朝着替えていた時、昨夜起きてる時に漏らしてしまったから、不安で昼間もおむつを穿いていくと言っていたのだ。元はと言えば俺のせいなのだが不安が紛れるなら、と穿かせてやったがまさか本当に必要な場面が来るとはな。
「いいよ、俺がフォローするからそのまましちゃいな」
ちょうど人通りの少ない場所だったので、こっそり頭を撫でてやる。
「っう~」
身体が僅かに震えていて、おそらく最中なのだろう。またぐずぐずと泣き出してしまった。
「泣かなくていいよ、ずっと我慢してたんだよな?」
俺もしゃがみ込んで身体を支えながら、優しく声を掛けてやる。俺が便所と言い出すよりずっと前から我慢していたのだろう。尚稀は何より集団行動が苦手だ。普段の姿からは意外だが、自分からは言い出せなかったと言うのが正解のようだ。
しばらく背中を擦りながら、終わるのを待つ。
「全部出た?」
頷くのを見て、そっと立ち上がらせると便所へと向かう。
男子便所は混んでいなかったので、誰に見られる事も無く一つの個室に入る事ができた。
「よく頑張ったな。着替えような」
靴を脱がせ、制服のスラックスを抜き取ると、トランクスと一緒におむつも脱がせる。おむつは全体的に薄黄色に染まっており、どれだけ我慢してたんだろうと、早く気付いてやれなくて申し訳なく思う。
尚稀に荷物を出して良いか確認してから目的の物を取り出す。
パッケージは普通の汗拭きシートだが、実は中身がおしりふきに入れ替えられてるらしいそれを数枚引き抜き、おしっこで被れない様によく拭いていく。
荷物には、替えのおむつと下着が入っていた。
「下着、どっち穿く?」
下着、と聞いたのは昨日のデリカシーの無さを反省してのことだ。
意外にも、尚稀はおむつの方を選んだ。
「りょーかい。あのさ、おむつの予備多くない?」
リュックにはおむつ三枚と、下着一枚が入っていた。普段夜しかおむつをしてないはずにしては、予備のおむつが多くはないだろうか。
その質問に、尚稀は顔を真っ赤にしてしまった。またやってしまっただろうか。だが、今後もフォローしていく事を考えると知っておきたい事だった。
「もしかしてさ、授業中いきなり出てったりしてたのって、便所?」
尚稀は普段から学校もサボりがちだし、授業中いきなり教室から出て行っても強く咎める教師もいなかった。
だが、それが便所が我慢できなくて教室を抜け出していたのだとしたら。
「⋯⋯いつもは昼間はおむつしない。けど、便所近いから⋯⋯」
それだけで十分だった。
尚稀はいつも人知れず苦労してたのだ。もしかしたら、学校で間に合わなかった事もあるのかもしれない。実際教室から抜け出した後、戻って来ない事もあった。そう言う時は俺がカバンを家まで届けるのだが、いつもさっさと受け取って、顔さえちゃんと見ないで閉め出されてしまう。
それがお漏らしした後だったとしたら納得できる。どんなに恥ずかしい思いをしただろう。
「これからは俺が何とかするからさ、少しは頼ってよ」
頭を撫でても拒否されない。いつもはやりすぎると怒るのに。
「出てかないの?」
尚稀の身支度が終わり、俺も小便をしようとしたら仁王立ち(と言っても俺より背が低いので威圧感は全く無い)で出て行こうとしない。
「俺の散々見られたんだから、見せろよ」
どんな理屈だろう。それに見てて楽しいのだろうか?
「いや、お前に見られてるとたちそうなんだけど」
実際その辺りをじっと見詰められると、妙な気分になってくる。
「へんたい。いいから、早く済ませろよ」
「ハイハイ」
さっきまでの弱々しさは消え、俺様尚稀が戻ってきた。
目を瞑って集中する。こんなに排尿が難しいと思ったのは初めてだ。
なんとか膀胱を空にして、尚稀の方を見ると若干顔が赤かった。照れるのはこっちじゃないかと思いつつ、やっと目的が達成された安堵感があった。
あの後、泣いてしまった顔が誤魔化せるまで待って班のメンバーと合流した。
一応、軽い熱中症で休んでた事にしておいた。
尚稀は普段話さないクラスメイトから体調の心配をされ、ぶっきらぼうに大丈夫だと答えている。
その様子を眺めながら、これからも愛しい恋人をサポートして行こうと誓った。
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