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2話 Side:R
俺はリナルド・ジョフロワ。組織の隠密部隊の一員である俺は、幹部のセラフィーノ・バックスが行方不明との密令を受けて、その所在を探していた。
GPSに記録された最後の場所には、血痕と組織の一員である証のGPSが仕込まれたピアスの破片が残されていて、そこから付近を捜索すると、林の奥で本人を見付けることができた。しかし気を失っているし、何よりその下半身がびしょびしょに濡れている。ガソリンか何かをかけられたのかと思い匂いを嗅ぐと、それが小便であることが分かった。
俺は所在不明と嘘の報告を上げ、その身体を組織にバレていない第二の家へ連れて帰った。もちろん、俺のピアスは本当の家に置いて来た。
セラフィーノ・バックスは近くで見れば見るほど、その年齢にそぐわない、若い見た目をしている。これでは十代でも通用するんじゃないか。そう思っている時、目を覚ました。
それからのあまりにも幼い言動と、不安気にゆらゆらと揺れる翡翠色の瞳は、これが本来の人格でないことを証明していて、不覚にも守りたくなってしまった。本当は、怪我の手当てと着替えを提供したら帰すつもりだったのに。
ヒスイと過ごす二日目の朝、やはり穿かせたおむつはたぷたぷに水分を吸っていて、あふれそうなほどになっていた。
「ヒスイはおねしょの癖があるのかな?」
「⋯⋯わかんない」
俺が確認した限りではこれが三度目のおねしょなので、ほぼ間違いなく癖なのだろう。
ヒスイの下半身をおしりふきできれいにしてから、新しいおむつを穿かせる。
「またおむつなの?」
「良いじゃないか、これならいつ昼寝しても大丈夫だよ?」
「⋯⋯⋯⋯」
不服そうにしているが、拒否はしない。それが甘えてるようで可愛く見える。
「さ、朝ご飯にしよう。顔洗っておいで」
「はぁい」
結局ヒスイはおむつを穿いたまま、リビングのソファでごろごろしている。
食後で眠いのかなと思ったが、昨日頭を負傷しているし、本調子ではないのかもしれない。
「頭、まだ痛い?」
「うーん、少し痛いけど、それより、頭の中がぼうっとする」
「そうか、こんな状況になって疲れてるんだよ」
「ねぇ、」
「どうした?」
「⋯⋯抱っこ、してほしい」
「良いよ」
予想外だった。ヒスイがここまで甘えて来るとは思わなかった。初日から頭を撫でたり、抱きしめたり、俺のスキンシップも過剰だった自覚はあるが、それを許容して、もっともっとと求めてくるとは。
実年齢からは考えられないくらい小さく細い身体を抱き上げ、ゆらゆらと揺らす。
首すじにぎゅっと掴まっているヒスイは、じきにすうすうと眠ったようだった。そのまま寝室に連れて行こうとして、抱いている手に温かさが伝わって、またおねしょしたんだなと思う。
ヒスイをベッドに寝かせると、しっとり濡れたおむつを交換してから布団をかける。
その頭を優しく撫でながら、セラフィーノ・バックスという男について考えていた。
俺が十七で組織に入った頃から、三つ年上のセラフィーノ・バックスは既に周りとは一線を画していた。細い身体ながら武術にも長けていて、銃器の扱いも一級品。良い意味で悪に染まった顔をしていないので、その身体一つで情報を取って来ることもあり、情報屋顔負けな一面もあった。
順調に昇格していき、二十五で異例の早さで幹部に昇進し、表立った仕事よりも、裏での仕事が多くなっていった。内容は銃器を扱う仕事だったりが主だ。
俺は直属の部下ではないし、隠密部隊の特色上、名前を知られてもいない。それでも、影から支えている自負はあったし、共に戦っているつもりでもいた。
憧れ、だったのかもしれない。小さな身体で強烈な強さを持った男を、内心ずっとお手本にしながら生きて来た。その生き様を、ずっと見ていたいと願った。
しかし、セラフィーノ・バックスは幼い時から組織にいたと聞くし、それこそ十歳の頃なんて、もう銃器も扱っていただろう。だからこそ、ヒスイと言う人格が目覚めてしまったのではないか、とも思う。
きっと、十分に甘えて来られなかった人生だったのだろう。三十一の良い大人が一体何をやってるんだと、そう突き放せない自分がいて、幼いヒスイを心から愛してやりたいと思ってしまう。
憧れが恋心どころか、親心になってしまった。すやすや眠るヒスイを見つめながら、歩みを止めずに突き進んで来た人生の中で、少しでも穏やかな時間を過ごしてほしいと願わずにはいられない。
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