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3話・1日目その3《屋上でバーベキュー》

「というわけでペアが決まりましたので、一旦お部屋にお入りいただき、荷物の整理および休憩をしてください。夕食は18時より、屋上にて歓迎のバーベキューパーティを行います」 「やったー、バーベキュー!」 イタルさんが、無邪気に飛び跳ねて喜ぶ。 「撮影は明日から本格的に開始していただきます。撮影期間中のお食事は、レストランにて常時バイキング形式でのご提供となります。ですから時間に囚われず、ご自由にスケジュールを組んでいただいて結構です」 レッドツリーホテルとしては、全面的に撮影に協力する態勢のようだ。 部屋割りは、ペア同士が近くの部屋になるよう組まれた。 ミツバさんが3階の一番奥の海が見える部屋で、僕がその向いの森が見える部屋。 部屋に入る直前まで、メイキングのカメラが僕らを追ってくる。 そんなカメラを無視し、ミツバさんが声を掛けてくれた。 「よろしく、中川さん」 「あ、あの。マナトって呼んでもらえると」 「わかった、マナトね」 「はい。よろしくお願いします、ミツバさん」 「俺のことも「さん」は要らないよ。同じ大学3年だし」 「は、はい。では、ミツバくんで、いいかな?」 「いいよ。俺、朝が早かったから寝不足で。少し眠るから、バーベキュー行く前に声をかけてもらえると助かる」 「うん。わかった」 綺麗な顔でミツバくんは欠伸をし、向いの部屋へと入っていく。 見た目はクールだけれど、コミュニケーション能力が高そうな人でよかった。 僕もメイキングカメラのクルーに軽く会釈をし、スーツケースを押して部屋へ入る。 大きな窓の向こうに、すぐに深い森が広がっているのが見え、思わず「うわー!」と声が出る。 部屋も大きく、ベッドも贅沢な大きさだ。 ゴロンと寝転んでみれば、いい寝具が使われていると、僕にでもわかった。 置かれているタオルもフカフカで、これが、レッドツリーホテルのクオリティの高さなのだろう。 — 18時はまだ空が明るい。 日が傾いてからは暑さも一段落し、吹き抜ける海からの風が心地いい。 屋上からは海も、森も一望できた。 用意されていたバーベキューの食材は、かなり豪華だ。 それをコックさんが、炭火で手際よく焼いてくれている。 分厚い牛肉に、脂ののった豚肉。 鶏は骨付きで見栄えもいい。 彩り豊かな野菜も見るからに新鮮で、他にも、エビ、ホタテ、ウインナーと種類豊富だ。 コックさんが言うには、食材は、毎日のように船で配達されてくるらしい。 明日からの撮影に必要であれば、実際に提供可能な範囲で、コース料理や、ランチプレートなども、用意してくれるとのことだった。 「では、お招きいただいたレッドツリーさんに感謝を込めて、かんぱーい!」 サイカワさんが乾杯の音頭をとった。 「かんぱーい」 「よろしく」 「楽しもうな」 5人のYouTuberは、元々、横のつながりがあるらしく、親しげに盛り上がる。 僕らサポートスタッフの5人とも打ち解けようと、積極的に会話に混ぜてくれた。 食事をしながらも、常にメイキングカメラが張り付いている。 普段から撮られることに慣れているYouTuberはともかく、僕らスタッフは無口になりがちだ。 それでも途中からは、同世代らしく話が弾み、カメラの存在は忘れられた。 今回、僕がなぜ、このバイトに応募したかと言えば、やはり報酬額が魅力的だったからだ。 大学に張り紙が貼られたとき、ゼミでも皆「やりたい、やりたい」と噂になった。 『高額報酬【6泊7日】撮影サポートスタッフ5名募集。YouTubeの撮影です。動画への映り込みOKな男性に限る(面接審査あり)。もちろん交通費支給、宿泊や食事は豪華ホテルにて全て提供します』 むしろ条件が良すぎて怪しいんじゃないかと、言う人までいた。 結局、ゼミの中で、このバイトに受かったのは僕だけだ。 そろそろ実家を出て一人暮らししたいと思っているから、この報酬はありがたい。 今、美味しい肉を頬張りながら「参加してよかった」と思っている。 — もうすぐ夏至を迎える、1年で最も日の長いこの季節。 19時を過ぎ、ようやく日が沈む。 屋上から見る、真っ赤な夕焼けと海への日の入りは、かなりロマンチックで、絵になった。 この1週間は、概ね天気に恵まれそうだ。 きっと、どのYouTuberの動画にも、夕陽のシーンが使われるだろう。 暗くなった屋上には、ランタンがいくつも置かれ、やたらとムーディなオレンジ色の温かい光を放っていた。 さっきまでワイワイしていたYouTuberたちは、いつの間にかそれぞれのペアごとに別れ、早くも撮影の作戦会議を始めている。 バーベキューコンロの横で、満足そうに微笑む藤原さんが目に留まる。 その僕らを観察するかのような姿は、少し不気味に思えた……。

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