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10話・3日目その2《謝ってばかり》

「ごめんね。……本当にごめんね」 「あぁ、もう。喋らなくていいから、目を閉じてろ」 ミツバくんの背におぶられた僕は、何度も何度も謝ってしまい、ついには怒られる。 「ごめん……」 もう一度謝罪を口にすると、横を歩くイタルさんがフォローしてくれた。 「でもさ、よかったよ。ちょうどホテルに戻る途中の俺たちが通りかかった時で」 イタルチームが、ミツバくんが僕を呼ぶ声を聞きつけ、合流してくれたのだ。 僕らのリュックサックとカメラを持って、一緒にホテルへと戻ってくれている。 「マナトくんもさ、熱中症で倒れてもカメラは落とさないし、プロフェッショナルだよ。ミツバはどうせ「カメラマン熱中症で倒れる!」ってシーンを、フェイクドキュメンタリーに組み込んじゃうわけでしょ?」 「しないよ、さすがに」 やっぱりミツバくんの声は、少し怒っていた。 「いいんだ、ミツバくん。使えるなら、使って……」 「だから、マナトは眠っとけって」 「うん……ごめん」 そこからは僕に気を遣い、誰も口を開かなかった。 揺れる背中と、ミツバくんの爽やかな汗の匂いと、与えてくれる安心感で、僕はだんだんと眠くなる。 うつらうつらと、夢と現実を行き来し始めた。 不謹慎だけど。 いつまでも、この時間が続いたらいいのに。 ミツバくんが本気で僕を心配してくれて、ミツバくんが僕を大切に扱ってくれて、僕は彼の首にしがみついて。 ずっと、ずっと、このまま。 ……そんなことを考えていたら、いつの間にか、なんの夢も見ないくらい熟睡していた。 — ホテルに到着したと気がついたのは、ミツバくんが大きな声で喋ったからだ。 「撮るな。いい加減にしろ。何がメイキング動画だ」 ゆっくりと目を開けた僕の前に、藤原さんとメイキングカメラがいた。 騒ぎを聞きつけ、レストランにいたサイカワチームも、ラウンジへやってくる。 「どうしました?ミツバ氏」 サイカワさんが問う。 「マナトが熱中症気味で戻ってきたんだ。俺がラウンジのソファへ彼を降ろそうとしたら、藤原さんが降ろす前に、背負ってる絵を撮らせろって」 「それは流石に引きますね。まずはメイキング動画より、クーラーが効いた場所での静養でしょう」 サイカワさんは、ソファへクッションを置き、僕の枕を作ってくれる。 彼のサポートスタッフは、スポーツドリンクを取りに、ドリンクバーへと走ってくれた。 「あ、あの、すみません……。もうかなり良くなったので。……ご心配おかけしました」 結局、思うようなシーンが撮れなかった藤原さんは、不機嫌そうな顔で、メイキングカメラクルーに何か囁き、姿を消した。 — 睡眠と水分と、しっかりとした食事を取った僕は、わずかな頭痛のみを残し回復する。 今は、自分の部屋のベッドで横になりながら、ミツバくんに説教されているところだ。 「昨日、眠れなかった?」 「あ、うん。ちょっと……」 外はもう夕焼けで、今日の撮影は中断したままになってしまった。 「俺が、BL撮ろうって言ったから、考えこんじゃった?嫌なら嫌って言ってくれていいんだよ。人によって考え方が違うのは、俺もよくわかってるつもりだし」 「そうじゃなくて……。ちょっと勇気が必要だったから」 ミツバくんは慈悲深く微笑む。 「今朝、体調不良に気づいてやれなくて悪かった」 「ミツバくんは、なにも悪くないよ」 「3本目のBL動画は、無しにしよう。その分、2本目をじっくり撮ればいい。昨晩の話は、なかったことにして。変なこと言って悪かったな」 「違うんだ、ミツバくん!」 思わず声が大きくなってしまう。 「やらせてほしい」 「いや、責任感じたりしなくていいんだ、マナト」 僕はミツバくんへ手を伸ばし、彼の腕をしっかりと掴む。 「BL動画の相手役、僕にやらせてください。そしたら、そしたら、変われると思うんだ、僕自身が」 彼は僕が嘘を言っていないか見極めるかのように、見つめてきた。 「ホントにいいの?」 コクリと頷く。 たとえそれが「フェイク」だとしても、「それっぽい」作り物だとしても。 長年、男の子が好きだという感情を抹殺していた僕からしたら、大きな一歩になるはずだから。 「じゃ、こうしよう。嫌だったら途中でも必ず言うこと。元々、動画は2本撮れれば充分なんだ。3本目は、撮り終わることができたらラッキーくらいのつもりでいよう」 僕はまた、コクリと頷く。 「な?無理はしない。それが約束」 そのとき、部屋をノックする音が聞こえた。 ミツバくんが立ち上がって、ドアを開けてくれる。 そこには、僕ら以外のYouTuber4人、サポートスタッフ4人が揃っていた。 「メイキング動画について藤原さんと話をしようと思ってるんだ。君たちの意見も聞きたい」 皆を代表するように、ユーキさんがそう告げた。

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