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13話・4日目その2《友達を演じる》

「マナト。2本目の動画さ、昨日は予定の半分しか撮れなかったでしょ。でも「イタル地図」のお陰で島の全貌を把握できたから、今日中に撮り終われそうだよ。安心して」 キャップをかぶりカメラを抱えた僕に、ミツバくんが微笑む。 「よかった」 睡眠も水分も食事も、しっかり摂ったし、なにより今日は島に程よい風が吹いている。 「夕方までに撮り終わって、明日、明後日はいよいよBL動画だ。頑張ろうな!」 「う、うん。で、今日はどこから撮る?」 「マナトが熱中症で倒れた瞬間の映像が、撮れてた。俺を撮影していた絵が、急に揺れて空を写すんだ。あれを使わせてもらいたい。で、そのすぐ次のシーンとして、またこのホテルからスタート」 「うん。もちろんだよ。あの映像使って」 「じゃ、歩き出しながら、やっぱり睡眠、水分、食事は大事だなって話すシーンをまず撮る」 「OK。さっき教えてもらった白い砂浜や、窪地にも行くの?」 「いや、あれはBLのほうで使いたい」 「わかった」 「今日撮る2本目の映像の中にいる俺もマナトも、地蔵は膝丈くらいの小さきものだって、思い込んでる。だから、下ばっかり探すんだ。で、なかなか見つからない」 「なるほどね。だとしたら、小さい白い花が咲いてる場所は使えるかもね」 「そうそう。わかってんな」 — 撮影しながら、森を進む。 僕が持つカメラはミツバくんを映し、彼はカメラ越しに話しかけてくる。 『全然見つからないな、地蔵』 『うん。そもそも財宝を埋めたっていうのは、100年くらい前の話なんでしょ?もう無いのかも』 『でも、地蔵だぞ。簡単には壊したり、撤去したりできないだろ。罰が当たりそうで』 『確かにね』 僕とミツバくんは、アドリブでフランクに会話を交わす。 それは、彼と僕が親しい友人だという設定だから。 「高校からの友達で、大学生になっても、ことある事につるんでいる2人」 そう説明を受けた。 実際の僕には、そんな友達はいない。 男の子を「好きだ」と思ってしまいそうな自分を隠すため、常に人と距離を置いて過ごしてきたから。 ゼミの仲間とも、挨拶や雑談は交わすけれど、旅行に行ったり、腹を割って語り合うような付き合いは避けている。 だから「フェイク」でも、友情関係というものを、味わえるのは楽しかった。 この「友情」は、明日から撮影するBLみたいな「恋愛感情へ発展するかもしれない関係」とは大きく異なる。 グッと踏み込んで発言したり、じゃれ合うように触れ合っても、それは絶対に恋愛には発展しない安全なもの。 男同士の友情としての、それ以上でもそれ以下でもない親密さ。 いずれにしろ、僕には初めての経験で新鮮だった。 — 昼飯は、ホテルのコックさんにおにぎりを握ってもらい、持参している。 小さな白い花の咲く場所で、それを実際に食べながら、休憩シーンを撮影していた。 『地蔵なんて、どこにもないのかもしれないな……』 『そもそも、この赤樹島じゃない可能性もあるんじゃない?』 『いや。そこを疑うなよ。あれだけ調べたんだから』 カメラの液晶モニター越しに、ミツバくんの顔に怒りが滲む。 こんなとき、友達だったら何ていうんだろ? 彼の機嫌を取る?いや、対等な関係なのだから、そんな必要もない。 『おにぎり、残り2個だけど、タラコと梅どっちがいい?』 さらっと話題を変えた。 話をそらしたというより、ミツバくんの怒った顔に慣れている友達を演じ、スルーしたのだ。 『タラコ』 『えっ、僕もタラコがいい』 本当はどっちのおにぎりでもよかったけれど、僕はふざけてタラコのおにぎりにかぶりつく。 『おい!俺もタラコ!』 カメラに向かって、彼の手が近づいてきた。 液晶モニターには、アップになったミツバくんの顔が映る。 そうして、僕の手の中にあったおにぎりに、彼がガブリと嚙みついた。 それをモグモグと咀嚼するミツバくんは、してやったりの満面の笑顔だ。 僕の友達としての演技が間違っていなかったことを、証明する。 ただ、僕の顔をカメラが捉えていなくて、助かった。 だって、たったそれだけのことに、僕の顔は赤く染まっていたから。 完全に、友達に対する反応ではなかったから……。 — 動画の中の僕らは、申の刻、16時より少し前にどうにかこうにか、地蔵岩を見つけた。 ミツバくんはリュックサックから、ホテルで借りた小さなスコップを取り出し、地蔵の影の頭の辺りを掘り起こす。 『おぉ、なんか埋まってるぞ』 そこでカメラを一旦止め、掘り起こしたカバンを石で叩いたりして、ダメージ加工と細工を加える。 そうして、もう一度土に埋め、掘り起こすシーンを撮影した。 カバンからは財宝が出てきて、ミツバくんは『すごい、すごい!』と喜んだ。 念のため、地蔵の影の尻にあたる部分も掘ってみるが、空の宝箱だけが出てくる。 『「尻隠さず」なるほどねー』 でも、カバンから出てきた財宝が、1本目で埋めた数に比べ、明らかに半減していると、視聴者だけが気づくはず。 動画の中のミツバくんは、それに気付くことができず、ただ喜んで「完」となった。 — 無事に2本目の撮影を終えた僕らは、ホテルに戻り乾杯をした。 達成感で満たされている。 「マナト、これ課題図書」 そんな僕に、ミツバくんはタブレットを渡してきた。 「何これ?漫画?」 「BL漫画。何冊かピックアップして、マナトって本棚フォルダに入れておいたから。明日の朝までに読んでおいて」 どの本の表紙も、直視するだけで恥ずかしい気持ちになるものばかりだった。

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