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16話・5日目その2《いよいよ撮影》

12時少し前。 慌ただしくノックをされた。 ドアを開けると、ホテルで借りたのだろうエプロンを着たミツバくんが、立っていた。 「ごめん、一つ確認し忘れ。マナトはさ、俺のこと普通に「ミツバくん」って呼んで。俺は、マナトじゃなくて、「オマエ」って呼んでいい?」 「オ、オマエ?」 「いやだって、マナトじゃマズイでしょ?身バレしないようにさ。「君」でもいいけど、どっちがいい?」 「そっか。えっと、オマエで……」 「了解!じゃ、12時にレストランからスタートね」 そう言って、廊下を走っていってしまう。 確かに2本目の動画のときも、ミツバくんは、カメラが回っている場では、僕の名前を呼ばなかった。 あのときは、君ともオマエとも言われなかったけれど、BL動画では、そうもいかないということか。 「オマエ……」 始まる前から、僕の心拍数は上がってしまいそうだった。 — 12時ちょうどにレストランへ行くと、バイキングの食材を使って、ミツバくんがサンドイッチを作っていた。 僕は慌ててカメラを回し、彼に話しかける。 「ミツバくん、何してるの?」 「ん?ランチ作ってる。俺の手作りだよ。といっても、パンに色々挟んでいるだけだけどさ」 すでに出来上がって並んでいるサンドイッチを、カメラで映す。 プレーンオムレツに、コロッケに、焼きそばに、ローストビーフ。 ガッツリ系の具材ばかりだ。 「他に、挟んでほしいものある?オマエの好みも、教えてよ」 早速のオマエにたじろぎながらも「ポテトサラダ」と返事をする。 「あぁいいね。待っててすぐ作るから」 真っ直ぐなカメラ目線で、ミツバくんは僕に笑いかけた。 — サンドイッチを持って、僕らは灯台に登った。 簡素な展望階には、すでに敷物が敷かれ、ドリンクが入ったクーラーボックスが置かれている。 「うわ、すごい!こんなに準備してくれてたの?」 「当たり前じゃん。『24時間かけて、俺の撮影スタッフを口説いてみたらどうなるか』だもん。俺本気でいくよ」 動画としては、ここで、タイトルバックなのだろうか。 カメラは灯台から見える景色をぐるりと映す。 ここ数日、この島の中を歩き周ったけれど、こうして全貌を見るのは初めてだった。 「綺麗な島だね」 「あぁ。俺もこの島、気に入ってる。さ、この景色を見ながら、サンドイッチ食べよ」 「うん」 僕はまず、ローストビーフのサンドイッチを頬張る。 「これ美味しい!」 「だろ?」 満足げにミツバくんが笑ってくれた。 「はい、カット。マナト、カメラ置いていいよ」 突然、名前を呼ばれた。 「へ?」 「24時間もあるんだから、もうこの灯台のシーンはこれでOK」 「そっか。じゃ、急いで食べて次の場所に移動だね」 「違う、違う。ここでゆっくりランチしよう。気持ちいい風と、晴れ渡る景色。変な邪魔も入らない2人で過ごせる最高の場所だから」 カメラ越しに言われる言葉は、意外と照れずに聞けるけれど、直接言われる言葉には、どうしても照れてしまう。 そんな僕の気持ちも知らずに、ミツバくんはサンドイッチを手に取りながら話を進めた。 「マナト、今日はキャップかぶってないんだね」 「炎天下に出たら、ちゃんとかぶるよ」 「そうじゃなくて。髪の毛、セットしてくれたんでしょ?よく似合ってる。Tシャツは、この島に来た日に着てたのだよね。そのブランド、俺も好きなんだ」 「え?最初の日に着てた服なんて、覚えていてくれたの?ていうかさ、こういう会話こそ、撮影したほうがいいんじゃない?僕だけが聞くなんて、もったいないよ」 「もったいないって」 僕の言い分に、彼はゲラゲラと笑う。 「マナト、こういう企画はさ、映っていないときにこそ、関係を深めないと。それがおのずと次のシーンに現れるはずだから」 もっともらしいことを言われた気もするけれど、カメラを構えているほうが気が楽だ。 僕は恥ずかしさを誤魔化すため、よく冷えた炭酸飲料でコロッケサンドを流し込んだ。 — 「次は、白い砂浜へ移動しよう」 よかった。 再び撮影だ。 灯台での荷物を片付け、キャップをかぶり、森の中を進む。 僕はカメラを構え、ミツバくんの数歩先をバックで歩きながら、彼の顔を撮影していた。 「あのさ、この島に来て、初めてした会話、覚えてる?」 「うん。僕のキャップが風で舞ったのを、ミツバくんが拾ってくれたんだよね。で「風強いね」って言ってくれた」 「覚えててくれたんだ」 「なんて綺麗な髪だろうって思った。金色に光が当たって透き通っているみたいだった。さすが「黄金の貴公子」だって」 今もちょうど逆光で、ミツバくんは輝いている。 「その呼び名、恥ずかしいからやめて。オマエ、あのとき船の中でもずっとキャップかぶってただろ?だからキャップが風で取れた瞬間、初めて表情が見えたんだ。慌てて焦った顔、可愛かった」 「な、なにそれ」 動揺した僕は、木の根っこに躓いてしまう。 「うわぁ」 「おっ、と」 危うく倒れそうになった僕の腰を、さっとミツバくんが支えてくれた。 撮影のプロを目指している僕が、こんな初歩的なミスをするなんて……。 「大丈夫?」 顔を覗き込んでいたミツバくんの優しそうな顔に、とりあえずいいシーンが撮れたと思うことにする。 でも、この人に24時間口説かれるという過酷さを、僕は再認識した。

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