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39.体力の限界
「その反応は寝たのか」
「寝てねぇよ!!」
ルナがニヤニヤ笑っている。こりゃ勘付いたな。
多分ルナの言う寝たってのはセックスしたかしてないかって意味だから俺は嘘はついてねぇ。
俺がテーブルに吹き出したビールを拭いてると、ルナは楽しそうに笑いながら俺に近付いて来る。まるで猫のように床を這って来る。
「絶対寝たでしょ~♪あの伊吹が枕するとかどんな奴~?聞かせて聞かせて~♪」
「だから寝てないって!もー茶化すな!」
「だって~、気になるんだもん♡」
俺の隣まで来てピトッと体をくっ付けて甘えてくる。ルナ狙いの客ならコロッとやられていただろうな。
だがしかし!俺はこんな誘惑には屈しない!相手がルナだからな!てか本当に寝てねぇし!!
「それ以上聞くなら追い出すぞ千太郎」
「!!」
俺が千太郎と呼ぶと、ルナはピクッと反応した。
千太郎はルナの本名だ。本人は太郎って付くのを嫌がっている。だからワザと呼んだんだ。
「あー、ハイハイ。もう辞めますよ~」
「ルナ良い子♪お前はどうなの?順調?」
「まぁそれなりかな~?てか最近客付き悪くてさ~」
「あ、ルナも?」
「伊吹もなんだ~、やっぱり長くやってると飽きられるのかね~。最近若い子入ったから女性客はみんなそっちに流れちゃうんだよなぁ」
つまみのポテトチップスを食べながらルナは言った。
やっぱりそろそろ安定した仕事を探すべきか。収入が無くなる前に手を打たないとな。
「ルナ、これまだ店長とかには言わないで欲しいんだけどさ」
「なぁに?」
何を思ったのか俺は、ルナにこのバイトを辞めようとしてる事を話そうと思った。
酒が入ったからか、同業の仲間だからかは分からない。
少なくともルナは一番俺に近い立場の男だ。だからかルナに相談するのも有りかと思ってしまった。
サラサラの綺麗な髪を細い指で耳に掛けて微笑みながら俺を見て来るルナに、俺はビールをちびちび飲みながら話し始めた。
「俺さ、辞めようと思ってんだよね。そろそろ潮時かなって。まともな昼職探して安定した生活しようと思ってるんだ」
「!!!!」
ルナは想像以上に驚いた顔をして固まった。
普段は細い目を大きく見開いているその顔が面白くて俺が笑うと、ルナはキッと睨んで見て来た。
怖っ!!こいつたまに怖ぇ顔するよなぁ!!
「いつ辞めるんだ?」
「そこまでは決めてない。とりあえず仕事探してそれからかな」
「土曜の客か」
「は?」
「伊吹!!」
「なっ何だよっ!?」
訳の分からない事を言い出したかと思ったら、ルナは俺が持ってた缶を取り上げてテーブルに置いた。
そして俺に振り返り、ガバッと抱き付いて来た。
いきなり何だぁ!?酔っ払ってんのか!?
俺は油断してそのまま床に押し倒されてしまった。
やべ!ルナとは身長や体格はそんな変わらねぇのに、力で負けるなんてなんたる屈辱!
でもルナは客じゃねぇ!ここは俺も男を見せるぜ!!
「痛ぇなぁ!お前良い加減に……お!?」
ルナの体を押し返そうと力を込めるけど、ヒョロい筈のルナはびくともしない。
ええー!?こいつって普段はヘラヘラヒョロヒョロしてんのにぃ!?
「伊吹は客には本気にならないと思ってたのにまるで裏切られた気分だ」
「ひぃ!!お前目が怖ぇから!!」
また訳の分からない事を言いながら吊り目でキッと睨んで来るキツネ野郎。
あーもうマジ何なの!?
こうなったら接客モードで乗り切ってみるか!
「あ、あのさ、ルナ?重いから離れてくれない?俺、ルナとは仲の良い友達でいたいんだよ。だからさ、こんな乱暴な事は辞めてよ?ね?お願い」
「へー、伊吹って興味ない客にはそんな風になるんだぁ♪その顔でそんな風に言われたら躊躇しちゃうだろうね~♪」
ニカァッと笑って俺の両腕を掴んでそのまま頭の上に組まされる。
まるで効いてねぇじゃねぇか!
どうする俺!?キツネの交わし方なんて知らねぇよ!!
てかよぉ、俺って元々体力ねぇし、こんなに長い時間格闘みてぇな事出来ねぇんだよ。歳のせいかめちゃくちゃ疲れるんだわ。
言うてもルナはまだ23歳だろ?若いよ。2個しか違わないけど、全然若さが違うんだって。
おじさんこのままキツネに食われるんかなぁ?
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