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42.キツネのイタズラ

 俺とルナは夕方になると家を出て街へ繰り出した。家に何もないから夕飯を買いに行こうとしたら、ルナに飲みに行こうと誘われたからだ。  いつもなら断るけど、今の気分は一人になりたくなかったから乗った。 「伊吹と外で飲めるなんて嬉しいな~♪マジいつ振りって感じ?」 「最後の晩餐だ、ありがたく思えよ」 「それ前の時も言ってた~」  特に入る店も決めずに歩いてるけど、家で飲んだから飯メインが良いな~。ビール一杯飲めれば十分な気分だ。 「あ、肉食わない?肉~♡」  ルナが焼肉屋の前で俺の腕を引いて足を止めた。  焼肉か、たまには良いかもな♪  ルナを先頭に良い匂いのする店の中に入ると、元気な男の店員の声が聞こえて来た。 「いらっしゃいませ!二名様ですか!?」 「いらっしゃいました~♪二人だよん♪」  またルナがふざけた事を言ってるなと思って俺も前を向き、黒のバンダナを巻いて笑顔で接客してる店員を見て絶句した。  垂れ目に口角の上がった大きめの口。180を超える長身に、びっしり付いてる耳のピアス。店の制服を着ていてもチャラさが滲み出ていた。そして極め付けに黒のバンダナからはみ出した青い髪……  この店員、ブ、ブルータイガーだぁ!!  何でこいつがここにいんの!? 「只今店内混み合っておりまして~、カウンター席ならすぐにお通しできますが!?」 「俺はそれでもいいけど、いぶ……」 「待つ!!」  俺はルナに名前を呼ばれる前に短く言って、サッと後ろを向いてタイガーに気付かれる前に入口近くにあった椅子に座って下を向く。  いや、これ店変えた方が良くね?  でもそんな事したらルナに怪しまれてタイガーの事までしつこく聞かれそうだ!  いやー、まだタイガーは俺に気付いてないし、個室っぽい席に通してもらってやり過ごすしかないだろぉ!  その後ルナが順番待ちの名前を記入して、俺の隣に座って俺を覗き込んで来た。  ま、まさかバレたか?  俺がポーカーフェイスで内心焦っていると、次第にルナのキツネ顔がニヤ~っと緩んだ。 「伊吹ってば個室がいいだなんて♡どんなけ俺と二人きりになりたいんだよぉ♡」  セーフ!!  よし、このままやり過ごそう!  極力席を立たないようにして、店員とのやり取りはルナに任せよう。注文方法は店員を呼ぶスタイルか!?タッチパネルか!?頼む!次に空く席は個室であってくれ!  とうとう呼ばれる時が来て、タイガーじゃない店員が呼びに来た。  良かったぁ♪コソコソしないで席まで行けるじゃないかぁ♪   「えー、二名様でお待ちの……夏川……夏川伊吹様~、お席にご案内しまーす」 「!?!?」  ちょ!なっ!はぁ!?  何でフルネーム!?  ルナの野郎!勝手に俺の名前書きやがったな!!しかもフルネームで!!  せめて苗字だけだろぉ!!  安心したのも束の間、店中に響き渡る呼び声でタイガーに聞こえたんじゃないかと俺はビクビクしていた。 「えっとー、もう一度お呼びしまーす!夏川いぶ……」 「はいはい!俺です!今行きます!!」  俺がビクビクしている間にまた名前を呼ぼうとしてたから慌てて名乗り出てさっさと席へ案内してもらった。  俺の慌てようを見てゲラゲラ笑う千太郎。クソが!後で覚えておけよ!

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