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43.お願いだから仕事して

 通された席は二人用の個室で、幸いタッチパネルでの注文だったから、俺は今度こそホッとして好きな物を注文していった。   「次は千太郎って書くからな」 「お♡最後の晩餐じゃないんだ?」 「黙れ太郎」 「やっぱり伊吹は面白いな~♪だーい好き♡」 「いちいち♡付けんなって。俺はお前の客じゃねぇ」 「知ってるよーん♪伊吹は俺の特別な人だよ♡」 「まだ言ってんのかよ。その特別って何?友達じゃねぇの?」 「友達や親友とはちょっと違うかな?そうだなー、言うなれば……」 「あ、やっぱ言わなくていいや。面倒くさそーだ」  俺とルナが適当にやってると、早速ビールとキムチが届いた。提供が早いのは得点高いぞ!  ビールを運んで来た店員さんは声で分かるけど、どうやらタイガーじゃないらしい。怖くて顔見れねぇよ。  その後も二人で頼んだ物が続々と来て、普通に焼肉を楽しんでいると、追加で頼んだビールが届いた時だった。 「生ビールお二つお待たせしまっした~!」  俺達の席にビールを持って来た店員さんの声に肉をタレに付けていた手が止まった。  このデカい声はタイガーだ!!  俺は反射的に下を向いてスマホをいじるフリを始める。  どうか早くビール置いて立ち去ってくれ! 「空いたお皿片付けますね~!」 「ありがとー♪ねぇ君奇抜な髪色してんね?ピアスもガッツリ~、ここってそう言うのうるさくないんだ?」  黙れルナー!  何店員さんに絡んでんだー!  こいつはどこでも誰にでも平気で声掛けやがる! 「そうなんすよー。俺ってこんな見た目だからほとんどの接客業は受け入れてもらえないんすけど、ここはオーケーでした~♪マジ感謝っす~」 「良かったね~、若そうだけど、学生さん?」  話を広げるなぁ!  タイガーもさっさと皿下げて厨房戻れ!  ああ帰りたいっ!今すぐ帰りたいっ! 「あ、そちらのジョッキもお下げしまーす」 「…………」  あれ?ルナが反応しない。  も、もしかして俺に言ってるのか?  俺は自分の分の空になったジョッキを下を向いたままスススーッとテーブルの上で動かして端に追いやる。   「おい伊吹、どうしたんだ?」 「バッ!!!」 「伊吹?」  ルナに名前を呼ばれてヤバい!と思って思わず顔を上げてしまった。  そして黒いバンダナを被ったタイガーとバッチリ目が合う。  バレた……終わった……   「あー!伊吹だー!」 「!?」 「うるせぇ!騒ぐな!お前もくっちゃべってないでさっさと仕事戻れ!」 「すげぇ偶然~♡もうこれは運命っしょ♡」 「頼むから仕事戻ってくれません?俺達客なんで」 「なになに、二人って知り合いなのか?てか君って入ってすぐに声掛けてくれた子だよね?」 「ああハイ。伊吹と俺は知り合いってか……」 「知り合いだ!ただの知り合い!お前良い加減いなくなれって。これ以上居座ったら店にクレーム入れるぞ?」 「そりゃ困る!やっと見つけたバイトなんだ!あ、またな伊吹♡楽しんでけよ~」  何とかタイガーを追い払えたけど、ここには面倒な動物がもう一匹いる。  ルナは頬杖をつきながら俺とタイガーのやり取りを見て、それはそれは不機嫌そうな顔をしていた。

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