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46.ルナと伊吹 ※ルナside

 ※ルナside  焼肉屋からの帰り道、俺は千鳥足の伊吹を引きずりながら歩いていた。  あーもう!せっかく伊吹と楽しく過ごしてたってのによぉ!なんなんだよあのクソガキは!  ほんと、伊吹の客質を疑うぜ! 「ルナ~♪おんぶ~♪」 「伊吹も酔い覚ませよ!重いんだよ!」  道端で俺にしがみ付いて戯れてくる伊吹。  酔ってなかったらこんな事しねぇだろうよ。  あー、ほんと、今の伊吹がシラフだったらなぁ。  何が楽しいのかヘラヘラ笑ってる伊吹を見てため息を吐く。そんな伊吹の頭を撫でてそのまま自分の肩に引き寄せて軽く抱きしめる。    まったく、俺がどんな気でいるのかも知らないで。  俺は伊吹の事が好きだ。  今すぐにでも押し倒したいぐらい好きだ。  でも気持ちは伝えない。てか普段から好き好き言ってっけど、ふざけてると思われて相手にされないんだ。  まぁその方が堂々と好きって言えるし、俺も開き直ってるんだけど!  客とは割り切って仕事してる伊吹を信じて今までやって来たけど、どうやらそうも言ってられねぇみてぇだな。  最近の伊吹には危ない客が多い。  まず土曜の男だ。一番危険な客だ。  20歳で真面目な奴らしいけど、かなり伊吹の事を気に入ってるらしく、伊吹の毎週土曜日はそいつで埋まる。そして伊吹もまんざらじゃなさそうなんだ。  伊吹がこの仕事を辞めるなんて言い出したのは絶対その男のせいだと思ってる。  そして次にさっきのクソガキだ!  初めは若いし、チャラそうだからノリでやってんのかなとか思ってたけど、何だよあのガッツリした口説きは!しかも既に伊吹は俺のって勘違いしてねぇ!?  伊吹は絶対に大我みたいな奴は相手にはしないだろうけど、しつこそうだから危険な客だ。 「伊吹、お前モテ過ぎ……」 「へへ♪尚輝くんは飲めないんだろ~?」 「あ?尚輝?」  今尚輝つったよな?  誰だよそれ?大我じゃなくて尚輝?  また新しい危険な客かー!!  どんなけ抱え込んでんだよこいつは!  てか潮時とか嘘じゃねぇか!  大繁盛、大フィーバー中じゃねぇか! 「店長~、この前のお菓子が食べたーい♪」 「……店長はまぁいいや」  俺は少し落ち着いて、伊吹を連れて近くの公園にあったベンチに座る。  少し休憩だ。    隣に座らせた伊吹は頭をこっくりこっくりさせていた。     「なぁ伊吹、もし俺が本気で好きだって言ったらどうする?」 「…………」 「伊吹と付き合いたいって言ったらどうする?」 「…………」 「伊吹……」  伊吹はもう寝てるかもしれない。  あまり酒に強くない伊吹は、それでもビールが好きで良く飲みたがる。大人ぶってるつもりか、そんなとこも可愛いんだけど。  だけど、いつもは綺麗な顔してガサツな伊吹も三杯目ぐらいからヘラヘラしだして、急に可愛いくなるんだ。そして寝る。  今も隣で気持ち良さそうな顔して目を閉じる姿があった。  俺はそんな伊吹を抱き寄せて静かに顔を近付ける。  可愛いなほんと。 「好きだ伊吹」 「…………」  反応の無い伊吹にそっとキスをする。  実は伊吹にキスをするのは初めてじゃない。  一緒に飲んでこんな風になった伊吹には何度もして来た。  それでも伊吹は明日になればこの事は覚えてなく、普通に接してくれる。  いつか酒無しでも伊吹とこうできたら…… ◇◇◇  この業界には金に困って入った。  ちょっと前の俺は荒れていて、かなりの荒くれ者だった。近寄り難い身だしなみ、ピアス、タバコ、タトゥー、素行の悪さなどで地方の地元では悪い方で名を馳せ、親にも勘当されて高校卒業と共に俺はこの都会にやって来た。  もちろん何も無い状態で。初めは何とかなるだろうとか思っていたけど、そんなに甘くは無かった。  田舎では道ゆく人々が俺を見ては道を開けていたが、こちらではそれは全く無かった。  ああ、こっちはそういう世界なんだ。  すぐに理解して何とか日雇いのバイトでネカフェやカプホとかで何となくやり過ごしていた。時にはナンパで引っ掛けた女の家に転がり込みヒモになった事もある。  でもそんな生活も長くは続かなかった。ただの寝るとことしてた女に自分の物のように言われ扱われるのが嫌で俺は悩んでいた。そんな中見つけたのが某高級デートクラブだ。 「ふーん、こんな仕事もあるんだ~」  少々キツいかなとは思うけど、自分の見た目には自信があった俺はこれで稼いでうぜぇ女とはおさらばしようと決意する。  そんな簡単な気持ちで訪れたデートクラブは、初め駅前で待ち合わせをしてその後喫茶店で軽い面談をされて身分証などを見られた。免許証はなかったから保険証を出した。  そして本拠地である事務所に連れて行かれて本格的な面談を受けた。  中はおしゃれな感じだったけど、普通の雑居ビルの一室だった。  俺は店長だと言う男にあらかた面談を受けた後、ホムペに載せる顔写真を撮ると言われ、何も考えずに言われるがまま指示されたようにしていた時だった。 「店長~!ちょっとその子借りていい!?」  俺と店長がいた個室にいきなり入って来たのはどっかのモデルかってぐらい綺麗で整った顔をした男だった。そう、この時に伊吹と初めて出会ったんだ。  俺は写真を撮る前に伊吹と二人きりになり、謎に伊吹からも面談を受ける事になった。この時の俺は伊吹が何者なのか分からなかったから従うしかなかった。 「千太郎って言うの?なぁ千太郎さ……」 「自分の名前、好きじゃないから」 「そうなの?まぁいいや、とにかくお前写真撮る前にその顔に付けたピアス取れ。あと前髪も分けて顔出した方がいいよ。髪色は~、それ地染め?今すぐには難しいかもだから、染め直したらまた写真撮ってもらえよ」  俺は伊吹にそう言われて、何で言う事聞かなきゃならないんだと思って少しムッとしてしまった。  でも伊吹はニコッと笑って続けた。 「千太郎は綺麗な顔してるからもっと綺麗になれば絶対人気出る!」 「綺麗って……アンタもだろ」  俺が綺麗なのは十分分かっていた。女顔で、ナヨナヨして見られるのが嫌でピアスとか付けてたんだけど……突然褒められて戸惑っていると、伊吹は更に続けた。 「いいか?客の言う事は9割は嘘だと思え?じゃないと逆に食われるからな!大抵の事は笑って誤魔化して次に繋げ。金を貰ってる以上は誠心誠意込めてデートするけど、それ以上はしてやる義理はねぇからな」 「お前何者?」 「俺は伊吹。いや、店長と面談してるお前見てたらつい口出ししたくなっちゃって!そんじゃ俺は行くわ~」 「…………」  伊吹……あれ?伊吹って、この店のホムペで見たような?  伊吹がいなくなった後俺は火照る頬を押さえて、そっと顔に付けてたピアスを外した。  何だよあいつ、あんな風に褒められたのなんて初めてだよ。それに、俺にアドバイスした?くそ、今までそんな風に教えてくれる奴なんていなかったよ……  きっと俺はこの頃から伊吹の事が好きだったんだと思うんだ。 ◇◇◇  その後も俺は伊吹が同じキャストだと知り、事務所で会う度に声を掛けて懐いた。  伊吹に言われた通りにやったら不思議と心が晴れて、知らない人とデートをするのも苦じゃ無かった。  メンズは俺と伊吹のツートップ。そんな風に言われる頃、伊吹は事務所に来なくなった。辞めた訳じゃなくて直行直帰に変えたらしい。  だから伊吹に会えるのはたまにになっちゃったけど、それでも俺はずっと笑顔で仕事を続けた。  伊吹がいてくれたから今の俺がある。  そう思って金もたくさん貯めてるんだ。  これはいつか伊吹を俺が養ってやる為の貯金。  二人で店を辞めた時にプロポーズするんだ!  だから今は我慢。  伊吹が他の奴とデートしようが何だろうが割り切る事にした。    それなのに伊吹は客に食われそうになってんじゃん。  そんなの許せるかよ。  伊吹は俺のだ。  三年も我慢して来たのに、訳も分からねぇ奴らに持ってかれてたまるかよ。  俺はもう一度うたた寝してる伊吹にキスをして唇をペロッと舐める。  いつか必ず手に入れてみせる。  伊吹は俺が幸せにするんだ!

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