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55.連絡先の交換

 とにかく俺は尚輝くんともっと話がしたかった。  何か分かりかけて来ていて、それを確実な物にしたかったんだ。  俺が尚輝くんに他の客とは違う扱いをしてしまうのは、尚輝くんを気にしてるってのは分かった。  じゃあその気にしてるのは何で?  尚輝くんは毎回大金を運んで来てくれるから?  年下で弟みたいだから?  それとも…… 「伊吹さん、俺……」 「尚輝くんが嫌じゃなかったらもう少しだけ……今度は俺に時間ちょうだい?」 「嫌じゃないです!はい♡俺のこの後の時間は全て伊吹さんの物です♡」  尚輝くんは強く否定した後に、安心したように笑ってそう言った。  俺はその笑顔とセリフにドキッとしてしまった。  なんて言うか、いつものキリッとした顔じゃないから油断してたって言うか……  とても大切な物を見て喜ぶような、そんな甘い笑顔だったから。   「尚輝くんてさ、そういうの慣れてなさそうなのに結構言うよね。おじさんドキッとしちゃった」 「伊吹さん!自分の事をおじさんって言うの辞めて下さい。俺は伊吹さんの事をお兄さんだと思っています。てかどこからどう見てもお兄さんですよ!」 「ん、分かった。尚輝くんの前では言うの辞めるね♪」 「ありがとうございます♪」  あ、なんか良い感じ?  てか俺と尚輝くんて凄い仲良いよな?  相性いいのかも?  って何の相性だよ!?  友達?弟?  と、とにかく尚輝くんとは一緒にいたいと思うんだ!  俺はとりあえず尚輝くんを再び部屋に上げて話の続きをしようと思って、廊下を歩いてる途中の繋ぎの会話を思い付く。  寝室のベッドにあるペンギンのぬいぐるみだ。 「あ、そうだ、俺ペンギンと寝てんだよ。あいつふわふわで気持ち良くね?」 「俺もですよ~♪伊吹さんも同じだなんて嬉しいです~♪」 「ほら見て」 「!?」  俺が通りがかった寝室のドアを開けて中を見せると、尚輝くんは驚いた顔をした。  あれ?何かヤバいもんなんかあったっけ?  特に見られてマズいもんなんて無かったと思うけど、もしかして布団が起きてそのままだからか!?尚輝くんてキッチリしてそうだもんな! 「伊吹さんの……寝室……」 「ごめん、ベッドの上の布団乱れてんの気になる?でもちゃんと定期的に布団干してるよ?」 「いえ、そうじゃないです。伊吹さんの寝室を見れるとは思ってなくて……その、ちょっとドキドキします……」 「へ?……って、別に誘ってねぇからな!?ペンギン!ペンギンを見せたかっただけだから!」 「はい……そんなに否定しなくても……」  俺は慌てて寝室のドアを閉めるけど、そっか、尚輝くんは俺の事が好きだったんだ。勘違いさせたら悪いよな。  これからは発言とかに気を付けねぇと。 「あれ?伊吹さんのスマホ鳴ってません?」 「え?あ、リビングに置きっぱなしだった」  尚輝くんに言われてスマホが鳴ってる事に気付く。リビングのテーブルにあったスマホを見てみると、ルナからの着信だった。  何だよあいつかよ。最近良く連絡してくるけど、どうでもいい話ばっかなんだよな。  俺はシカトしようと思ったけど、なんとなく出てみる事にした。 「ごめん、ちょっと電話していい?」 「どうぞ」  尚輝くんが笑顔でいる事を確認してからルナからの電話を取る。  きっとろくな事じゃないけど、これから来るとかだったら面倒だからな。要件だけ聞いてさっさと切ろう。 「何ー?どうしたー?」 『仕事オツ~♪なぁ店長に聞いたけど延長無しだろ?今から飲み行かね?』  事務所にいるのか、ルナは俺のスケジュールを把握しているような言い方だった。   「仕事は終わったけど、無理。他当たってくれ」 『そんじゃあ伊吹んち行くわ、適当に買って行くから何か欲しいもんあったら連絡ちょーだい』 「は?来るなよ。他当たれって言ってんじゃん」 『てかお前どこにいんの?何か周りやけに静かじゃね?今客と別れたばっかだよな?』  あ、俺が家にいるってバレたら尚輝くんを家に上げた事が知られちまうか。  そうなるとルナがうるさそうだ。   「タクシー拾って安全運転してもらってるとこだよ。じゃあな」  これ以上話すとボロが出そうだから強制的に電話を切る。  にしても何で最近頻繁に連絡して来るんだよ?  あいつからの連絡は月に一度とかだったのに、この前一緒に焼肉屋行ってから毎日のようにメッセージ来るんだけど?  だけど、あいつは同じ仕事してるからか俺が接客中は絶対に連絡はして来ないんだ。しっかりしていると思うけど、裏を返せば俺のスケジュールを全て把握しているって事になるから、常に見張られてるようで俺はあまり良い気はしない。  とにかくルナがうちに来るかも知れないな。  俺が来るなって言っても聞く筈無いからな。  尚輝くんには悪いけど今日は帰ってもらうか。 「今からちょっと面倒な奴来るかも。俺が引き止めたのに悪いんだけどまた話そ?」 「あ、はい!俺の事は気にしないで下さい。今日は帰りますね」 「うん。また連絡するよ」 「はい♪」 「あ」  俺は思い出して再びスマホを取り出して尚輝くんに向ける。   「良かったら連絡先教えてくれない?店通してだとタイムロスあるし、直接の方が楽じゃん?」 「えっ交換してくれるんですか!?」 「うん。尚輝くん良い子だから。でも他の客とは交換した事ないから、タイガーには内緒な?」 「分かりました!ありがとうございますっ!あの、夜とかメッセージしてもいいですか!?」  尚輝くんは目をキラキラさせて珍しく興奮気味に聞いて来た。  今までは店を通してサイトのメッセージ機能を使ってやり取りしてたから、これからは直接やり取りすれば、好きな時にしたい話が出来るだろ。  絶対にタイガーには知られたくないから口止めはしたけど、尚輝くんなら大丈夫だろ。 「いいよ♪いつも通りしてよ♪」 「嬉しいです♪伊吹さん大好きです♪」 「あ、ありがと……」  尚輝くんは意識して言ってんじゃないのかな?何か普通に流れで「好き」って言われたけど、これは返答に迷った。  とりあえず無難な返ししたと思うけど、大丈夫だよな?  てか何このドキドキは?  俺、客に好きって言われるの初めてじゃないのに何でこんな動悸がすげぇの。  と、ここでキツネ野郎からメッセージが届いた。 『今コンビニ~。つまみはいつもの感じでいい~?』  やべ!あいつ来る気満々じゃん!    俺は急いで尚輝くんを帰して、部屋にも痕跡が残っていないか確認して回った。

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