60 / 72
59.キツネ激怒
俺を睨むルナに向かって座り直して、そのキツい吊り目を真っ直ぐに見て真剣な顔を保ちつつ俺は断る事にした。
「ルナ!悪いけど、お前の気持ちに応える事は出来ないっ!なぜならば俺は女が好きだからだ!」
「うん、伊吹はノンケだって知ってる」
「じゃ、じゃあ無理だって分かってくれよ~」
「あのさ、俺は男でも女でもどっちも好きになれるバイってやつだ。これはガキの頃からだから、いつ発症したとかは分からない。だけどよ、世の中には自分はずっと自分の事を異性愛者だと思っていたのに、ある日突然目覚める瞬間が訪れる人もいるんだよ」
「それが何だよ?」
「伊吹も分からないだろ?キッカケが無いだけで、本当は男もイケるのかも知れねぇじゃん♪俺がそのキッカケになってやんよ」
ルナはそう言ってグイッと近付いて来る。
反射的に後ろに体を引いて距離を取ろうとするけど、もしかして俺ピンチ?
キツネに食われようとしてる?
「そんなキッカケなんていらねぇよ!俺はこのまま異性愛者でいい!」
「何言ってんだよ。土曜の男になびきかけてる癖に。もう片足突っ込んでるようなもんだろ」
「っ……」
俺が尚輝くんになびきかけてるだって?
そりゃ良い子だなとは思うけど、それとは違う意味でだろ。
尚輝くんは良い子だけど、俺はそんな風には見てな……いよな?
あ、あれ?
ヤバい。顔が熱い……
「伊吹、お前っ」
「ルナ頼む、土曜の男の話は辞めて……」
尚輝くんの事を考えるとそれで頭ん中がいっぱいになって、無性に恥ずかしくなりルナを直視出来なくなった。
目を背けながら言うと、それに気付いたルナは口元をギリッとさせて乱暴に俺を押し倒してキスをして来ようとした。
ギリギリ避けてルナの唇は俺の頬に当たった。
こ、怖っ!
え、ちょ、いきなり何すんのこいつ!?
「ルナ!ふざけんなよ!」
「ふざけてんのはテメェだ!何他の男思い出してそんな顔してんだ!許さねぇぞ!」
「ひぃぃ!?この顔は生まれ付きだもん!!」
「そういう事言ってんじゃねぇよ!ムカつくなぁ!何でそんな顔すんだよっ!伊吹は俺のなのにっ!」
「ルナ、落ち着けって!」
一体どんな顔なんだ?
ルナが怒り狂う程酷ぇ顔してるのか?
自分じゃ見えないから分からないけど、今言えるのはとにかく顔が熱いって事。
尚輝くんの事を考えると胸がくすぐったくなって、もどかしくて、良く分からないけどドキドキするんだ。
も、もしかして、これが目覚めってやつか?
「ああもう無理!ぜってぇ土曜の男の事調べ上げてぶっ殺してやる!」
「馬鹿か!?こんな事で犯罪者になるなよ!人生棒に振るな!」
「こんな事だと?テメェには分からねぇだろうよ。俺がどんな思いでテメェを好きなのかをよ!テメェが他の男選ぶぐらいなら人生終わりにしてでも道連れにしてやるよ!」
「お、おい?凄ぇ暴言吐かれてるけど、俺の事好きなんだよな?」
「好きだよっ!大好きだよ!愛してるんだよっ」
ルナは口が悪いからふざけてんのかと思えてしまうけど、きっとルナは本気なんだろうな。
今のルナの顔を見たら分かった。
俺を押し倒しながら、怒った顔をして涙を流していたからだ。
いつも強気なルナの泣き顔なんて初めて見る。
飄々としていて、どんな事もあっけらかんとしてるルナが、悔しそうに顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。
ポロポロと溢れ出る涙が落ちて来て、俺の頬を濡らした。
ともだちにシェアしよう!

