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70.時を待つ狐 ※ルナside
※ルナside
俺の所属するデートクラブの事務所でダラダラしてると、誰かからの電話対応をしていたスタッフのミカちゃんが固まっているのに気付く。
いつも落ち着いていて電話対応やパソコンに向かいクールに仕事をこなしてるイメージだけど、何かあったのかと思った。
「……分かったわ。それじゃあ予約入れてくれてるお客様にはこちらからお断りしておくから」
そう言って電話を切るミカちゃん。
内容的に相手はキャストっぽい。急に休みたいとか言われて焦ってる感じ?でも、そんなのはこの業界じゃ普通じゃね?
相手も人間だけど、こっちだって人間だ。同じ人間相手に仕事してりゃ嫌になる時だってあるだろうよ。
ミカちゃんは綺麗な顔を曇らせて少し離れた席にいる店長にこう言った。
「店長、今伊吹から連絡がありまして……それが、土曜日の出勤を取り消して欲しいと……」
「「何だと!?」」
俺と店長は同時に同じセリフを言った。
あの伊吹が一度出した出勤を取り消すだと!?しかも土曜日とか伊吹の太客の日じゃねぇか!
「代わりに日曜日出勤するそうです」
「待ってよ!伊吹の土曜日って言えばもういつもの客が予約入れてなかった!?」
「はい。これから連絡しますけど、いつものように代わりのキャストを勧めるかどうか迷ってしまいます」
「いや、勧めても断られるだろうからしなくていいよ。この前の遅刻といい、伊吹の奴一体何を考えてるんだ」
店長は焦ったようにミカちゃんに指示してた。
伊吹は店長のお気に入りだからな~。今まで仕事に対してドタキャンなんてした事ない伊吹がそんな事言うもんだから心配なんだろ。
俺だって心配だ。訳あって伊吹との連絡は控えてるってのに、クソ、あいつ何しようとしてんだよ。
まさか本気で辞める気なのか?
しかも土曜日って……ハッ!!店外か!?
「店長~、これって店外しようとしてんじゃね?呼び出して説教でもしたら?だって土曜日の客って伊吹の太客だろ?タイミング的にもおかしいって。こんな事したら他の伊吹の客も怪しむと思うし、伊吹の人気落ちたら店にとっても大損害じゃん」
「それもそうだけど、店外に関しては暗黙の了解みたいな感じで、うちは堂々と禁止してないから無闇には叱れないよ。それにしても伊吹がこんな事をするなんて初めてだ。事情は聞いてみるよ」
「お言葉ですが、伊吹もそろそろ身を固める覚悟を決めたのかと」
「「伊吹が!?」」
クソ!また店長と被ったじゃねぇか!!
それだけミカちゃんの言う事は衝撃的だった。
いや、薄々そうじゃねぇかとは思ってたさ、伊吹が土曜の客に惹かれてるのは察してたよ。
だからってそんなの許せるかよ。相手は客だし、何より伊吹は俺のだ!
大人な女性であるミカちゃんは落ち着いた様子で言葉を続けた。
「お二人が伊吹を気に入ってるのは分かりますけど、伊吹には伊吹の人生があるんです。キチンと話を聞いて暖かい目で見守ってあげるのも我々の仕事です。勿論間違えていたなら叱りますけどね」
「だけどよ、ミカちゃん。今伊吹が一人の客にそんな事になったらこの店大丈夫なのかよ?最近新人入ってねぇし、ただでさえ少ないメンズの勢いが無くなるぞ」
「そこはルナ貴方に期待しているわ♪」
「はぁ?俺は伊吹がいねぇなら続ける意味はねぇよ」
「ルナ、どう言う事だ?」
「俺は伊吹がいるから続けてるだけだ。貯金もしてるし、伊吹が辞めるってんなら俺も辞めるぞ。これは始めた頃から決めてたんだ」
「伊吹が辞めるだと!?そんなの聞いてないぞ!今すぐに呼び出そう!」
あ、やべ。伊吹には口止めされてんだった。
でも伊吹もこんな休み方してんだし、店長達が変に思うのも仕方ねぇってなるだろ。
とりあえずフォローだけしておくか。
「店長、早まるな。呼び出すのは賛成だけど、ハッキリ辞めるとは言ってなかったからな。でも今回の件といい、伊吹が何かを考えてるかは聞いといた方がいいと思うぜ」
「分かっているよ。いきなり問い詰めたりはしないようにする。ルナ、最近伊吹と会ってるのか?」
「いや、この前連絡したきり~。俺も忙しいから今は連絡してなーい」
「そうか、一応ルナも気に掛けておいてくれよ。私達よりもルナとの距離の方が近い所があるからな」
「あ?俺キャストだぞ。スタッフじゃねぇんだけど」
「そうね、ルナ貴方にもまだまだ頑張って貰わないとね♪」
「ミカちゃーん、俺最近めちゃくちゃ頑張ってね?褒めて~」
「凄い凄い♪この調子でお客様を楽しませてちょうだい♪」
「あ~伊吹の奴、電話に出ないぞ!こうなったら家まで行くか!」
店長はバタバタと外で出る支度をし出す。
ちょうど外から戻って来たスタッフが慌てる店長を見て不思議そうな顔をしていた。
まったく伊吹の奴、俺が頑張ってる時に何してんだよ。
俺も店長と一緒に行きたかったけど、ぐっと堪えてスマホを取り出し営業メッセージを始める。
今は我慢だ。伊吹の好きにやらせてやる。
所詮客は客だ。伊吹が客を好きになったとしてもいつか後悔する時が来る。
そん時に俺が伊吹を嫁に貰ってやるんだ。
それまで俺はひたすら稼ぐ事に集中するんだ。
✳︎✳︎✳︎完✳︎✳︎✳︎
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