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第84話
「それは、ケイレンに借りてるお金も結構あるから嬉しい、けど‥あのお茶作るだけなのに‥」
と呟いたジュセルに、すぐさまケイレンが反応した。
「だからそれは気にしなくていいって何度も言ってるのに、ジュセル」
「‥俺は気になるの」
そんな二人を見ながら、アニスがくすくすと小さく笑っている。スルジャは軽くため息をつきながら言い添えた。
「今から色々作ってもらうのは、売り物じゃなくて関係各所に確認してもらうための試作品なんだ。だからその分の料金は安いけど、正式に販売することになったらもっとちゃんとした売上金が入るはずだし、それに」
スルジャはそこで言葉を切って、ジュセルとケイレンの二人をじっと見た。面白そうな、しかしどこか哀愁じみた目つきだった。
「‥‥多分これが軌道に乗れば、ジュセルは信じられないくらい、大金持ちになると思うよ」
言われたジュセルは目を丸くしてきょとんとするばかりだったが、ケイレンの顔がぐっと引き締まった。スルジャはその目を見てわずかに頷く。
その能力もさることながら、金を生むものとしてもジュセルには途方もない価値がついてしまう。この先、不用意に一人で出かけたり見知らぬものと触れ合ったりするのは危険が伴う。その分、お前が守れよ、というスルジャの牽制だった。
一方、ジュセルの方は急に大金持ちになれると言われても全く実感がわかない。ただ、とりあえず収入の心配はしなくてよくなるらしい、ということだけを飲み込んで安心していた。
アニスは、三人の様子をそれぞれ観察しながら微笑ましく見守っていた。
その後、毎日スルジャの部屋でお茶‥いや、回復薬の体裁をとるためにお茶ではなくその抽出物を精製することになったジュセルは、スルジャの厳しい指導になんとかついていっていた。神経を使う作業が続きぐったり疲れてしまうため、食事の支度も満足にはできず、簡単なスープと炒め物ばかりという日々が続いた。
ジュセルは食事の支度も自分の仕事だったのに、と申し訳なく思っていたが、ケイレンをはじめとして誰もそのことに関して文句など言わなかった。ジュセルが作るものをいつでも美味しいと言って平らげてくれる三人がありがたい。
そして製造・精製作業を始めてからすぐに、近所に住む子どもを巻き込んでの襲撃事件がまた起きた。子どもが無事で何よりだったとはいえ、肝が冷えた。自分のせいで、全く関係のない他人を巻き込む可能性もあるのだ、と突きつけられたジュセルは、また少し気分が塞いでしまった。
油断のできない状況は依然続いているのだと、ジュセルになおも知らせてくるかのようだった。
そういった精神的な抑圧や、慣れない回復薬の製造・精製作業などで、すっかりジュセルは疲れてしまっていた。
「ジュセル、色々環境が目まぐるしく変わりすぎて疲れてないか?」
子どもを巻き込んだ襲撃をかわし、犯人を市中警備隊に引き渡してからようやく一息ついて入浴を済ませ、応接室の長椅子に座り込んだジュセルに、ケイレンが温かいお茶を淹れて持ってきてくれた。香り高い、高級なお茶だ。ケイレンが買ってくれていたのだが、貧乏性なジュセルが来客の時にしか使わないようにしている茶葉だった、
「‥ありがとう」
ジュセルは素直にカップを受け取って口に含んだ。豊かな香りと温かさが身体を包み込んでくれる。それが身体全体を解きほぐしてくれるようで、思わず身体の力が抜けた。
ケイレンはジュセルの隣に腰かけて肩を抱き、自分の方に引き寄せた。
「‥ジュセルが、色んなことに思い悩んでるのはわかってる。‥それを‥軽くしてやりたいのに、できなくて‥‥ごめん」
そう言ってジュセルの髪に顔をうずめる。ケイレンの身体が少し震えているのがわかって、ジュセルはケイレンの身体に手を回した。
「ケイレンのせいじゃないし、そんなこと言うなよ。‥そういう運命だったんだよな。俺が、もっとちゃんとできたらいいんだけど‥いちいち落ち込んで、心配かけて‥俺の方こそごめん」
そう言われてケイレンは両手でぐっとジュセルを引き寄せて抱きしめた。そして、顔を寄せてその唇に口づける。突然のことに驚いたジュセルの身体が硬くなる。しかし、ケイレンは構わずにジュセルの唇を舌で割り、その口腔に侵入した。
ぐるりと咥内を愛撫され、びくりと体が反応する。しかし、それだけでケイレンは舌を引っ込めて、唇にちゅっと音を立てて口づけると自分の唇を離した。
ジュセルはその短い口づけだけで、もう腰が抜けそうだった。
「ジュセルが謝ることなんて何もない。‥俺の気持ちの問題だから‥ジュセル」
「え、はい?」
「寝ようか」
そう耳元で囁いてくるケイレンの声に腰が砕けそうになる。
伴侶用の寝室にある寝台は、ケイレンに頼み込まれたアニスがこれ以上ないほど頑丈に修復してくれていた。そしてそれは今日の昼に完成したのだ。既に掃除も済んでいる伴侶用の寝室にもう設置してあるのを、ジュセルは知っている。
「う、うん‥」
断る口実が見つからず、おぼつかない返答をする。ケイレンはすっくと立ち上がり、ジュセルの手を優しく引いた。
「‥ジュセル、最近あんまり寝れてないだろ?」
ゆっくりと歩きながらそう尋ねてくるケイレンに、ジュセルは黙って俯いた。
寝台に入ると色々なことを考えてしまって、なかなか寝つけない日々が続いていた。布団に入ってふと考え事をすれば、おのれの将来について不安が迫ってくる。夜に物音が聞こえれば、暗殺者ではないかと神経が逆立つ。
結果、なかなか眠りにつくことができず、睡眠時間が随分と少なくなっていた。
立ち止まって、こくりと頷いたジュセルにケイレンは囁いた。
「寝られないのは、色々考え過ぎてるからだろ?」
少し迷った末に、ジュセルはまたこくりと頷いた。ケイレンはそのジュセルの頭を手で覆って、自分の肩にのせるようにくっつけた。
「‥‥考えるな、って言っても、ジュセルは考えちまうだろうから‥」
そこまで言ってから顔の向きを変え、またジュセルの耳元に唇を寄せた。
「俺が、考える暇がないようにする」
その言葉の意味を咀嚼したジュエルは、かーっと顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。ケイレンの低くて少しかすれた声が色っぽくて困る。え、考える暇がないように‥って、なんか、するってこと、だよな‥?えーと最後まではしないって言ってたけど‥ど、どうする気なんだろ?
そんなジュセルの焦りも知らず、また手を引いて歩き出す。伴侶の寝室の前まで着くと、扉をケイレンが開けた。広い部屋の中心に、柱の彫刻も美しい大きな天蓋付きの寝台が鎮座しており、ご丁寧に天蓋からは薄布までかけて下げられていた。
(‥アニスってばこんなのまで買ってこなくてもいいのに‥)
「ジュセル」
ケイレンは微笑みながら名を呼ぶ。その声が明らかに甘くて、また恥ずかしさが増した。
「うん、‥寝、よう‥か」
「そうだな」
ケイレンはそう言うと腕をジュセルの身体に回して横抱きに抱き上げた。
「うわ!」
焦って変な声が出てしまったジュセルに構わず、ケイレンはそのまま寝台に進んでジュセルをそっとその上に下ろした。柔らかい布団の上に優しく下ろされて、それだけで顔が赤くなる。
ぎしりと音を立ててケイレンも寝台に上がってきた。横たわっているジュセルの顔を囲うようにして覆いかぶさってくる。
「ジュセル」
「え、んんっ」
頬を押さえられ、のむこむようにして唇を合わせてくるケイレンの熱が、ジュセルの身体を包み込んでいく。身体全体で押さえつけるようにして抱きこまれ、ふっと安堵感が襲ってきた。
「ケイ、レン」
「ん、っ」
呻くように名を呼んだジュセルの唇に、ケイレンはまたむしゃぶりついた。性急にジュセルの寝間着を乱していき、ややふっくらとした胸を露わにする。冷たい夜気に晒されて、思わず身体がびくんと震えた。
ケイレンは興奮を抑えながらジュセルの頬に口づけた。そしてそっと掌でジュセルの胸に触れた。大きなケイレンの掌が少し膨らんだ胸と、乳首をも覆ってきて、その刺激に思わず声が洩れそうになる。
「っ、」
「かわい、ジュセル」
ケイレンはそう言ってゆっくりと胸をさすった。大きな手のひらが柔い胸の上を撫でていき、乳首をも刺激してそこが少しずつ硬くなっていく。あまい感覚がじわじわと胸から腰へ溜まっていくようで、思わずジュセルは身体を捩り膝をこすり合わせた。
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